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魔王の運命

「まずはこれを使わせてもらう」


 机に置かれていた六角形の容器を開けながら魔王は言った。

 取り出したのは、銅みたいな材質でできた彫刻である。球体で、真ん中にスリットがあり、その中に目玉がいくつも並んでいる。上部にはラッパを縦に向けたような突起がついている。

 全体的に不気味である。

 洞窟のダンジョンに出てくるアイボール系のモンスターみたいだった。


「これは秘密を誓うときに用いる道具で、なかでも最上級の拘束力を持つ品だ。これを挟んで交わした内容は、声や文字、暗号やジェスチャーなどいかなる手段をもっても他者へ伝えることができなくなる。死や痛みなどの罰則はない。ただ秘密を漏らすことができないよう、精神に刻み込まれるというものだ」


 ごとりと、彫刻がローテーブルに置かれる。

 魔王は私の対面に座りながら言葉を続けた。


「誤解しないでもらいたいのだが、悪意を持って使われる品とは毛色が異る。苦痛を伴わないという特徴は非常に希少なものでな、貴人同士の密約などで利用されている代物だ」


 魔王はその彫刻に指先で触れた。

 金属っぽい質感の表面が、軽く波打つ。


「同じように触れろ。軽くで良い」


 言われたとおりにしてみる。

 すると魔王のときより大きな波紋が立ち、その波が像から四方の空間へと響いていった。

 数秒で、薄緑のバリアみたいなものが、私と魔王を包むように出来上がっていた。


「この結界が維持されている間、中で交わした会話には先に説明した制約が設けられる。ゆえにイオリはあまり話さぬ方が良い。無関係なことまで他者に説明できないことになるのでな。例えばこの状態で自己紹介などすれば生涯名乗ることができなくなってしまう」


 私はこくりと頷いた。


「さて、我が人族に討伐されなければならない理由だが」

「はい」

「そうしないと我が爆発するからだ」


「……はい?」


「大爆発するからだ」

「いやいやいや」


 規模を聞いたんじゃない。


「ああ、爆発するのは我だけだ。他の魔族も、もちろん人族もそのような性質は持っていない」


 そんな全員爆弾岩みたいな世界であってたまるか。


「倒されると爆発する、ってことじゃなくて逆なんですか? 倒されないと爆発?」

「そうだ。我が人族に討伐されないまま、千年を迎えてしまうと爆発する。魔王とはそういう存在だ」

「千……」


 魔族の寿命が300年ぐらいだったか。

 まあ、魔王が長生きなのはテンプレだけど。


「つまり寿命みたいなものですか」

「そうだな」

「ちなみに、魔王様は今何歳なんですか――って、いえ取消で」


 危な! 自己紹介みたいなもんじゃん。


「……いや、まあ構わんか。この先年齢を公表することもないだろうし、必要ならバランに代弁させれば良い。先日850になった」


 わお。

 思ったよりだいぶ年季入っていらっしゃる。


「じゃあ、あと150年は大丈夫なんですね」

「ああ。だが我がその事実を知ったのがちょうど150年前なのだが、それから討伐されるために試行錯誤をしたものの成果が出ず、今日に至っている」


「なるほど……、って、あの、事実って、爆発するってことですよね? 知らなかったんですか? それまで――700年の間」

「残念ながらな」


 私は考えながら質問を続ける。


「あのー、魔王って、先代とかいるものなんですか? それともいきなり発生したとか?」

「もちろんいる。先代魔王は在位400年ほどで人族に敗れているな」

「引き継ぎとかなかったんですか」

「我が生まれたのは、先代が死亡したあとのことだ」

「生まれたときって、その時点でもう魔王だったんですか?」

「ああ。我が生まれた際、破壊を司る神エンシードヴァナラと、戦を司る神アランドルカシムが顕現された。2柱の託宣により、我が魔王だと告げられたのだ」


 ――任命制というより、輪廻系のタイプかな。魔王が倒されると、新たな魔王がどこかで生まれる的な。


「あ、大事なこと聞いてなかったですけど、爆発ってどのくらい大きいんですか?」


 今いるここは魔王城――つまりはラストダンジョンである。ラスボスが死んだらラスダンも崩壊するのはセオリーと言える。

 サーシャなら爆発で崩れ落ちる城からの脱出はたやすいだろうけど、バランはまず逃げ切れないだろう。


「うむ……」

 魔王は、そこで少し言い淀んだが、


「――地上の生命はすべて消し飛ぶ。魔族も人族も獣も草木も、全て灰燼と化す」


 そう答えを告げた。



 私が呆然としているうちに、魔王は秘密保持の彫刻に再び指を触れた。

 促されるまま私も触れると、まわりのバリアみたいなものはあっさりと消えた。


 彫刻はバキバキと音を立てながら収縮していき、最後には十円玉ぐらいの大きさの球になってしまった。

 魔王はその球をつまみ上げ、ソファから立ち上がって机へ向かい、鍵付きのチェストにそれをしまい込んだ。


「まあ、そういうわけだ。我はなんとしてでも、人族に討伐されねばならん」


「……ええっと……」


 さすがの頼れる肉体も、今回は復帰に時間がかかった。


「その――あれ?」

 爆発、と口にしようとしたのだけれど、寸前でその意思がかき消えてしまった。

 くしゃみが直前で引っ込んでしまったときみたいに。

 ――そっか、これがさっきの道具の効果か。


 まあいい、爆発の細かい仕組みなんて後回しだ。

 それより先に、何より聞きたいことがあった。


「それでいいんですか? 魔王様は」


 しっかりと私の目を見て、魔王は答えた。


「無論だ」

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