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ロゼルという少女

 これからのこと。


 とうぶん帰還できなくなった私の処遇とか、とりあえずロゼルに下される罰の内容とか、現時点で想定できる範囲の地球における私が被る影響とか、その補填とか、魔王討伐に協力するという本来の目的はいったん中断すべきだろう、とか。


 最後のは私が出した希望ではなく、魔王から提示された。


「イオリには自身の余暇をもって我々に協力してもらうという契約だった。それがこの事態だ。引き続きよろしくなどと言える立場ではない」

 

 魔王は、転送装置が直るまで私は完全に自由時間&生活の全保証&その間も報酬は割増で払う、などと言い出した。


「いや、退屈で死んじゃいます」


 なにより、これはある意味チャンスでもあるのだ。

 そりゃ面倒なことになったという気持ちは強いし、迷惑を受けたという自覚もあるけど、私には

「未来のゲームやり放題空間」を手に入れるという使命があるのだ。


 これからの7年間――2,000日で、魔王討伐計画を一気に進めれば目標までぐっと近づく。

 そうだ! この被害は元を辿ればシアの責任だって押し通して、魅惑のゲーム天国にイートインとかドリンクバーとかつけてもらうのはどうだろう? もちろん無料かつ無限の。それが叶えば私は就職もせずゲーム漬けの日々を安寧と――。


 やばい、妄想してたら顔がにやけそうだ。

 この場面で笑ったらショックで精神に異常を、とか疑われてしまう。


 私は真面目な表情を装って、魔王に言う。


「引き続き、今まで通り協力させてください。魔王様自身に裏切られたとかじゃないんですから、別に恨んでません。それに人族の領土を視察するのも、どうやって日数を賄おうか悩んでたじゃないですか。いい機会っちゃあ、いい機会ですよ」

「……イオリ……」


 あ、魔王が感動してるっぽい。

 バランもキラキラした目でこっち見てるし。


 ……シアからの報酬の件、言わないほうが良さそうだな……。

 雰囲気ぶち壊しそうだもん。



 話が落ち着いたところで、


「本人からも謝罪させるべきだと思ってな」


 拘束されたロゼルを連れてきた理由を魔王は語った。


 口をぐるぐる巻きにしていた包帯をバランが解いていく。よく見ると包帯の裏側には、呪文みたいなのが書き連ねてあった。


 最後のひと巻きを解かれると、ロゼルは「ぷはぁ」と息を吐いた。

 そして私に向けて、満面の笑みで、


「こんにちはイオリ! 私がママよ!」


 元気よく大声をあげた。


 ズゴガンッ、みたいな効果音で振り下ろされる魔王のゲンコツ。


「いぃったい魔王様、ひどい!」

「やかましい! よりによって第一声がそれか貴様!」


 珍しく声を張る魔王。


 そして穏やかな――なのに心が冷えるような微笑みをたたえたバランが、ぽん、とロゼルの頭に手を置く。


「あれだけ、私が言ったことを、忘れましたか、ロゼル?」


 ゆっくりと告げるバラン。

 ロゼルの顔がひきつる。


「やだなあ兄ちゃん、覚えてますって、……ごめんなさい」

「誰が、私に、謝れと?」

 

 ばっと私へ顔を向けるロゼル。


「ごめんなさいイオリ! 私のせいで帰れなくなっちゃって。でもせっかくだから色々聞かせてね! まず痛みは感じる? それ次第でやり方変わってくるから――」


 再び振り下ろされる魔王の拳。

 さっきよりも笑みを深めて頭に手を――ではなくアイアンクローをきめるバラン。



「――ごめんなさい。あの転送装置は全力で直します。反省もしてます。どんな罰でも受けます」


 あれからさらに何度かリテイクを受け、ようやく普通のテンションで謝罪するロゼル。


 私はといえば、色々なツッコミどころを溜めに溜め、何から訊こうか迷っていた。


「……あの、すっごく自然だから最初気づかなかったんだけど、日本語……」

「覚えさせました」


 こともなげに言うバラン。


「謝罪に際して、私が翻訳しては誠意が伝わりませんので」

「いやあ、難しいね、日本語って」


 ほがらかに笑うロゼル。


「これを基準にはするなよ」


 ややムスッとした魔王がそう言った。


「記憶力だけならバランを越える」

「……マジで、この3日で覚えたんですか……」

「薬や器具もだいぶ使ったけどね」


 そんなことをさらりとロゼルは言う。――深く突っ込まないでおこう。 


「あと、バランのこと兄ちゃんって」

「恥ずかしながら、妹です」


 実際恥ずかしそうに目を伏せるバラン。


「どうしてこのように育ってしまったか、私にも見当がつかず……」


 ふたりを見比べる。

 たしかに、白い角や緑の髪はそっくりである。

 それに穏やかな面差しのバランと活発な表情のロゼルでは印象がだいぶ違うけれど、パーツごとに集中して見れば確かに血の繋がりを感じさせるようだった。


 語学の才能も、血筋なのかな?



「……で、しょっぱな言ったことなんですけど……、ママって?」


「私が作ったの! イオリの身体を」


 相変わらず拘束台に固定されたままのロゼルが、自慢げに言った。


「全身、余すところなく! つまり私が親みたいなものだよね? そう言っていいよね? だから親としてイオリの調子を確認したいの! そして改造したいの! なんなら1回全部バラして組み立てなおしたりもしてみたいな!」


「バラン」

「はい」


 さっき解いた包帯を再びロゼルの口に巻いていくバラン。


「そんな、兄ちゃんひど――」


 途中でかき消えるロゼルの大声。


「――大変失礼しました」


 深々とバランが頭を下げる。


「……いえ、元気で可愛い妹ですね」


 私はかろうじて、そう言った。

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