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その一撃の重さ

「ラムト様、物理攻撃力:122(89)」

「ヒレイグ様、物理攻撃力:145」

「シュラノ様、物理攻撃力:37」


 ステータス測定はつつがなく進行していった。


 物理攻撃力は一撃加えるだけだから早いしね。


 ちなみに()内が素手の攻撃力で、()自体がつかない場合は武器を持たないということになる。

 ヒレイグという男は、右手を岩石のような質感に変える、いわゆる魔族の戦闘モードになってからの一撃で、今のところの最高値を出した。


 ……シュラノは、モカの半分ぐらいしか攻撃力ないのか。武器も持ってないし。

 私から見たレベルはわりと高いんだけどなあ。


「あ、次はリョウバとカゲヤが続きますね」


 隣で術理攻撃力を測る列に並んでいるモカが、物理攻撃力の列最後尾にいる私に話しかけてきた。

 術理攻撃力は、いわゆる魔法攻撃力である。この世界だと魔法=魔術=魔族の技、という感じで変換されてしまうので、人族にも普及できるような名称にしている。


 やること自体は、魔耐に優れたスライムに得意な魔術をぶっ放すという方法なのだが、物理攻撃と違って集中や詠唱が必要な場合も多いらしく、列の進みはゆっくりしている。


 私もちょっと横に動いて、彼らの背中を眺める。


「ふたりともレベル高いし体格もいいし、いい数字でると思うけど」


 リョウバは余裕のある笑みを浮かべてスライムの前に立つと、まずは左拳を一撃、続いてナイフを用いての斬撃を見舞った。


「リョウバ様、物理攻撃力:177(94)」


 見物しているお偉方たちがざわめいた。

 ルスラムという男も、むすっとした表情になっている。


「あ、1位更新しましたね」

 モカが嬉しそうに言う。

「そうだね」

 応じつつも、私はちょっと意外に思った。


 ルスラムが用意した兵士は、平均レベル30~50というところだ。

 リョウバは400ぐらいありそうだし、もっと差がつくものだと思っていた。


 シュラノもレベル100ぐらいあるのに、物理攻撃力は現時点で最下位。

 ――これは、レベルによるステータス上昇値はそこまで大きくなくて、それよりも本来の身体能力が大事ということなのかな?


 続いて測定するのはカゲヤ。


 彼はスライムのすぐ近くに立つと、右拳をみぞおちあたりの高さに上げ、腰を落とした。

 格ゲーの中国拳法キャラが使う崩拳みたいな感じ。


 ――ドパァンッ、とスライムが大きく揺れた。


「おお」

 明らかにここまでと段違いの威力だ。端末を操作している技術員も驚いた表情で画面を見ている。


「……え、カゲヤってあんなに強いんですか?」

 モカが呆然とした顔になっていた。


「あれ、知らないの?」

「だって侍従科ですよね……? その、てっきり旅の間のお食事とかイオリ様のお世話とか、そういった役割だとばかり……」


 いや、私の側仕えならバランが女性を選ばないはずがない。

 私も当然、自分のことは自分で、というスタンスの旅になるつもりでいる。


 私たちが話しているうちに、カゲヤは武器を構えた。

 黒い刀身の、十文字槍である。


 ズンッ、と鋭く重い踏み込みと共に、槍が突き出される。


 直線の衝撃が、スライムのど真ん中を突き抜ける。

 乗った瞬間のトランポリンみたいに、スライムの中心が大きくへこんだ。

 

 引かれた槍に時間差をつけて、どぷん、と元に戻る。


「……いやー、魔王様も頑丈なスライム作ったなあ」

「驚くのはそこですか……、いえ確かにそうなんですが」


 若干上ずった、技術員の声が結果を報せる。


「――カゲヤ様、物理攻撃力:2744(1350)」


 会場がどよめいた。


「あれは人族の!?」

「馬鹿な、侍従科だぞ」

「いや、サーシャ様の弟子と聞く」

「ぐっ……、だが、城内にそれほどの力量をもつ人族がいるなどと……」

「あの槍は、たしか老将パドナイ殿の……?」


 見物人が騒いでいる。

 測定器を離れ、こちらに近づいてくるカゲヤを手招きする。


「もしかして、今まで内緒にしてた?」

 小声で訊ねた。


 カゲヤは目を伏せて答える。

「サーシャ様の許可を受けた場合にしか、技を振るったことはありませんでした。今回も、披露して良いと許しを得ておりましたので」


 ざわざわとしている周囲の見物人からカゲヤに届くのは、マイナスの割合が強い気配の束。

 魔王城にいる、人族、それも驚くほど高い戦力を持った――


「今までって、その、悪目立ちしないように?」

「概ね、その通りです」

「……良かったの? 今日、これは」

「サーシャ様に言われました。『そろそろ自衛できるだろう』と。加えて、『イオリ様の護衛として侮られてはならない』とも。私も同感です」


 淡々と、カゲヤは答えた。


 私は申し訳ない気分になる。

「えっと、なんか嫌なことがあったらすぐ教えてね」

 カゲヤは薄く、そうとわからないぐらい僅かに微笑んだ。

「ありがとうございます」


 ――たぶん、ここまで承知の上でサーシャはカゲヤをパーティメンバーに推挙してくれたんだろうなあ。

 あとで彼女にもお礼しないと。


「エクスナ様:15(12)」


「いやー、あのスライムでっかいですねー」

 いつの間にか最低記録を更新したエクスナがにこやかに戻ってきた。


「……ねえ、エクスナ、魔王城にいて不便に思ったことはない? 嫌がらせとか受けたりしてない?」

「いえ別に。そりゃ人族なんで見下されたり絡まれたりすることはありますけど、ご飯が美味しいですから」

「あ、そう……」


 私のパーティメンバー、頼もしいなあ。


 そうこうしているうちに私の番になった。


 私から離れたカゲヤに、周囲からさらに露骨な負の気配が集まっているのを感じる。

 似たような気配は、エクスナへも。


 ……ふうん。


 ちらりと、魔王様が目配せしてくるのも感じ取れた。


 ――加減しろ

 そう言われたことは、もちろん覚えていますよ。

 

 でも、

「えいっ」

 


「……イオリ様、物理攻撃力:6692」


 会場が静まり返りました。

 ――加減しても、このぐらい出せることは分かってきているのだ。


 隣の列に向かう途中、特に強めのマイナス感情を放っていたお偉方が集まっている辺りに向かって、いわゆる『ガンを飛ばして』みた。


 ――うちのモンに手ぇ出したらわかってんだろなオイ、的な。伝われこの思い。


 魔王は声に出さず笑っているし、サーシャが深々とお礼していた。

 うん、こっちになんかいい感じで伝わったみたいだから、それでいいや。

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