おやつを食べながら
ロッ○バスターと化した右腕を魔獣に突きつけるリョウバ。
そして私の期待通り、その銃口から魔力の弾が3連射される。
うん、実にいいね!
1発目が魔獣の足場を砕き、2発目が胴体の中央を射抜き、3発目が心臓のあたりを貫いた。
魔獣は悲鳴を上げながらその場から飛び跳ね、数歩進んだところで横ざまに倒れ込んだ。ピクピクと痙攣している。
「すごいリョウバ! ねえあとでその腕見せて!」
思わず声を上げてしまう私。
リョウバはちょっと驚いた顔になるが、すぐに笑顔を浮かべる。
さて、あと2頭はどうなっているか。
「グァオゥ!」
吠え立てながら突進する魔獣を、先ほどと同じように魔法陣で跳ね飛ばすシュラノ。
しかも今度は跳ね飛んだ方向にまた魔法陣を浮かべ、角度を変えて魔獣をさらに吹き飛ばす。まるでビリヤードみたいに。
それを何度か繰り返し、最終的に魔獣は私たちが登ってきた道よりさらに向こう、すなわち崖底へと落下していった。
「器用かつえげつない戦法ですね。跳ねてる間、無力感で泣きたくなりそうです」
お茶をカップに注ぎながらエクスナが言った。
「遠距離にあれだけ素早く陣を展開するのって、すごく難しいはずなんですけどねえ」
モカは感嘆混じりの声を上げる。
「私、あんな感じのこと魔王様にされたよ……」
トラウマを思い出してため息をつく私にふたりが目を見開いた。
そして最後の1頭。
「ゥグルルル……」
唸りながら歯を剥く魔獣だが、立ちはだかるカゲヤを相手にまったく距離を詰められないでいた。
カゲヤ自身は自然体で立っており、殺気も表に出していない。あまりに平然としていて、なんだか市役所とか銀行のとっつきづらい窓口みたいな感じにも見えてしまった。
魔獣はカゲヤを迂回して私たちを狙おうとしている気配を感じるが、その度にカゲヤが1歩踏み出すだけで阻止する。お客様、恐れ入りますが順番をお守り頂けるようお願いします、みたいな。
「残り1頭になったんだから、普通は逃げますよねえ」
ドライフルーツのケーキを食べながらエクスナが言う。
「よっぽどお腹空いてるのかな」
私が聞くと、うーん、と彼女は首をひねる。
「その可能性もありますけど、まだ体力に余裕はありそうですし……、どっちかというと『逃げたら怒られる』が理由かなと」
「……ああ、つまり奴らのボスが背後にいるってことね」
私たちが話しているうちに、魔獣は覚悟を決めたらしい。
一直線に突進し、寸前で横にステップし、カゲヤの脇腹に食らいつこうとする。
ゴヅン!
鈍い音を立てて突き刺さるカゲヤの拳。
「うわ、いったそう」
顔をしかめるエクスナ。
どさりと、魔獣の身体が崩れ落ちた。
額が陥没している。
即死だったらしく、その身体から魂が天へと昇り、ごく一部の欠片――経験値がカゲヤの中へ吸い込まれていった。
そっか、魔獣相手なら、カゲヤとエクスナしか経験値入らないんだった。
次からそのへんも気にしたほうがいいよね。
カゲヤは息ひとつ乱さず声をあげた。
「――シュラノ、すみませんがもう一度探査を」
「もう済ませた。前方右、距離70、12頭の群れ」
「……少し多いですね。場所を考えます」
「まあ、向こうも警戒しただろう。まずは休憩しようか。エクスナ、悪いが私たちにもお茶をもらえないか」
リョウバがこちらに戻ってきてそう言った。
「いいですけど、あれ見えないとこにどかしてくださいよ。優雅な気分に浸れませんから」
リュックから追加でカップを取り出しながらエクスナが表情を変えずに、獣の死骸へと目を向けた。
「へえー、ほんとに金属みたい。銃口は空いてないんだね」
戦闘モードにしたままのリョウバの右手を観察する私。
彼の右手、肘から先は赤い金属の円筒形になっている。銃口は少し凹んでいるだけで、内側にはより紅い球が埋まっていた。
ちなみにこの世界はおそらく銃が存在しない。少なくともバランにもらった教本には、それに該当する言葉はなかった。そうするとリョウバ自身のイメージとしては銃器じゃなくて魔道士の杖みたいなものなのかもしれない。
リョウバは楽しげに私に右手を預け、左手でお茶を飲んでいる。
「ねえ、今はどんな感覚なの? てのひらとか、指先とかはなくなってるの?」
「そうですね、握った拳が固まっているような感じでしょうか」
「あ、この丸い玉が拳?」
「ええ。連発しすぎてこれにヒビが入った際は、戻したときに拳が砕けておりましたから」
「うわー、そうなんだ……。発射するのは、なんか引き金とかあるの?」
「いえ、基本的には魔術の行使と同じですから。魔力を制御しつつ念じるだけです」
――魔力ゼロ、魔術は一切使えない私にはそこのイメージが湧きづらかった。
私が満足して、リョウバが戦闘モードを解除した後、
「夜になる前に、撃退しておきたいところですね」
お茶だけを飲みながらカゲヤが言った。
「目視できれば、狙撃できるが」
こちらは2個目のケーキを齧りつつ、リョウバが前方の山を見据えている。
「最も大きな個体は、射線に顔を出してこない」
シュラノは定期的に周辺捜査の魔術を行使していた。
――ううん、頼もしいな。
「ねえ、夕食は私たちが作ろうか」
女子ふたりにそう提案すると、
「さすがですね。これだけおやつを食べながら夕ご飯を考えるとは、食いしん坊の才能に溢れていますよ」
エクスナが嬉しそうに言った。
――違う! たしかにこの身体は燃費が悪いけど、今はそういうんじゃないだ!
「いや、ほら、戦闘は任せたから、食事の支度ぐらいはって、決して食べたりないとかじゃなくて!」
「ええ、わかってます」わかってない顔でエクスナは頷く。「とにかくそれには賛成です。正直、あの男共においしいご飯が作れそうかっていうと期待ゼロですから」
「……私はあんまり他の方のことは言えません……」
申し訳なさそうにモカは肩をすくめた。