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断章:パーティプレイ


 ひとまず互いに重傷は負っていないことを確認したモカとエクスナは、近くの雪溜まりに隠れてから頭上の状況を確認した。


 といっても雪煙で視界が塞がれているため、音だけでの判断だ。


「投擲音、それも巨大で歪な何か」

 とエクスナが言う。


 それはモカにも聞こえた。

 ブォン、ブォンと野太い風切音を上げる何かと、続いて響き渡る魔獣の悲鳴。


「……たぶん、あれじゃないですかね。イオリ様がなんだか気に入ってらしたあの折った角」

「え、あの大きな? あんな崖にしがみついた状態から投げるなんて……できなくは……ないのかな……」

 喋りながら、まあイオリならできるだろうな、と考え直すモカ。


「私、天上に住まう方々ってもっと穏やかなのかなと思ってましたけど、違うんですね。イオリ様、だいたい先陣切りますし、戦ってるとき、なんか楽しそうですし」

「……ま、まあ神々が司っているものも様々だし、イオリ様はこの地上に降りてきたぐらいだから、戦争に耐えられるぐらいの力をお持ちなのでは」


 モカは、イオリの身体が作られたものだということを知っている。

 だがそれはロゼル班内での極秘事項となっていた。


 なおイオリが天上どころかまったく違う世界の人間だということは、さすがのモカも知らない。

 それを知っているのは、現時点で魔王、バラン、サーシャ、ロゼルのみである。


「あ、跳んだ」

「え、そんな」


 崖を蹴る音、さっきより鋭い風切音、「まいどぉ」というイオリの声。


「イオリ様って、そこはかとなく緊張感がないですよね」

「あはは……」

 強者ゆえの余裕、というやつなのだろうか。


「――あら?」

 そしてそんな声の後に地上へ響く落下音。


「……落ちましたか?」

「うん、どうしよう助けに行っても――」


 もとから戦力が低いうえに負傷している私たちでは助力になるのか、そんな意味を込めたモカの言葉に、エクスナはきょとんとした。


「モカも意外と好戦的ですね」

「えっ!?」

 自己評価とは真逆の言葉に、モカの脳がフリーズする。

 好戦的? 私が? いつも班長に巻き込まれて半泣きで戦地を逃げ回っていた私が!?


「心配しなくてもイオリ様は簡単にやられませんし、先に動くべきなのは上でしがみついてる野郎どもですよ。私たちはここで動いて死ぬほうがまずいです。こんな序盤で員数を減らすのは下策ですよ」

「あ、そうか、な……?」

 普段、暴走するロゼルのフォローにまわるのが常だったモカにとって、こうした急場で自分が静観するという発想がなかった。


「なので私たちはひとまず休憩しましょう。そうはいっても寒いですし、その谷間で手とか温めさせてくれませんか?」

「この場ではだけろと!? いやていうか同性でもだいぶ嫌だよ!」

「イオリ様には裸で寝ようって言ってたじゃないですか」

「言ったのはそっちでしょ!?」


 言い合っているふたりをよそに、地上に落下したイオリもシュラノへ何か叫んでいた。


「イオリ様が場を離れたようですね、さて、あの魔獣がどこを狙うか」

 エクスナはしっかり聞き取っていたらしい。

 

 ばさり、と魔獣の羽音が聞こえた。


 向こうも視界は効かないようで、上空を旋回しているらしい。


「あ、まずい」

 エクスナの小声。


 うっすらと黒い影が、モカたちの上空に姿を見せた。

 こちらから見えたということは、向こうからも見えるということ。

  

 羽ばたきが、大きくなる。


 雪煙の奥から、黒翼の魔獣が姿を徐々にはっきりと見せ――


 突風が吹き荒れた。


「!?」

 驚いたモカの身体を押さえ、エクスナが諸共に身を伏せた。


「ギィ?」

 困惑したような魔獣の鳴き声。


 風は雪上に伏せたモカたちを浮き上がらせそうな勢いで吹き荒れる。


 その風もやがておさまり、

「……いい天気ですね」

 エクスナが呟いた。


 立ち込めていた雪煙が、綺麗さっぱり消失していた。


 魔獣の姿もはっきりと視認できる。

 風に流されたか、さっきとは違う位置だ。


 すかさず連射されるリョウバの魔弾。


 魔獣が4本の腕で防御姿勢になった瞬間、崖を蹴ってカゲヤが飛び込む。


 一直線に槍が突き出され、


「ガァッ」

 魔獣の身体から溢れた黒い煙が、その全身を覆い隠す球体を作り上げた。


 カゲヤの槍は切っ先が僅かに球体へ刺さるものの、内にいる魔獣には届かない。


「くっ」

 槍が抜け、地上へ落ちていくカゲヤ。


 リョウバが射撃を再開するが、黒い球体に阻まれる。


「シュラノ!」

 着地したカゲヤが叫ぶが、

「魔力切れ」

 崖の上から力のない答えが返る。


「めんどくさい相手ですねえ」

 うんざりした顔のエクスナが、ふと視線を明後日に向けた。


「なに?」

 つられてそちらを見たモカの目に、


 光り輝く存在が映った。


 巨大な岩場の頂上、

 両手に雷を纏う巨大な角を1本ずつ持ち、

 足元にもさらにもう1本の角を突き刺し、


 全身が帯電してバチバチと光っているイオリがそこに立っていた。

イオリ 「角が太すぎて、三刀流は無理だった」

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