表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/278

あのスライムは今

「ロゼルは、イオリの身体を作り上げた7日間のみ、神の恩寵を受けていたと思われる」

 

 そう魔王は語った。


「そんな、期間限定みたいなパターンもあるんですか?」

「あまり聞かんが、そう考えるのが妥当だった。何しろロゼル自身がどうやってその身体を作ったか、覚えていなかったのだ」

「えっ」

「本人も気持ち良いほど見事に悔しがっていたな」


 うん、それもまた目に浮かぶなあ。


「じゃあ魔王様が同じように教わった転送装置の理論とかも、今は忘れてるんですか?」

「いや、そちらは覚えている。そうでなければ修理もできなかったところだからな……。実に助かった」


「なんでロゼルの方は記憶に残らなかったのかっていうのは……、まあ、そういうことなんですかね」

「ああ。神も相手を選んだのだろう」


 神様からも要注意対象になってるのか、あの子。

 

「それにしても、神様ってけっこう協力してくれるんですね」

「それも数十年単位で研究を続けた結果だろうな。神の恩寵は、膨大な努力や決死の闘争、前例のない偉業を達した者らに与えられることが多い」


 難易度の高いクエストクリア報酬として、スキルを取得できるようなものか。


「ところで、ロゼルの話聞いてて気づいたことがあるんですけど」

「なんだ?」

「いえ、7日間ぶっ続けで作業して、それから爆睡したっていうところ。……あの、今現在私の本来の身体も、地球で仮死状態で眠ってるわけですよね。7日どころか、これから7年間放置された場合――あっちの身体、ヤバイことになりませんか? 下手すると私、そのうちあっさり死んじゃいませんか?」


「あっ」

 魔王が今気づいたように声を上げた。


「ちょっと!?」

 一気に動転する私。


 それに今まで思い至らなかった私自身もどうかと思うけれど、魔王やバランならとっくにその辺りも対応済みだろうと半ば油断しきっていたから、確認の意味で尋ねただけなのに。


「向こうの時間経過でも、半年ですよ!? 転送装置が直っても、戻った先の私ってミイラかゾンビ状態になってません!?」


「――冗談だ。落ち着け」

「なっ」

「さっきの仕返しだ」


 魔王は愉快そうに目を細めた。


「……だが、説明不足だったのは反省しよう。――今回のことが起きる前に、バランが説明しているものと思い込んでいた。一度、互いに何をイオリに説明済みか確認する」


 ほっとする。

 ……そして多少悔しい。

 また絶対にからかってやる。


「地球に残している、あのスライムがイオリの身体を維持する役割を持っているのだ」

「え、あれがですか?」


 魔王様の魂の依代。

 その魂が抜けたあとはあの廃屋でぷるぷる震えているところしか見たことがなかったけど。


「アレも私自ら作った魔獣でな。空気と水、虫や小動物、植物に無機物と、大抵のものを糧に高効率で自身を成長させることができる。最初に転送装置から送ったときは拳大でしかなかったのだが、地球の物質も問題なく取り込めたようで、すぐに私を形作れる程度までに肥大した」


 なるほど、転送時の費用を抑えるためか。

 ――怖いので値段は計算しない。

 私がもらった金の延べ棒、転送代の方が買取価格よりずっと高いとか考えない。

 やめろ、勝手に計算するな私の脳みそ!


「加えて成長した自身の成分を、他の生物に分け与えることができる。その他にも簡単な怪我の治療、寝たきりで強張った身体のマッサージ、外敵の駆除など、私が対象に指定した生物の健康状態と安全性を維持するための機能をひと通り持たせている。地球にあるイオリの身体については、そういったわけで安心して良い」


「ああ――、そうですか、ほっとしま、した、が……」

 

 魔王の言った内容を脳内リピートする。


 ――虫や小動物

 ――大抵のものを糧に

 ――成長した自身の成分を


 つまり、これから半年間、向こうにいる私の身体が補給する栄養は元を辿れば……


「どうした、顔色が悪いが」

「イエ、ナンデモナイデスヨ」

 

 くそう、絶対にどっかで仕返ししてやる!



 ひと通りの会話が済んだところで、今日は解散となった。


「思うところはあるだろうし、一晩眠ると考えが変わったり聞きそびれた懸念点が浮かぶかもしれん。明日もゆっくりするといい。何かあれば部屋付きに言伝を」


 私の部屋まで送ってくれた魔王は、そう言って立ち去った。


 思うところ、ねえ。


 これが転送装置の破壊を黙ってたり、誤魔化そうとしたり、ロゼルひとりに責任を押し付けた挙げ句に口封じがてら処刑とか、そういう悪者っぽいことをされればもっと怒ったり恨んだりしたんだろうけど。


 あれだけ真摯に謝られると、そんな気分にならない。

 ……スライム印の栄養剤は別だけどな。


「7年かあ」


 呟く。


 2年間の休暇っていう本があったなあ、なんてことをふと思い出す。


 体感ではあれの3倍以上――地球における影響でも半年、その長さで大学行かなかったら、いろんな授業についていけなくなりそうな。

 頭がいい今のうちに、自習しておくしかないか。

 でも教材もないんだよねえ。

 まあ、1留は確定だろうから、そう焦らなくてもいいか? 授業料なら金の延べ棒があるわけだし。


「ていうか、ゲーム!」


 魔王にあげたのは携帯ハード2種と大量のソフトだけ。

 据え置き機とスマホゲーがとうぶんプレイできないじゃないか!


 ……やっぱり色々補填してもらいたくなってきたな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ