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体育のお時間です

 発言許可を求めたのは、モカたちの右側、最前列にいる男からのものだった。

 赤茶色の長髪を弁髪みたいなスタイルにした、上背のある魔族だ。薄い灰色のかっちりした服装で、色合いは違うものの似たスタイルの格好があちこちにおり、リョウバも同じような服装なことから魔族の軍服みたいなものだと知れた。


「許す」

 魔王が言った。


「ありがとうございます。――僭越ながら私が申し上げたいのは、魔王様の仰るように極めて重要な任務に対し、彼らのみでは不十分だという点でございます」


 そう言って男はモカたちを指し示した。


「許されるならば、我が第四軍から兵を貸し出したく。もちろん潜入調査という点を踏まえ、適切な規模と構成に致します」


「ふむ――」魔王は肘掛けに片腕を預け、足を組んだ。「兵を貸すということは、つまり不十分なのは戦力であると、そう言いたいのだな」


「その通りです。もちろん私とて、『空追う牙』の副長の実力は知っておりますが、彼ひとりでは荷が重いという以前に、どう足掻いても対応力の限界があります」


 空追う牙っていうのは、たしかリョウバがいるところだったかな。そういえば自己紹介で副長だって言ってたか。有名なんだね。


 しかし、彼ひとりって――明らかにカゲヤの方がレベル高いんだけどな。

 もしかして人族だから、無視されてる?


「他にいるのは技術・研究部門の職員に案内役の人族のみ――バラン殿の選抜に異を唱えるわけではありませんが、前線に立つ我々の意見を取り入れて頂くのは決して不利益になりませぬ」


 ……いや、それ普通に異を唱えてるでしょ。

 ……さらに実戦経験のないバランに嫌味まで言ってるし。


「そうか」

 魔王は平坦な声でそう言うと、

「では最低でどの程度の人数を用意するつもりだ?」

 と訊ねた。


 男は満足そうに笑い、

「先遣と後続を合わせまして2小隊ほどでしたら、すぐに派兵可能です」

 と答える。


「わかった。ではその中から精鋭を15名選べ」

「……恐れながら、それでは元の選抜者と合わせても1小隊に満ちませんが」

「焦るな。その15名と、バランの選んだ者たちを比較させてやろう。結果に応じて、貴様の推挙を認めると言っている」


 男の眼が底光りする。


「――模擬戦を執り行うと理解すればよろしいでしょうか? こちらが3倍の数的優位になってしまいますが……」

「そうではない」


 魔王は、そこで少し愉快そうに口角を上げた。


「先ほど我が言った、新たな魔道具を使う良い機会だ」



 その場は、それでお開きとなった。

 私としては、この大舞台でもまた何か喋れとか魔王に振られそうだなあと危惧していたので、男が場をかき回してくれたのはある意味ありがたかった。

 ……まあ、バランとカゲヤたち両方を小馬鹿にしている感じは気に入らないけれど。



 で、小一時間後。


 私と魔王とバランにサーシャ、モカやリョウバたち5名、さっきの男、いかにも兵隊っぽい強面✕15、そして多くの見物者が別の部屋に集まっていた。


 玉座の間よりは狭いものの、学校の体育館ぐらいはある大部屋である。

 ――そして実際、これから行うのは体育みたいなものである。


「ここは『レベル測定』を行う部屋だ」


 魔王はよく通る声で言った。


「レベルとは、イオリから授かった概念である。要は戦力の指標だ。レベルは戦力の総量であり、その下にステータスという細分化した概念を持つ。詳しくは追って配布する資料を読むように」


 部屋に並んでいるのは、様々な魔道具である。

 ロゼル班をはじめ、多くの技術部門・研究部門の労力を注がれている。

 ――先日見学した時は、そりゃもう皆さん死にそうな顔で働いていました。ああこれがデスマーチか、と戦慄したものである。


「まず試しに【物理攻撃力】を測る」


 部屋の一番手前にどっしりと控えているのは――巨大な青いスライムである。


「順に、このスライムへ全力で一撃を加えろ。まずは素手で、武器を扱うものは続いて自身の装備を使え」


 男の用意した兵士15名は、互いに顔を見合わせている。

 初見のリョウバやカゲヤも同様である。


「モカ、とりあえずやってみせてあげてよ。みんなちょっと戸惑ってるし」

 開発側でもある彼女に私はそう声をかけた。


「あっ、はい、承知いたしました。……ですが最初に私なんかで、舐められないといいんですが……」


 不安そうな面持ちながらも、モカはスライムの前に立った。


 無言で深く息を吸い、右ストレートが放たれる。

 ――自信なさげではあるものの、モカのレベルはそこそこある。私の目見当で、前に視察した前線にいる兵士よりちょっと上ぐらい。

 パンチも、腰の効いた綺麗なフォームである。

 実は彼女も従軍経験があるのかな?

 


 スライムの巨体は、モカの拳を受けた一部が軽く波打つ。

 ――そしてスライムの上下左右奥5箇所に置かれた計測器が、それを観測する。


 奥で結果を集積する端末を操作している技術員が口を開いた。


「モカ様、物理攻撃力:71」


「理解したか」

 魔王が口を開いた。


「このように、物理攻撃力、術理攻撃力、魔力、反射速度、移動速度などを数値化することができるのがこの部屋だ。ルスラム、貴様の選んだ者達が各ステータスおよびレベルで好成績を収めれば、それに応じた割合で調査隊に加えることとしよう。……そうだな、1位を取った数の10倍を採用する」


 さっき発言した男――ルスラムという名前のようだ――は、不敵に微笑んでうやうやしく礼をした。


「承知いたしました。魔王様の寛容なるご措置、十全な結果にて謝意とさせて頂きます」


 魔王は短く頷き、リョウバたちに向かって言った。


「疾く始めるが良い。多少時間のかかる測定もあるゆえ、分散して進めろ」


 うん、たとえばスタミナなんかは普通に長距離走だからね。


「――ああ、イオリ、当然だが貴様も対象だぞ」

「げっ」

 ……苦手なんだよなあ、体力測定。

 魔王は、こちらへ近づいてくると小声で補足した。


「――加減しておけ」

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