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もちろん帰りは帰りでロゼルが大変でした

「――で、その2人、男の人がダーミンさん、女の人がシェファーナさんっていうんだけど、どっちも神の恩寵で不老不死になってるそうでね。少なくとも何千年か生きてるみたい。ちなみにダーミンさんはレベルがヴィトワース大公ぐらいありそうだったよ。しかも実はその2人だけじゃなくて他にも何人かいるみたいでさ。不死者の集団だったわけ。その洞窟の奥深く、あ、普通の人は死ぬ類の通路らしいんだけど、そこに住んでるから普通の人たちは『歩く船』で向かうしかないんだって。それもダーミンさんたちが開発したみたい。で、今度来たときには役立つ情報とか古代の魔道具とかお土産にしてくれるって。千年以上前の武具とかちゃんと使えるのかって疑問はあるけど、古いほうが強かったりするのかな?」


 という感じでざっと説明したのだけれど、みんなリアクションしてくれない。


 フリューネは祈るように両手を組んで目を閉じている。

 エクスナは両腕を投げ出して机に突っ伏している。

 リョウバは目頭を揉み、懐からお酒らしきスキットルを。


「ま、気持ちはわかるぜ」


 まだ仮想人格を解禁されていないシュラノがなんだか楽しそうに言う。


「ええ。自分も聞いた日は寝付きが悪かったのを覚えています」


 こちらは敬語を解禁されてどことなく嬉しそうなカゲヤ。



 ――思ったより色々あった旅を終えて。


 領主館の会議室にて、まずはカゲヤが隠れ里での『歩く船』製作について報告し、続いて山岳地帯でチンピラ集団を蹴散らすところまでをシュラノが、最後にダーミンさんたちとの会話を私が、と順々に説明を終えたわけだけれども。


「あ、そろそろ日が暮れますね」


 突っ伏した姿勢のまま横目で窓を見たエクスナが言う。


「どうですか皆さん、今日はいったんぜーんぶ棚上げして今すぐ飲み会になだれ込みませんかそうしませんか?」


「……とても、とっっても同意したいところなのですが」


 いまだ目を開けない妹が絞り出すように言う。


「最低限判断しなければならないことは今日中に……、あ、いえ、そうでも、ない……?」


 ようやくぱちりを目を開き、首を傾げるフリューネ。


「『歩く船』は完成を待つのみ、隠れ里である故にお姉さまの活躍ぶりは広まりづらく、敵対した集団は退治されていますし、カーズという男も手の内、そして、不老不死の集団という信じがたい組織についても、あまりの話の大きさに気が遠くはなりましたが、その対応自体は格別急ぐことも……?」


「うん。たぶん時間感覚もそうとうゆっくりだろうし、次行くのが仮に何年後かでも『もう来たの?』とか言われそう」


 不老不死のキャラが言いがちなイメージだけで喋ってるけど。


「新たな問題を生み出すであろう班長も固定済みですし……!」


 力を込めてモカが言う。彼女の視線の先には両手両足を縛られ猿轡までされたロゼルが小さな金属の檻に閉じ込められている。意識はあるのでさっきまではバタバタ暴れていたけどさすがに疲れたのか今は恨めしそうな視線でモカを見返すばかりだ。

 なおこの地に帰ってきて速攻、荷解きもせずモカの研究所へ特攻をしかけたロゼルを、待ち構えていたモカが無数の罠で撃退するという派手なイベントもあったのだけど割愛します。


 そのロゼルへ若干引き気味の視線を向けつつフリューネは頷いた。


「そうなりますと、精々お姉さまへのお説教、もといお姉さまとの反省会ぐらいですが、まあ明日でも問題ないでしょう」

「フリューネ!?」

「ご安心を。ジルアダム帝国のときに比べれば半分にもなりませんよ」


 致命傷の半分は普通に重傷なのよ。


「じゃあ厨房に連絡してきますねー。よーし飲むぞ―!」


 エクスナが足取りも軽やかに会議室を出ていく。


「なあ、オレはそろそろ内に籠もりたいんだが」


 シュラノが手を上げてそう言うけれど、


「そう言うな、少なくとも今晩はそっちの人格でしっかりつき合ってもらうぞ」

 

 がしっとその肩を掴んでリョウバが言う。


「もちろんカゲヤもだ。……レイラ姫とご一緒の少人数旅行、おまけにエクスナの監視もないという絶好の機会を勝ち取った貴様らふたり、妙なことをしていないか厳重に聞き取りを行うから覚悟するがいい」

「はあ……」

「何を馬鹿な」


 面倒くさそうな表情のシュラノと憮然とするカゲヤ。


「実際、どうでしたか今回の組み合わせは」


 モカがそう尋ねてくるけれど、


「いや、まあ、なによりもまずロゼルがいたから」

「誠にご迷惑をおかけしました」


 素晴らしい反射速度で頭を下げられた。


「待って待って、頭上げて。たしかに誠に迷惑だったけどそれ以上に有能だったから連れてってよかった……よ?」


 喋りながら数々のランダムイベントが脳裏をよぎるけれど。


「あっ、そうそう、シュラノたちとも話してたんだよ。帰ったらモカも一緒にロゼルの話題でお酒を飲もうって」

「ありがとうございます、それはもう是非……!」


 さてと。


「じゃあフリューネ、私もちょっと部屋で休んできていいかな?」

「はい、お帰りになって早々のご報告ありがとうございました。夕食までどうぞごゆっくり」

「……机に仕事とか課題とか積まれたりしてないよね?」

「どうでしょう?」


 楽しそうに言うフリューネに笑みを返して部屋を出る。……ほんとにないよね?



「ふう……」


 幸い書類の山などなくきれいに掃除されている文机を越えてベッドにダイブする。体力的には疲れてないのだけど、長旅を終えて糊のきいたシーツに転がる感覚はとても心地よかった。


 考えることは多い。


「やっぱり言えないよなあ」


 呪いとは別の理由で、皆には報告しなかったこと。


 あの洞窟で最後にダーミンさんが話したことだ。



『――無数の時代を見てきた。魔王が倒されることなく、ちょうど1000年で大地が崩壊する時代が幾度も繰り返される時もあれば、次々と討伐されて5000年を越える繁栄がもたらされた時代もあった。僅か50年で輝かしい文明を築いた国があれば、2000年もの間まったく進歩せず原始的な生活を続ける国もあった。ああ、そういえば崩壊した大地を神々がなかなか復活させて頂けず数百年を暗黒の内に耐えた事もあったな』


『そうした途方もなく長い記憶、思い返すだけで年単位がかかるような積み重ねのなかで、我々は大抵のことをやり尽くしている』


『善行も、悪行も、有益なことも無益なことも。歴代の魔王と関わることも幾度となくあったよ。直接対峙して戦闘した者もいれば、協力して共に人族へ攻め込んだ者もいる』


『そうした記憶の厚みをもって君に伝えておこう』



『今代の魔王、シゼルイシュラの強さは異常だ』



『単身で人族も魔族も殺し尽くした【嘆きの魔王バァルザイブ】、神殺しを果たした【超克の魔王フィーンドセイラム】、海域まで支配下に置いた【大魔王アズ】、あるいは大陸全土を制した()()()覇王ランドナイド――そうした数多の最強のさらに至極と比較してなお、シゼルイシュラの強さは突出し過ぎている』


『……まるで神々が世界を終わらせるために遣わしたのかと思うほどにな』


 

「どうしろと」


 ベッドの上で仰向けになり、ぼそっと呟く。

 いやマジでどうしろと。


「あと150年……」


 魔王様の寿命――爆発のタイムリミットまでの時間。

 ダーミンさんのスケールが雄大すぎる語りを聞いたあとだとめちゃくちゃ短い時間に感じてしまう。


「そういえばシアって時を司ってるんだよなあ。150年を100倍ぐらい引き伸ばしたりとか――んあ?」


 うだうだと独り言を呟いている途中で気づいた。


 ダーミンさんの話からすると、これまでも歴代の魔王の多くが討伐されず1000年目で大爆発してきた。

 それは神々が設計したシステムで、つまりは想定通りのことが起きたというだけのこと。


 それなのに。


「なんで今回に限って、()()()()()()()()?」


 魔王に協力しろと言って、ご丁寧に地球から私を連れてくるための魔道具を与えるところから準備して。

 他の神様たちから怒られるようなことをわざわざ。


 人族に討伐されるため努力している、あの魔王様のもとへと。


「ダーミンさんが言う通り、強すぎるから? 違うな、別に討伐されなくても爆発して地上がリセットされるのは今まで何度もあったことだし」


 じゃあなんでだ?

 

「……今さらすぎて、見落としてたな」


 また大声だしてシアを呼んでもいいんだけど、さすがに降臨を自粛してそうだし来たら来たで周囲は大騒動フリューネは大激怒だろうし。


「やっぱ1回、魔王城に帰らないとか」


 魔王様とそろそろ話すタイミングのようだ。


ええと、とりあえず急ぎじゃないにしろ今回の旅の残務処理と、こないだの戦争で勝ち取った資金の使い道と、なんかみんな気合入ってる闘技大会の準備と、そろそろいい感じに醸成されてそうなダンジョン関連と、たぶん他にも私が忘れてるだけで確実になんかあったよなあ。もうすぐ冬になるから白嶺踏破が無理っぽくなりそうだし……。まあ、うん、できる範囲で早めに帰ろう。善処しよう。

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