not only Two
「さすがに能力の詳細は言えないが、私たちはそれぞれ異なる力で長大な人生を獲得している」
ダーミンさんは誇る様子もなく淡々とそう言った。
「市井に混ざってもやがて怪しまれるので、こうして山中に暮らしているわけだ。とはいえ他者との交流が途絶えると身体にはともかく頭脳には致命的なのでな。君が入手した地図のように、ある程度こちらの事情を推察して探そうと思えるような人物を招待しているのだよ」
「ああ、他にも同じようなものを仕掛けているんですね」
あの一箇所では流石にピンポイントすぎる。そういえばシュラノも昨日そんなことを言っていたな。
「そういうことだ。君について失礼な言い方をしてしまうと『大当たり』だな。なにしろ魔王の性質について呪いで他言できない、それは私たちのことについても他者に触れ回ることがほぼできないという信用が置けるのだからね」
「あー、そうですね。『不老不死の人がいる』ってことぐらいは言えるかもしれませんけど、どうやって探したのかとかどんな会話したかとかでたぶん発動しちゃうと思います。あ、一応前提として触れ回ることはしませんので。ただ、少数の仲間内には話す必要がありまして……、それって大丈夫でしょうか?」
くすくすとシェファーナさんが笑う。
「とっても正直なのね」
ダーミンさんは肩をすくめて答える。
「構わんよ。もともとこの山には不老長寿の獣がいるという噂も流れている。それもまあ、たまの刺激を必要とする故にあえて放置しているしな」
「そうなんですね」
まあ、少なくともダーミンさんはレベル500以上あるうえに不老不死、大抵の相手には無双できそうだ。シェファーナさんはレベル10ぐらいなので戦闘要員ではないようだけどそもそも不老不死なら勝てなくとも負けないだろうし。
「さて、そういったわけである程度理解してもらえただろうが、我々は基本的に隠居した老人だ。たまの来客に応対し、時折山を下りて世情を眺め、あとはのんびりしている。つまり――君のように魔王討伐などを目指しているわけではない」
「――っ、……ええ、わかります」
こちらもがんばって頭を使っているのでどうにかそう返せた。
私は魔王に協力していると自己紹介した。
もしも魔王の目的が人族の全滅とか世界征服的なものなら、討伐されないままだと地上を滅ぼすその性質について私に教える必要がないわけだ。
どうせなら大陸を巻き添えに大爆発してやろうなんて考えの場合も同様。
魔王の性質を知り、それを機密事項としつつもこうして人族の最奥まで足を運んでいる協力者とは、すなわち大陸の消滅を防ぐことが目的であると、ダーミンさんは読んだのだろう。
「ほう、また呪いに引っかかるかと思ったが……。となると君は普段からその立場を公言しているわけだ。おそらくは人族の内で確かな身分を持っているのかな」
つ、疲れる……! ひとつひとつの反応でいろんなことを吸われているこの感覚、しんどい……!
「あら、そういえばお茶も出していないわね、ごめんなさい」
それを察したようにシェファーナさんがそう言って立ち上がった。
壁際の壺へ柄杓を差し入れ、何やら液体が注がれる音。
「まずはこれをどうぞ。温かいものがよければ後で火を焚くからね」
「ありがとうございます」
木のコップに注がれた液体は薄暗い室内だと色合いもよくわからない。けれどおそらく常温のそれから漂うのはかなり上等の紅茶みたいな香りだ。
ひとくち飲んでみると、香りに違わず良い味のお茶だった。
「おいしいです」
「よかった。おかわりもあるからね」
シェファーナさん自身もお茶をすする。
「ダーミンはご覧の通り意地が悪いからよく誤解されるのだけど、私たちは決して長寿をいいことに普通の人たちを操ったり、まして世界を裏からどうこうしたりなんてしていないのよ。ほんとうに、ただただ平穏に日々を送っているわ。だからあなたの目的を邪魔したりもしないけれど、かといって全面的な協力も約束できない」
「はい」
たしかにダーミンさんの雰囲気はそういう感じだけど。かなり。
「でもこうして呼んでおいて、がんばって来てくれたお客さまに何も返さないのは不実だし、特にあなたにはあの子たちを助けれもらったお礼もしたい。だから私個人としては、できることはしてあげたいと思っているの」
そしてシェファーナさんはゆったりとした服の袖をまくり、そこにつけられている腕輪を私に見せた。魔石らしきものが2つ嵌っており、片方がぼんやりと光っている。この薄暗い洞窟でも淡く見える程度の輝きだ。けれど気配察知でははっきりと魔力が放たれているのを感じる。
「といっても私にはわかりやすい力なんてないから差し出せるのは情報ね。まずはもう少し、私たちの素性を教えるわ――はい聞いている人たち、ご挨拶」
彼女がもう片方の魔石を指先で叩くと、そこから声が響いた。
「どーもどーもこんにちはー! まあ見えないんだけど」
「挨拶もなにもねえだろ。ダーミンが言った通り解呪してから出直せって話だ」
「……同感」
「ん? なにしてんの」
「シェファーナたちが地上でお客さんとお喋り中」
「へー、久しぶり」
――複数の声が。
「ということなの」
もう一度魔石を叩き、静かになった空間でシェファーナさんは言った。
「多くの人が抱く夢である不老不死――当然ながら神の恩寵においても際立って珍しい力だけれど、それを得た者は何千年経とうと、幾度地上が崩壊しようと、決して滅することがない。つまり、ね」
微笑みかけられ、私は言葉を継ぐ。
「とてもゆっくりだけど、その力を持つ人数は増えていくってことですね」
「そういうこと」
私はふっとため息をつく。
不死者の集団。
……想像以上に規模の大きな話になってきた。
「あの地図――仲間を増やすのが本来の目的だったんですか」
千年王国の消滅、それは魔王の性質を知る者というよりも、その消滅に巻き込まれてなお死ななかった不老不死仲間への呼びかけ。
「あなたのように世界の真相に近いお客さまを呼ぶのも同じぐらい大切なことよ。実際、こうした会話がどのぐらい私たちにとって刺激的で有り難いものか、たぶん共感してもらうのは難しいと思う」
たしかに、同じ立場になれるわけもないし想像するにも余りある。
「さて、互いに少しずつ分かりあえて来たと思うが」
ダーミンさんがそう切り出した。
「聞いての通り、やはり君には呪いを解いてもらいたいところだ。今後も交流していくためにはね」
まあ、そりゃそうですよね。
「呪いという制約を除けば私たちは君の訪問を歓迎する。シェファーナが言った通り協力もしよう。だから具体的な話はまた次回を楽しみに、と締めくくりたいところだが……、君の方から聞きたいことはあるかな」
うーん、呪いに抵触しない範囲でできる質問かあ……。
「あ、そうだ」思いついた。「ロンズさん――あのさっきいた男の人の片方なんですけど、ダーミンさんが以前会ったときに『歩く船』を造っておくことを薦められたと聞いてまして、その理由って教えてもらえますか」
「そうだったな」
ダーミンさんも思い出したように頷いた。
「ちなみに、作る当てはついているのかな」
「はい。もう捕獲まで済ませています」
「ほう」感心したように目を見開くダーミンさん。「それはそれは、たいしたものだ。ああ、理由だが――さっき声を出していた連中、彼らがいる場所がすなわち私たちの拠点でもあるのだが、一応、この洞窟の奥から行けなくはない」
「そうなんですか」
「うむ、ただ途中が浸水していて3時間以上潜水したり、空気が毒されている通路があったり、怪物がいたりするのでな、そもそも不老不死でもないと通過できないのだ」
これ以上ないセキュリティというわけですか。――私なら行けなくもないのか? いや毒はやっぱきついな。息もそこまで保つか試したことはないし……。
「そもそも、最短でも40日は真っ暗な地下を進むから、よく鍛えた戦士でも精神に異常をきたすのよ。そのまま遭難してしまうわね」
シェファーナさんもそう補足する。
「まあ、我々としても毎回そうした苦行を辿るのは避けたいのでな、幸いなことに拠点の近くから海中へと抜けられる道があるのだよ」
「ああ……、それで」
「うむ。仲間のひとりが『歩く船』を開発したのだ。だが実際製作するのには人手がいるのでね、君たちも知るあの村へ当時協力を頼み、報酬の1つとしてその技術を伝えたというわけだ」
果たして何百年前の話なのやら。
「そういうわけで、君が無事に呪いを解き、『歩く船』が完成したら是非とも我々の拠点へ招待しよう。情報だけでなく、それなりの土産も約束するよ」
ダーミンさんはこころなしか楽しそうに目を細めた。
「なにしろ地上には現存しない、1000年以上前の武具や魔道具がそろっているからな」




