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1周目から裏面

 蓋のように持ち上がった地面を眺める。


 ――のよう、ではなくリアルに蓋だった。


 3センチほどの厚さで、縦横1メートルぐらい、裏側は細かく穴の開いた金属板で、そこから突き出た草の根が絡まり合っていた。


「鍵も罠もないんですか」

 カゲヤの背中越しにエクスナも覗き込みながらそう尋ねた。

「ここに仕込みすぎると、それで露見する恐れがあるので。この奥にはそういったものも多く仕掛けられているため、先に行かないようご注意ください」


 地面に開いた正方形の入り口は、けっこう深くまで階段が続いていた。


 最後に蓋を閉め降りてきたカゲヤが、片手に明かりをもって先導する。短い持ち手に黄色い石がはめ込まれた魔道具である。石はブリリアントカットみたいに細かい加工がされており、中心に灯る明かりが乱反射されてけっこう広く闇を照らしてくれる。


 階段から先は、1本道が続いた。


 カゲヤはところどころで壁のスイッチを操作したり鍵を解錠したり床の踏む位置を指定したりと、後続の私たちに注意しながら進んでいく。


「ずいぶん歩きますね」

 それらの仕掛けを興味深そうに観察しているモカが口を開いた。声が周囲一帯に反響する。

「はい。先程は単に抜け道と説明しましたが――このまま中枢まで繋がっていますので」

「え……?」


 通路は、やがて登り階段へとたどり着いた。

 さっき地表から下ってきたときより、さらに長い階段を上がっていく。


 そして終点には、立派な扉があった。重厚で飾りまでついている。

 そこの鍵もカゲヤが懐から出した鍵束で開け、抜けた先はちょっと広めの部屋だった。

 

 白嶺から見下ろした王城の外観と同じように、黒い金属が床も壁も天井も覆っている。

 そして部屋の中央には、


「――ゴーレムだ」


 ぽつりと私は言った。


 そう、そこに立っていたのは2メートルを越える高さの人を模した石像だった。

 濃い緑色の石でできており、手足が太く長く、頭部は球状で目鼻はなし、額のあたりに紅い宝石がはめ込まれている。


 ぴくりとも動かないのでぱっと見は彫刻のようにも見えるけど、私の眼にはその内で輝く魂が見えていた。


「ゴーレムダ? ……失礼ながらなんのことでしょう?」

 カゲヤが尋ねる。

「ああ、ごめん、にほ――向こうの言葉でね、動く石像のことをそう言うんだ」


 バランは彼らにも日本語の習得を指示しているが、あくまでそれは天上でのみ使う言語だと説明していた。


「なるほど、あれが動くとひと目でおわかりになるのですね」

「うん、まあ……、これ以上近づいたら攻撃してくるとか、かな?」

「まさしく。ですので少しこの場でお待ち下さい」


 そう言って、カゲヤはひとりゴーレムへと近づいていった。


 額の宝石が輝き、ゴーレムも動きだす。

 人の上半身ぐらいありそうな拳を振り上げ――


「ふっ」


 ――振り下ろす間もなく、カゲヤの正拳突きに吹き飛ばされた。


「あの方もたいがいおかしいですよね」

 エクスナが頬を掻きながら言う。

「例のレベル測定以来、軍の上層部がだいぶ騒いでいたぞ。魔王様とサーシャ様が抑えていたようだが」

 リョウバは苦笑していた。


「――通行を許可します」


 吹き飛ばされたゴーレムが急に喋った。


「あ、喋れるんだ」

「はい。一定以上の攻撃を加えるのが通行許可となります。多少の破損は自動修復するようです」


 なんとも力任せな仕組みだ。


 吹き飛んで倒れているゴーレムを迂回して、奥の扉を開く。


 その先はまた細長い通路。ここからは絨毯が敷かれている。そして終点は黒いカーテンで覆われていた。

 カーテンが左右に開く。


「――ご足労をおかけしました」


 待っていたのは、7名の人族。


 男が4人と、女が3人。

 見た感じ、夫婦と、その子どもたち5人といったところかな。


 大きなテーブルが中央に置かれた部屋で、7人共座らずにこちらを出迎える。


「お久しぶりでございます、カゲヤ様」

「こちらこそ、無沙汰を致しました」


 そして真ん中に立ちカゲヤに声をかけた年配の男は――実にもうわかりやすく、みごとな王冠を被っていた。


「お初にお目にかかり光栄でございます、イオリ様」

 男は私に向けて穏やかな微笑みを見せる。

「ラーナルトの国王を務める、エイブンと申します」


「……はじめまして、イオリといいます」


 私は辛うじてそう返した。



 ――ラーナルト王国の中枢、その極一部は魔族に通じている。

 

 国全体を魔族に寝返らせるといった約定ではなく、あくまでラーナルト王国と国民の存続を前提とした上で、できる範囲の便宜を魔族にはかっている。

 

 首都の外壁近くに、審門を回避して王城に潜入できる抜け道が存在する。


 ――カゲヤが秘密保持の魔道具を使った上で私たちに説明したのは、だいたいそんなところだった。


 まさか、いきなりこっちの王様のひとりと会うことになるとは。


 ……驚きと緊張でうろたえている私を楽しむ魔王の微笑みが浮かびやがるぜ。


 双方の簡単な挨拶と紹介を済ませた後、大テーブルに座って会談となった。

 出されたお茶もえらく上等で、白嶺踏破から軽い休憩だけで冷え込む地下道を歩いてきた私たちを温めてくれる。


「こちらからの議題は、大きく2点ございます」

 口火を切ったのはカゲヤだ。


「まず先触れでお伝えした通り、こちらのイオリ様がラーナルト王国をはじめ、人族の領土を視察することとなりました」

「天上に住まうお方が、人族の世界を見て知見を得られるため、とのことでしたな」

 ラーナルト王がゆっくりした口調で言う。

「はい。もちろん、やむを得ぬ場合を除いて戦闘行為は避けるつもりでおります」

「――工作はしない、とは仰って頂けぬのですな」


 図画工作のことじゃないよね、もちろん。


「……率直に申し上げて、工作、と言える範疇なのか私には判断できません」

「ふむ?」

「これは2点目の議題になってしまうのですが――、失礼」


 カゲヤは立ち上がって、壁に置いておいたリュックから荷物を取り出した。

 そしてテーブルに乗せたのは、ひとつの道具と、用紙の束。


「我々はイオリ様のご協力のもと、魔族と人族とに関わらず公平に戦力分析するための道具を開発しました。――レベルと、ステータス、この概念を人族に広めて頂きたい」

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