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ドロップアイテムの使い方

「これって武器の素材とかになるかな?」


 撃退した魔獣の角を手に、私は訊いてみた。


 へし折った角は、私の身長よりちょっと上ぐらいの長さである。

 葉の散った枝の多い木みたいなシルエット。


 モカが近づくのをためらうように足をそわそわ動かしながら口を開く。

「あの、明らかに雷を放ち続けているように見えるのですが、イオリ様は大丈夫なのですか?」

「うん」


 角は折れた今もなお勝手に電気を流し続けるみたいで、右半身にぴりぴりとした刺激が伝わってくる。でもそれだけだ。


「……班長がいなくてよかったとつくづく思います。興味本位で飛びついて大火傷する光景が目に浮かびますので……」

 

 それは私にも容易に想像できた。


「ちょっと研究したくもありますけど、残念ながら私には扱う手段が思いつきません……」

「そっか、どうしよっかな? 私にはよくわからないけど、威力はあるのかな」

「――失礼します」


 カゲヤが足元の雪をのけ、小石を拾って角の先端へと放る。


 パン! と音を立てて小石は砕け散った。


「……そのまま振るうだけで強力な武装になるかと。しかし柄を取り付ける作業ができそうにありません。イオリ様ご自身が振るわれるなら問題なさそうですが――、持ち運びには不向きですね」


「うん、じゃあ今日はこれで戦ってみて、電が切れたら捨てようかな」

 今のところ私は完全にステゴロ専門の脳筋キャラなので、せめて武器ぐらい使ってみようと思ったのだ。


「一撃でエクスナあたりは即死すると思われますので、間合いにいる際はうまく避けるように」

「なんで私に言うんですか! イオリ様に注意するとこでしょう!」

 


 ということで、バチバチと光る角を手に、雪山を進む。

 ……既にだいぶ邪魔なことに気づいているが、せっかくのドロップアイテムだし、1度は使ってみないともったいない。


「今、どのぐらいまで来てるのかな」

 カゲヤに訊くと、

「下山まででしたら4割ほどですね」

 という答えが返ってきた。


 既に道らしきものはなく、尖った峰と峰の間にある隙間のような地形を進んでゆく。既にここも相当な高所だが、あたりにはまだ遥か上まで届く山々が立ち並んでいる。ところどころで迂回しつつ、前方にまた新たな頂が見えた頃、


「正面上空から1頭、高速、10秒以内に到着」

 シュラノが声を上げた。


 しかし便利だな、この能力。


 見上げた空に、ぽつんと黒い点が見え、それがあっという間に大きくなった。

 こちらに向けて急降下し、30メートルほど上空で反転、翼を広げて滞空する。

 風が吹きつけられ、地面の雪が激しく舞った。


 大きな翼、人間型の胴体、肩からと鳩尾の左右あたりから計4本の腕、額から伸びる1本角、黄色く光る瞳、黒い肌。


 いわゆるデーモン型のクリーチャーが、空から私達を睨みつけていた。


 そして、

「え!? みんなっ、推定レベル150ぐらいある!」

 私の言葉に、パーティメンバーの緊張感が高まった。


 白嶺に生息する魔獣は、それこそ常時戦争状態の大荒野や獲物の豊富な平地と違って戦闘の機会が少ない。

 よってレベルが上がりにくいが、初期ステータスが高めという傾向にある。


 そのフィールドで、これだけのレベルを誇るということは、

「――血狂い、ですね」

 1歩前に出て槍を構えたカゲヤが魔獣を睨み上げた。


 戦闘を経て強くなる感覚に味を占めた魔獣――食事ではなく殺戮自体が目的になった危険個体。

 それらは『血狂い』と呼ばれ、発見次第退治、もしくは人族の軍隊に誘導するのが決まりになっているということだった。


 空に浮かぶ魔獣は、すぐには襲ってこず、じっとこちらを観察している。


「……おそらくバーシャルという有翼魔獣だと思いますが、普通はもっと小型で、腕も2本ですし、色合いも灰色で……」

 モカが自信なさげに言う。


「バーシャル……、たしか知能が高く小技の多い魔獣でしたね?」

 カゲヤが目線を魔獣から切らずに尋ね、

「はい、脳を揺らす咆哮や毒のある爪は特に注意を」

 早口でモカが答えた。


 陣形はさっきと変わらず、私とカゲヤが先頭に。

 

 バーシャルという魔獣は、ふと視線を逸らすと私たちを迂回するように飛行し、右手にそびえる崖から一抱えもある岩を掴み取った。


「――全員回避を!」

 即座にカゲヤが声をあげる。


 しかし魔獣は掴んだ岩を、私たち――ではなく、荷物を積んだ荷車めがけて投げつけてきた。


「っ!」

 とっさの判断で、私は跳躍する。


「よっ――と!」

 飛んできた岩を、手にしている角で打ち返した。

 野球みたいにピッチャー返しできるかと思ったが、岩は爆発するように砕け散ってしまった。


 着地して角を確かめると、枝の部分がいくらか破損していたが、まだ武器になりそう。


「初手で荷物を潰して気勢を削ぐ、か……。嫌らしい魔獣だな」

 右手を戦闘モードに変えたリョウバが低い声で呟き、魔獣めがけて連射した。


「!!」

 魔獣は急上昇してそれを躱す。

「終わらないぞ」

 リョウバは弾幕で薙ぎ払うように魔獣の周囲を狙って撃ち続ける。

「ギッ……!」

 魔獣は4本腕で避けきれない弾をガードしながら、岩陰に隠れてしまった。


「場所を変えて出てくるか、物陰から投石をするか……」

 選択肢をカゲヤが挙げていき、

「どっちでも落とす」

 リョウバが右手を構え、

「左手に移動中」

 シュラノが索敵を行う。


 そして、


 ――ドムッ、という爆破音が鳴り響き、頭上にそびえる山の頂から真っ白い大波――雪崩が襲いかかってきた。

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