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強化人間イオリ

「あれ、私って色々切られたり剥がされたり外されたりしたんだよね? まったく痛くないんですけど」

「あ、それはもちろん、施術後にと回復薬を大量に用意してましたし――」

「へえ、やっぱりそういうのあるんだ」

「……いえ、それがその類の薬品も効き辛いようでして……」

「ぅおい!?」


 さっきから随分お茶目じゃないのモカちゃん!


「あの、ですからご安心ください! 別途、傷を癒やす魔術の使い手も手配しておりましたし、最終手段として自然治癒が進むまで魔王様に魂をお預かり頂くことも計画しておりましたっ」

 

 ……どうやら、私だけじゃなくてモカもテンパってるっぽい。

 お疲れかな?

 よく見ればマジで疲労困憊だな。

 大手術だったのかな。


「――うん、オーケー、落ち着いて落ち着こう。ほらモカも大きく息吸って」


 ふたりして深呼吸をする。


「それで結局この身体はどうなったの? その回復魔術みたいなのを使ったの?」


 モカは胸に手を当て、さらに何度か息をついてから答えた。


「いえ、それがその……、イオリ様のお身体そのものが、物凄い自己治癒力をお持ちだったんです」

「あっ、そういうこと」


 なるほど、スペックの高さに定評のあるこの身体、回復力も半端ないのか。もしかして自動回復みたいなスキルまでついてたりするのかも。


「実を申しますと、施術の最中も切開したところがみるみる塞がっていきましたもので、別の意味で時間との闘いでした……」

「ああ……」


 だからモカだけじゃなくて他の技術班メンバーも疲労困憊って様子なのか。

 ただでさえ普通の身体じゃなくて経験が通用しづらいところに、班長かつ最優秀のロゼルは手を動かせず口頭の指示だけで、おまけに異様な回復速度と競いながらの手術というまずないシチュエーション……。


「うん、その、ほんとうにお疲れ様でした」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません……」

「だからなんで謝るの!?」


 そう、肝心なのはそこだった!


 モカはどう答えたら良いものか分からない様子で、ちらりと視線を別の方向へ逸らした。

 その先にいるのは、チルド状態のロゼルにサーシャと魔王様。


「我もそこを確認したい」

 魔王も手術の最中は外してたから、何が起きたのかまだ知らないみたい。


「コレを解凍すべきか?」

「いえ、それは後ほどでよろしいかと。僭越ながらサーシャが説明差し上げてもよろしいでしょうか」

「うむ」


 そうだ、サーシャが監視してたんだから、そんなに酷いことにはなってないはず――


「イオリ様には遠距離からの攻撃手段が必要だと常々思っておりました」

「もしかして主犯こっち!?」


 愕然とする私。


 サーシャはそこはかとなく満ち足りたような、やりきった感みたいな雰囲気を微かに漂わせつつ、話を続ける。


「執刀開始からほどなく、ロゼルの指示に不穏なものが混ざり始めました。彼女らもそれを察し、ロゼルへ意図を追求する場面が頻発しました」


 私はモカへと目を向ける。

 彼女は、斜め下へ目線をやり、げんなりした様子で口を開く。


「その、班長が最近開発した居場所を報せる装置を埋め込もうとしたり、脳に極細の針を刺そうとしたり、眼球を割って内部を確認しようとしたり、足を逆関節にしようとしたり、性別を変えようとしたり……、そんな指示を、あまり隠す気もなく矢継ぎ早に……」


「……」

 私も魔王も、胡乱な目で凍れるマッドサイエンティストを眺めた。


「そんな指示の中に、腕へ魔剣を仕込もうというものがありまして、それを聞いたサーシャ様が」

「埋まってんの!?」


 バッ、と自分の腕を見つめる私。


「あ、いえ、それは」

「却下しました」

 とサーシャが後を引き取って話す。


「よく聞くと、使用時には腕の肉が爆散するとのことでしたので。その度にご衣装を汚すのでは使い勝手が悪いかと」

「あー、うん、そうね、そうだね……」

 サーシャ、あなたやっぱりズレてるのよ……。


「しかし身体を手術によって強化するというロゼルの考えは、斬新で有用だと感心しました」


 ――ああ、そっか、この世界じゃ魔族と人族で殺し合ってレベルアップが常識だから、強化手術なんて概念がないのかもしれない。

 それを実行しようとしたロゼルはやはり天才なのだろう。


「ロゼル自身はイオリ様の戦闘を見たことがないため、主にサーシャが意見を述べ、具体化できるかどうかをロゼルが検討し、モカたちが実行致しました」


 ――実行しようとした、じゃない! 実行されてる!


「……魔王様?」

 手術前に『信じろ』と言い放った責任者を見る。


「うむ……」

 魔王は思慮深げに腕を組み、

「――まずは我と戦闘訓練をしないか? ああ、何を追加されたか知らぬままの方が良い。そのほうが楽しめそうだ」

「味方がいない!」


 そうだ、このヒト魔王だった!

 強さがいちばん大事な人種だった!


「イオリ様……」

 モカがすまなそうな顔で声をかけてくる。


「うう、モカ……」

 共感してくれるのは君だけだよ。


「……説明書は、出発までに完成させますので……」

「そういうことじゃないんだよ!」

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