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製作経緯

 ロゼルの乗った拘束台は、サーシャが手際よく部屋から運び出していった。

 バランも眉間にシワを寄せて、それについていく。


 鎖をがちゃがちゃ鳴らしながらじたばた悶え、涙混じりに私を見つめるロゼルの姿が扉の向こうへ消えてゆく。


「……すごく純粋に名残惜しげな眼差しをくれたんですけど」

「純粋な欲望だ、ほだされるな」


 魔王がため息をついた。


「それで、あの子が言ってたのは本当なんですか? この身体の製作者だって」

「ああ。私も初めは信じられなかったが、奴がひとりで作り上げた」

「へえー」


 正直、この点については地球より遥かに技術が進んでいると思う。

 なにしろこの身体、見た目こそオートマタ風だけど、実際に口や舌を動かして会話ができるし、ものを食べることができるし、眠りもする。普通の生き物となんら変わらないのである。それでいて出力や耐久性は人間よりも段違いに高い。

 

「そういえば私以外にもいるんですか? こういう作られた身体に入ってる人」

「いや、イオリだけだ。――というよりも、地球から招くためにその身体を作ったからな」

「あ、そうなんですか? 急に連れてこられましたし、てっきり手頃な素体を使ったのかと」

「……その節は、返す返すも申し訳ない」

「あっ、いえいえ、こっちこそすみません、嫌味とかじゃなくてですね」


 いかんいかん、ロゼルのやらかしを気に病んでるようだし、言葉に注意しないと。


「そういえば発端を説明していなかったな」


 そう言って、魔王は視線を宙に飛ばす。


「――どうすれば私を討伐させることができるか、試行錯誤したものの百年以上成果がなくてな。途方に暮れていた頃、神から託宣を頂いたのだ」

「神様?」


 まさかシア?


「ああ、空間を司る神、メイワーシェルス様からな」


 違ったか。


「ここより遥か彼方、異空の世界より救い手となる者を招け、とな。そしてあの転送装置を作るための基礎理論が私の脳裏に刻まれた。――もちろん実際に作り上げるには、ロゼルをはじめとした研究部門・技術部門の労力が相当に費やされた」

「なるほど」


 ここの世界にとってもオーバーテクノロジーみたいなものだったのか。


「だが、それの完成が見えてきた頃、課題も明らかになった。――転送するものの大きさに応じて、膨大な燃料・費用が発生するとな」


 うっ、私が目をそらしていた事を。


「……ちなみにちなみに、人ひとり転送した場合、どのぐらいの費用が?」

「魔力や換金できない希少素材を除いた範囲でだが、往復で1,600億ほどか」

「せっ……」


 ……えーと、1億円っていくらだっけ……


「ああ、こちらの通貨――カラルでの数字だった。地球の通貨――円だったか? それにすると、バランが言うにはその90倍から120倍に相当するらしい」


 はいこの話終わり。おーわーりー!

 もう気軽に帰ったりできなくなるじゃないの――って、今の状況は魔王城の財政的にはラッキーな事態なのか。


 あのロゼルって子がそれを計算したとは思えないけど。


 こちらの煩悶をよそに、魔王は説明を続ける。


「さすがにそれだけの費用を捻出するのは難しかったので、どうすれば良いか考えた末の結論が、魂だけを連れてくるというものだった。幸い、その技術は私が得意とするものだったのでな」

「そうなんですか?」

「ああ。魔獣の生成において、魂を扱う必要がある。あれは私の中にある魂の坩堝から一定量を引き出し、血肉の塊に混ぜ合わせるのだ」

「あの、アルザードなんかですか」

「そうだ。アレは1体あたりの魂をかなり大きく取り、血肉となる材料も質の良い物を選んだ」

「……なるほど」


 魔王のスキル【魔獣生成】:自身の経験値と素材を消費することで魔獣を生み出す。魔獣の強さは消費した経験値量と素材の性質によって決定する。


「――みたいなものですか?」

「概ねそのようなものだ」


 苦笑する魔王。


「だが異世界の魂を魔獣生成と同様に扱っては、結局できあがるのが言葉を持たぬ魔獣になってしまう恐れがあったからな。それで転送装置の製作と並行して、器となる素体の研究に取りかかった」

「そっちは神様教えてくれなかったんですか」

「……当初のうちはな」


 少しだけ、魔王は目を逸らした。


「……素体の製作は難航した。基礎理論を神から賜った転送装置より、遥かにな。最初の託宣から70年で転送装置は完成したのだが、素体の研究はそこからさらに50年続いた」

「今更ですけど、魔族って寿命どのぐらいですか」

「平均で300年というところだな」

「そうですか……」


 魔王やバラン、それにサーシャやロゼルが何歳か聞いてみたい気もするし、知りたくない気分でもある。


 ロゼルなんて、完全に年下の女の子だと思って見てるからなあ。


「停滞していた状況を突破したのが、ロゼルだった」

「おお」


 なんかそういう立ち位置が似合うな、あの子。


「ロゼルはある日、研究室を占拠した」

「また? ――っていうか、その時も?」

「そうだな」


 疲れたように目頭を揉む魔王様。


「私が力任せに突破しようかとも考えたが、室内の貴重な素材や道具を破壊する危険があったのでな……。奴が出てきたのは7日後だ。げっそりと痩せていた。こちらが説教や仕置をする前に倒れ込み、気持ちよさそうに眠り始めた」


 あ、なんだか目に浮かぶような。


「そして研究室内には、完成された素体が横たわっていた」


 ふむ、できたての私の身体が。


「魔王様……、私の裸、見たんですね?」

「なっ!?」


 あ、珍しく狼狽えた。


「いや、違うぞ、あの時は先に研究部門の者達が確認を行ったし、私が見たのは安全が確保されてからで――」

「あの、冗談ですよ」


 だいたい、まだ私の魂が入る前のことだし、病院で診察されるようなもんだし、――なによりこの身体、シルエットこそ女だけど、明らかにメカっぽいからね。

 ぶっちゃけ、すっぱでも「いやらしい」より「強そう」とか「かっこいい」の方が先に浮かぶ外見なのだ。


「脅かすな」


 魔王が口を尖らせる。


「まあ、それで――ロゼルは何日も寝たままでな、その間に我々は素体の完成度を確かめ、そして転送装置の起動を行った。まず転送先での肉体となるスライムを送り、続いて私の魂だけで向こうへ渡り――そして2度目の渡航時に、現地の住民からふいに名を呼ばれた」


 私か。


「この者だと私は直感し、機を逃してはなるまいと、強引に連れ帰った」


「魔王様、そういえばあのとき言いましたよね。『ヴォーソライネン』って」

「……ああ」


 こちらの世界の言葉で『心から謝罪する』。


「魔王様ともあろう方が短期間に2回も言うなんて」

「……3度目が無いよう、重々注意する」


 と、やや恥ずかしそうに魔王は言った。

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