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料理>素性

 魔族と人族の違い。


 普段の外見は、まず区別がつかない。

 いわゆる地球人と同じ見た目である。

 髪型や目の色、肌の色が向こうよりカラフルなぐらい。


 話す言葉は違うけど、元は同じ言葉なので共通点は多い。だからスパイや斥候なんかはたいてい相手方の言語も習得している。

 ……どこから習うかといえば、まあ、捕虜とかから。


 戦闘時になると、違いが分かることが多い。

 魔族はいわゆる戦闘形態――魔力を使って、自分の身体を変化させるのが一般的だからだ。

 

 ただ、魔力というのは、単にそう呼んでいるだけ。人族が持っているとされる神の恵み、天の欠片、法力、導力――国によって名前が違うが、とにかくその総体と、魔力とは、結局同じものである。


 魂から捻出されるエネルギー。


 ではなんで魔族だけ身体変化するのかというと、これははっきり分かってはいない。

 ただ仮説はある。


 まず、人族に比べて魔族の寿命が長いということ。これは両者の明確な違いでもある。

 人族の寿命は50~70年というところだが、魔族は300年ぐらい。

 そして魔族が成長期を終えるのが20代半ばで、老いが表面に現れるのは250歳を越えた頃からだという。


 サイ○人みたいものか。

 なんとも羨ましい話である。


 だが魔族からすれば、200年以上を同じ外見で過ごすことになるので、端的に『飽きる』らしい。

 その不満――逆に言えば『自身の外見への執着のなさ』が、身体変化を可能にする大きな要因だとか。



 ……ちょっと脱線した。


 魔族と人族の違いだけど、もうひとつ大きなものが、殺したときに相手の魂の一部を奪えるかどうか。

 

 違いというか、区別だけど。


 人族同士、魔族同士では無理。

 人族と魔族が殺し合った際に、勝者が相手の魂を奪う。

 魂を奪うと、それは自身の魂に上乗せされ、そこから生み出されるエネルギーである、魔力や法力と呼ばれるものも大きくなる。

 つまり、より強くなる。


 まさしく、戦闘で経験値を得てレベルアップするという、ゲームデザインそっくりである。

 神様たちはどういう意図でこの世界を作ったんだか。


 とまあ、そんな両者の違いから、当然ながら仲良くはなれない。

 仮に友好条約を結べたとしても、血の気の多い連中はいっぱいいるので、強くなるために相手を殺そうとする輩はすぐに現れる。

 

 加えて人族は自分たちより寿命の長い魔族を羨み、また怖がってもいる。

 放置してたら長い年月で力を蓄えて一斉に襲ってくるかもしれないと。


 魔族もまた、人族を疎んでいる。

 人族は寿命が短いわりに、繁殖力が強いのだという。

 だから魔族に比べて、『人的損害』をあまり恐れない傾向があるらしい。

 これもまた、放置してたらものすごい人数になって無限に続くような特攻をしてくるんじゃないかと、魔族は懸念している。


 つまりは、相容れない存在なのだ。お互いに。


 そんな人族が、魔王城で結成されたパーティに混ざっているという。

 

「――カゲヤとエクスナが?」

「ああ。わかるか?」

 

 私はあらためて、円卓に座っている5人を眺めた。

 意識を集中し、それぞれの魂を見つめる。


 ……だけど、そもそも全員、光の強さや色合いや体内を巡る速度などが違っているのだ。見分け方なんてあるんだろうか。


「――あっ」

 ふいに、それに気づいた。


 見え方での違いではない。


「匂いが違います」

 と私は言った。


「カゲヤとエクスナは、なんか魂の匂いが、他のみんなと違ってます」


「――なるほど」

 魔王は頷いた。


「魂の、匂いですか?」

 エクスナが不思議そうに自分の身体を見下ろした。


「うん、そう。いやこの料理とかみたいに香りがするっていうのとはちょっと違うんだけど、でもこのお皿とかお酒とかの香りがあるから、逆にそういう匂いと別の領域で嗅覚に引っかかるものがあってね。それで2人だけちょっと独特な匂いだったから」


 説明するものの、いまいち他の皆にはピンとこないようだった。


「イオリだけの感覚だろうからな。共感しづらかろう。――しかし、やはり奴を使うことになるか……」

 魔王が、なんだか嫌そうに顔をしかめた。


「なんですか?」

「うむ、まあ、食後に話すとしよう」


 タイミングよく前菜のお皿が下げられ、代わりにやって来たのはキャスターに乗せられた大皿だった。

 一抱えもありそうな大皿に乗っているのは、丸々と太った魚らしきものだった。


「お魚ですか?」

「カウワスという魚です。香草をあしらって焼き上げました」

 バランが説明してくれた。


「魔族領全土でも、年に5匹も揚がれば上出来というぐらい希少ですよ。私も食べたことがありません」

 リョウバも補足してくれる。


 その場で切り分けてくれるらしく、サーシャともうひとりのメイドさんがナイフを操っている。


「――あ、そうそう、それでふたりが人族ってことでしたよね。どういう経緯でここにいるんですか?」

「本当にたいして気にしていないようだな」

 魔王が愉快そうに言った。


「いや、まあ、私は新参者ですから。過去の戦争の歴史とか知りませんし、先祖の恨みとかもないですし……」

「そうか、では本人に尋ねてみるがいい」


「えーと……」

 ふたりに視線を向ける。


 ちょうど料理の取り分けが始まっており、エクスナは既に魚にしか目が行っていない。


「――私は大荒野でサーシャ様に拾われました」

 そんなエクスナを見てため息をつき、カゲヤが率先して答えた。

「物心ついた頃から魔族領におりますが、人族の領土にも幾度か足を運んでおります。案内についてはお任せ頂ければ」


「大荒野に……」


 子供がうろつくような場所じゃないはずだけど。


「って、サーシャが?」


 もちろんメイドが働く場所でもないはずである。


 サーシャはやや目を伏せた。


「……当時は軍に所属しておりましたので」


 まさかの従軍経験者。

 いや、強いとは感じていたけど。


 もうちょっと突っ込んで訊こうかと思ったが、そこで私のお皿にも魚が取り分けられた。ふわりと食欲をくすぐる匂いが届く。白身で、川魚に似た苔のような香りと、スパイシーな香草が合わさっている。

 皮目には綺麗な焦げ目がつき、三色のソースとキノコみたいな付け合せ。


 うん、まずは熱いうちに食べないとね。

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