表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/277

ハイテンションな手術前後

 数日後。


「ついにこの時がきたあっ!」 


 研究室内に、ロゼルの声が響き渡った。


 さすがのサーシャも手綱を握るのに疲れたようで、今日は前にも見た拘束台にロゼルを固定していた。

 指示を下したり様子を見たりしやすいように、台の角度調整が上下左右に可能となっている。――これもモカたちが改良したとのことだ。


 私は、白いバスローブみたいな服を着て診察台に横たわっている。


 今日はなんと、私の身体が改造されるのだ。

 具体的には、顔と身体をもっと生物に寄せていく。


 なにしろ私が鏡を見た第一印象がオートマタである。顔は整っているものの人形めいているし、関節は色々むき出しだし、腕や足はセラミックみたいなのだ。

 首元まで隠す衣服と、手袋やロングブーツ、そして入念な化粧を施せば人族の領土でも怪しまれないだろうが、長旅の間ずっとそんな真似をするわけにもいかない。ちょっとした油断でバレそうだし。


 というわけで、これまたロゼルの指示の下、モカたちが美容整形手術を執り行うことと相成りました。


「さぁーあイオリ、今よりもっと綺麗にしてあげるからねー。ついでに強く頑丈で便利かつ面白くもしてあげるよー。楽しみだねぇー? えへへへへへ……」

 

 ロゼルはもはや美少女がしていい表情ではなくなっている。


「さすがに不安になるんですが、魔王様」

「……奴を信じろとは言わぬ。監視役のサーシャと、全責任を負う我を信じて欲しい」

「イオリ様、どうかご安心を。サーシャの視界においては、なにか起きる予兆すら認めません。ことごとくを粉砕してみせます」


 ――ああ、サーシャはこういう言い方で誤解されるんだなあ……。


「あの、イオリ様」


 おずおずとモカも話しかけてくる。


「私たちもこの数日で班長からだいぶ情報を引き出しました。班長が密かに無茶な指示を下そうとしても察知できると思いますし、その目的を追求して内容次第では拒否する権利を、魔王様直々に頂いてもおります」

「……うん、ありがとう。よろしくね」


 モカの緊張も、最初の頃よりだいぶやわらいでいる。

 パーティメンバーと打ち解けていくのは嬉しいものである。


「では、始めるか」

 魔王が診察台の横に立ち、寝ている私に手をかざした。


 ――この改造手術をするに際し、事前に確認したことがいくつか。

 まず、この身体に痛覚はきちんとある。

 そして、麻酔の類をはじめ、薬物全般がほとんど効かない。

 ……つまり、手術をすると、とても痛い。


 その報告を聞いたロゼルは、

「どうしよう、イオリに我慢してもらわなきゃ! でも動かれるといじりづらいし、お酒飲ませまくってから魔王様に全力で殴ってもらえばいけるかな?」

 そんなことをほざいてサーシャに連打をくらったりしていた。


 で、対策。


 痛みを感じるなら、その意識だけよそへ移しておけばいいじゃない。


 というわけで、久々に私の魂を魔王様のなかに一時退避することになったのだ。


「気を楽にしておけ。それから取り込まれた後、あまり動きまわらぬようにな」

 

 魔王の手に魔力が集まり、私の意識はすっと薄れていった。



 ――意識の戻った私の視界に広がるのは、例によって魔王の内的空間である。

 真っ暗でだだっぴろい空間の遥か遠くに、ものすごく大きな光の坩堝が見える。


 あれが、魔王の魂。


 他の魔族や人族のように一色ではなく様々な色合いが混ざり合っているのは、魔王の強大さゆえか、あるいは『魔獣生成』スキルが関係しているのだろうか。

 あの身体を離れた今の私では、普段と魂の見え方が異なっている。

 いつもは光る水のように見えているけれど、今は小さな光の粒の集合体――それこそ宇宙空間に広がる銀河系みたいに見える。


 なんとなく、今の状態のほうが解像度が高い気もする。

 魂だけになってると、自分以外の魂もよく見えるようになるのかな?


 ――それにしても、綺麗だなあ。

 ついつい、そちらへ近づきたくなる。

 ……いけない、動きまわるなと魔王に忠告されたのだった。


 あそこへ行くと、たぶん私の魂は魔王に取り込まれてしまう。

 海に落ちる雨粒みたいに。

 そして時が来れば何かの魔獣として生まれ変わるのだろう。

 

 再びあちらの世界に呼び戻されるまで、私は飽きずに魔王の魂を眺め続けた。



 ――意識が戻る。


「おっはようイオリ! どう? どうどう? どんな感じ? ねえ魂だけになるのってどうなの!? 教えて教えて! あと魔王様の中っていったいどんな――」

 

 びしり。


 拘束器具に固定されているロゼルの全身が凍りついた。


「お手間を取らせまして申し訳ありません」

 サーシャが魔王に礼を言っている。

「良い。さすがに何日もこれの監視では負担が大きかろう」


 私は診察台に寝そべったまま、首だけ動かして周りを見渡す。


「……無事に終わった、ってことでいいですよね?」


 すぐ近くに立っているモカと目が合った。


 ――そして気まずげに逸らされた。


「ちょっとぉ!?」

「も、申し訳ありませんっ!」

「待って、謝らないで! なに!? 私はロゼルに何されたの!?」

「あああ、あの、ご安心くださいっ、施術は問題なく完了しております。痛みやご不快な点はありませんよね!?」


 言われて気づく。

 私、手術直後じゃん。

 しかも麻酔なしの。

 手術中だけ退避してればいいじゃないとか気楽に構えてたけど、よく考えたら――というか普通に想定できたはずのことだが――手術が終わっても傷口は残ってるじゃありませんか。


「ぁいたっ――く、ない?」

 反射的に叫びそうになったが、しかし痛みは一切なかった。


 あれ?どうなってるの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ