表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/277

RPGよりアクションでヘイトを溜めそうな敵

 私の顔を見た瞬間に逃げ出した青い魔獣を追いかけ、角をもぎ取って戦場へ帰還すると風景が一変していた。


 さっきまで立ち込めていた雪煙がなくなり、陽光が白銀を照らしている。

 なんだ、なにがあった?


 ――モカとエクスナは無事。カゲヤが地上、リョウバとシュラノは崖の上、シュラノの魔力が底を尽きかけている、空中に謎の黒い球体、気配からしてあの魔獣、たぶんバリアか何か――


 視界に入る情報を、一瞬で脳が処理してくれる。


 ――ぷすり、と服の袖から煙が一筋。

 バランが用意してくれた頑丈な登山服だけど、さすがに両手からの電撃には耐えきれないか。

 さっきの魔獣の攻撃で破れた箇所もあるし、あられもない姿になる前に片付けないとね。


 それじゃあ、まずは強度テストだ。


 右手に持った角を投擲。

 崖の上で投げたときと違って足場がしっかりしているので、当社比2倍ぐらいの速度だ。


 勢いよく回転しながら空を切り裂く角が、黒い球体に接触し、


 切断した。


「ギャガァアァァァッ」


 球体と、中にいる魔獣ごと。


 2つに割れた球体は煙となって消え、

 魔獣の右肩から先が、ぼとりと落下する。


「――アァァアァッ」

 叫びながらも、魔獣は退く様子を見せず、どころか私めがけて口から黒い粘液みたいなものを飛ばしてくる。


 距離もあるし、楽に躱す。

 背後の岩がジュウウッ、と音を立てた。


 そして私が回避している間に、魔獣は矛先を変えてモカたちの方向へ――


「通さん」

 カゲヤが彼女たちの前に立ちはだかり、

「そっちの方がいい立場だな」

 リョウバが弾幕を張る。


 そして私は無防備な魔獣の背中めがけて

「とうっ」

 3本目の角を投げる。


 慌てて回避行動に移った魔獣だけど、遅い。


 片方の翼が、半ばから断ち切られた。


 今度こそ本体が落下していき、


「ていっ」

 私は岩場から大ジャンプ!

 イメージするのは、そう、『大将軍に俺はなる』的な彼!


「その首もらったっ」

「――だ、駄目です! 胴体を!」

 え? モカ?


 既に最後の角を振りかぶって滞空中だけど、どうにか姿勢を変える。

 雪面に衝突した魔獣の首ではなく、彼女の言う通りに胴体へ一撃を見舞った。


「――――――ッ!!」


 突き刺さった角が体内から電撃を流し、言葉にならない悲鳴を上げた魔獣は、やがて息絶えた。



「ふう」

 ここまでで一番手強い魔獣だった。


 よく考えたら、このエリアって魔族領土に入る最終ラインで、雪山で、つまりはロンダ○キアみたいなものなんだよね。

 そりゃモンスターもえげつないことになるか。

 もしかしてこの旅って、進めば進むほど敵が弱くなるのか?


「イオリ様、お怪我はありませんか」

 カゲヤが駆け寄ってくる。私と違って、雪面だというのに素早い足取りだ。

 ……いや、私が重いわけじゃない! カゲヤの技術が優れているんだ!


「大丈夫、ちょっと服がボロっちくなっただけで」

 答えながら私は、崖から降りてくるシュラノとリョウバを見る。

「なんでシュラノはあんなに魔力減ったの?」

「はい、先程の雪煙を消すため、風を呼ぶ魔術を行使したためです。呼び込んだ風がさらに雪を舞わせないよう、制御に相当な魔力が必要だった模様です。ここまで連発した索敵魔術と合わせて、限界に近かったようで」

「ああ、なるほど……」


 今夜もなにか、エクスナに美味しいものを作ってもらってねぎらわないと。


 そしてリョウバたちと反対方向からは、モカとエクスナが歩いてくる。


「うわ、こっちは結構ケガしちゃってるじゃん! 手当て手当て」

 わたわたする私に向かってふたりとも「大したことありません」と笑う。


「それよりイオリ様、ありがとうございました」

「へ? なにが?」

「最後の攻撃、軌道を変えて頂いて」

「あ、そうそう、あれなんでだったの?」


 するとモカは、魔獣の死体を指さした。


 見ると、死体の周辺に積もっていたはずの雪は溶け、黒い岩肌が見えている。そしてその岩肌の一部が、じわじわと泥のようなものに侵食され、崩れていっている。


「あのバーシャルという魔獣は、血液が腐食性を持っています。血狂いとなって各能力が上がっているようでしたので、おそらく腐食性も強力になっているものと思いましたが、その通りでした」

「ああ、そうなんだ。……じゃあ、胴体に突き刺したのもまずかった? 殴り殺したほうがよかったのかな」

「あ、いえ……」

 モカは引きつったような笑いを見せ、

「その……、この位置でイオリ様が魔獣の首を落とすと、血液がこの方向へ噴出することになります」


 モカは魔獣の頭部から直線上へと手で示す。


「うん、そうだね」

「それで、あのあたりには、荷車が雪に埋もれていたはずで……」

「なるほど」


 私があのとき首を断ち切っていたら、

 血がプシューって吹き出して、

 その方向に積もっている雪を溶かして、

 その下に埋もれている、大事な荷物を積んだ荷車に、腐食性の血液が――


 ……あぶなかったー!


「ごめんモカ! ありがとうっ!」

 ぎゅーっと、モカを抱きしめる。


 ここは白嶺のおおよそ中間地点。

 こんなところで荷物を駄目にしたら、マジで遭難するところだった!


「あ……、イオ……くる……」


「イオリ様、モカが死にそうです」

「はっ」

 エクスナの声で我に返った。

 戦闘直後で、まだ力加減のモードが切り替わったままだった。


「ごめんごめんごめん! 大丈夫っ?」

 慌ててモカを解放し、けほけほと咳き込んでいる背中をさすった。


「はい……、お役に立てて何よりです」

 そう言ってモカは嬉しそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ