結果発表
レベル測定の間には、ランキング表を設けてある。
『モチベーションも上がりますし競争心や対抗心を煽るうえに承認欲求も満たせます。あと何かの本で読んだんですけど、実際の記録を目にすると、同じ人間が達成したなら自分もできるはずという認識が発生するそうなんです。そうすると年々記録更新される頻度が上がるとかなんとか』
『うむ、単純に見て楽しめそうだしな、採用しよう。――腕が鳴る』
『言っときますが魔王様は最初から殿堂入りなのでランキング載せませんよ』
『なんだと』
『心をへし折る記録というものも存在するんです。自重してください』
そんなやり取りもありました。
で、今日の参加メンバーが全員測定を終えた項目から、ランキング表が埋められていった。
こちらの世界には液晶モニタみたいな電力で画面を表示する機械はない。代わりにあるのは、白い石版に魔力で文字や記号を浮かび上がらせる道具である。
壁にかけられた特大の石版に、1位から3位までが並んでいく。
――10位まで表示することができるけど、今日の参加人数でそれをやると若干晒し者みたいな感じになっちゃうからね。
◆物理攻撃力
1位 イオリ(調査隊) :6692
2位 カゲヤ(調査隊) :2744(1350)
3位 フォシル(第四軍) :189(85)
◆術理攻撃力
1位 リョウバ(調査隊) :1433
2位 シュラノ(調査隊) :791
3位 ラムト(第四軍) :205
◆素早さ
1位 イオリ(調査隊) :5523
2位 エクスナ(調査隊) :1620
3位 カゲヤ(調査隊) :1043
……周囲から私に届く気配の大半が、怯えや警戒になってきています。
魔王もにやにや笑っている。『貴様も殿堂入りだな』という心の声が聞こえた。
「――イオリ様、物理防御力:きゅ……9371」
あー、攻撃と違ってこっちは意識的に加減できないからなあ。
本能というか、向かってくる攻撃をどのぐらい脅威と認識しているかで強度が変動するっぽいのだ、この身体。
そして防御力測定は、頭を悩ませた項目でもある。
どうしても痛い検査ばかり思いついちゃうので。
最終的に採用されたのは、針をミリ単位で皮膚に押し当ててゆき、刺さる寸前までに針が進んだ長さで測定する、というものになった。
戦闘形態で鱗や鎧が生えてくる人は、同じようにして表面が欠ける寸前までの圧力を測る。
物理防御は強靭な素材の針を、術理防御は質量のない魔力だけの針を用いて測定を行う。
まだまだ改良の余地はあるだろうが、当面はこれでいく予定。
なお、ステータスといえば? で最多票を集めそうな【HP】は、いまだに測定方法が固まらず保留になっています。
だって薬の致死量を測るのと似たようなものなのだ。
全国に普及させたいのに、危険な方法は採用できない。
この件についてはロゼルに考えさせるかどうか、という点を魔王と一緒に悩んでいる。
その後も順調に測定は進んでいき、最終的には、
「1位、2位ともにイオリをはじめ調査隊の者ばかりだな」
魔王の言葉通り、私たちは2位までを独占していた。
第四軍の方々は、いくつかのステータスで3位を取ったのが最高値。
それもだいたい200前後の数値で、一方の調査隊メンバーは1000超えのステータスを記録するのも珍しくない。
「……よく、わかりました」
第四軍を率いる将軍だというルスラムは、眉間にシワを寄せながら言った。
「何がわかったのだ?」
おお魔王様、敗者に追い打ちですか。
ルスラムは苦笑しながら私たちを見渡した。
「この6名に絞られたという意図が、わかりました。――率直に申し上げて、軍を同行させるのは互いに足を引っ張り合うだけになるということが」
魔王は満足そうに笑った。
「軍属ばかりがこの場にいるわけでもないからな。噛み砕いて説明せよ」
男は一瞬目をつぶってから、口を開いた。
「軍は、多数をもって1個の生物となるのが理想です。極端な話、このレベルやステータスというもの、それが同じ値を持つ者同士で各部隊を作り上げれば、指揮官にとってはそれが最も扱いやすい軍となります。例えば大きさを揃えた六角形の駒を隙間なく並べていき、巨大な六角形を成すように。――そこに英雄や一芸特化の戦力を加えることは、必ずしも益になりません」
「ふむ。例えばどのような不利益がある?」
「……行軍速度のずれ、乱戦時の孤立や余波による自軍への被害、戦果の偏り、依存または拒絶など。――先程の六角形の例に倣えば、イオリ様をはじめとした調査隊の戦力は、非常に大きいが形の異なる駒のようなものです。軍隊と合わせるより、独自に動かれる方が宜しいかと」
「――貴様らも理解したか」魔王は見物客たちに声を投げた。「人族への調査は、この6名で行う。移動や補充などで員数を足すことはあれど、調査自体への追加採用は行わん。――ああ、それからこの部屋は軍を優先させつつ開放する。各自、部下のレベル測定を進めるように」
魔王の言葉に、観客たちは揃って頭を下げた。
「……魔王様、そしてイオリ様、僭越ながら最後によろしいでしょうか」
皆がぞろぞろと部屋から引き上げていくなか、ルスラムが声をかけてきた。
魔王が振り返り、目線で促す。
「イオリ様の調査隊は、奇襲や先制攻撃において無類の強さを発揮するでしょう。潜入中に素性が露見した際も、周辺の敵を葬り離脱する程度は容易なことと思われます。――しかし、練度の高い兵の群れ相手には、正攻法ですり潰されるのも独立遊軍の一面であります。どうかご注意を」
「ふむ、忠言だな。――イオリ、頭に入れておけ」
「あ、はい。……ありがとうございます」
ルスラムにぺこりと礼をすると、彼は一瞬目を丸くし、それから綺麗な返礼をして部屋から去っていった。
「なんか――そこまで悪い人じゃない気がしてきました」
私が言うと、
「ああ。だから奴を選んだのだ」
と魔王は言った。
「――え!? まさかアレ、仕込みだったんですか?」