この旅の本題これからなのにお腹いっぱいになってきた
「あんた達の危険性を訴え、そのうえ狙いも被っているし、おまけに自分たちが逆恨みされているから奇襲すべきだ――そんなことを言い始めたのがこいつだった」
剣使いの男の死体を墓穴に入れ、土を被せながらヒゲ男は説明した。
「それに追従したのが、あんた達に先に捕まった男だ」
罠探知器になってもらった彼のことか。
「こっちの奴は、会ってそう日が経っていないが気性の荒さは十分わかる類の男でな。あー……、特にあんたがとんでもない美人だって話に食いついていた」
続いて斧使いの首無し死体を持ち上げながら説明は続く。
「ふうっ」
死体を安置して息をついてからヒゲ男の視線は最後の1体、自分が射殺した女へと向けられた。
「あいつは、この男の連れだった。……死者の悪口が続いちまうが、まあ、こいつの気性を理解したうえで長年連れ添ってたらしくてな、あんたを襲おうって息巻いてるところを笑いながら見ていたよ」
「……そう」
聞いてる限り完璧にチンピラ集団だ。いや実際行動に出てるんだから普通に犯罪者集団でいいか。
「こいつらはラーナルトから来たと言っていた。俺はこの黎明都市に住んでいるんだが、こいつらと同じく狩人ギルドに属していて、土地勘もあるってわけで、昔世話になった人に頼まれてな。協力を引き受けたんだ」
そこまで言ってから、ヒゲ男は「あー……」と少々悩むように顎を掻いた。
「その、責任回避ってわけじゃないんだ。協力すると決めたのは俺で、その結果としてあんたに弓を向けた。今の戦闘中、森の中から射ったのはすべて俺だ」
だろうなとは思った。あのステルス射撃は言っちゃなんだけど激情家っぽかったあっちの女が習得していたとは思いにくい。
「聞きたいんだけど、ここまでの罠を仕掛けたのは?」
「ああ、そっちはこの2人だ」
斧使いと女を指して男は答えた。
「ただ、仕掛けの矢に使った毒は俺が提供した」
ここまで虚偽の気配はない。
「ふうん……、戦闘中の矢毒を麻痺に変えたのはあなたの判断?」
「そうだ」
「どうして?」
「単純に、そう多く死毒を持っていなかったというだけだ」
「そのつまらない嘘はなに?」
気配の揺れを感じて即座に切り込むと、目に見えて男は狼狽えた。
「……あんたたちが麻痺にやられれば、死なずに済むんじゃないかと期待したんだ」
今のは本音らしい。
……けど、それって。
「半端だな」
そう言い放ったのはシュラノだった。
「こいつらの言動を見りゃ、オレたちは動けなくなった時点で殺されただろうし、こっちは……」
私を見て言いづらそうにしながらもシュラノは続ける。
「まあ、死んだほうがマシだって思うような目にあった可能性は高い。――あんたもそのぐらいは想像つくだろ? 単に自分では殺したくねえって駄々こねながら武器はしっかり振るってやがる。そんで仕舞いには背中からの仲間殺しだ。腕はあるっつうのになんだその中途半端はよ?」
刺々しい口調だった。
「……返す言葉もない」
男は怒りを見せず、かといって悲壮になるわけでもなく静かにそう答えた。
この気配の感じは……、うーん、まあ突っ込んで聞くこともないかな。
「こっちを攻撃した経緯はわかった。それで、このふたりのアレについては?」
剣使いと斧使い、『不老不死になった』と自称していた死体を指して私は尋ねた。
「ああ。あんた達も白金の獣を追っていたんだろう?」
「んー、正確には違ったんだけど、まあそこは流して。それで、その獣は仕留めたの?」
「いいや。見つけはしたが隙がなくてな。それで風下に移動している最中にとんでもない大声がして――あれはあんただったのか?」
「そう」
「そうか……」
ヒゲ男は首を振った。
ギリギリのタイミングだったようだけど、うまくいってたのか。
「逃げる獣を狙って射ったが、急所でも脚でもなかったから逃げられた。だが血は流れていてな。――こいつらは、血が染みた地面を掘ってその土を食ったんだよ」
「うわ……」
好奇心が強いのか、衛生観念が低いのか、あるいは私への執念だったのか。
「しばらくすると何かしらの実感があったようでな、互いに軽く傷をつけたらすぐに治ったのを見て大笑いしていた。そして獣を追うのはいったん止めて、大声のした方へと戻ってきたというわけだ」
そして私たちと接敵したと。
「本当に不老不死になったのかは判断できないが、少なくとも勝手に傷が癒えるのを見た時点で、あんた達に勝ち目はないと思った。だからこちら側に大きな損害を出さずにあんた達を行動不能にすれば、少なくともこの場で殺される確率は下がるんじゃないかと――そんなことを期待して麻痺毒を使ったんだが……、あんたに言われた通りだ、半端な行動だったよ」
男の視線をシュラノは受け止めたが、答える言葉はなかった。
「そして同じようにこいつらの傷が癒える能力を見たあんた達は、俺と違って構わず戦闘を続け、『不老不死なんかじゃない』ってことまで証明してみせた。それは同時に連れ添いが死んだことをあの女が理解したってこともでもあった。その怒りでもって脅威の底が知れないあんた達に特攻したのは蛮勇だが、それを降参の証明に使った俺よりはよほど人間味があったんんだろう」
……んー、なんだろうこのヒゲ男の言動。
たぶん有能っぽいんだけど悲観的で自虐的で、全体的に漂わせてるのは『諦め』の気配。
あー、あれだ、ちょっと前バストアク王に似てるんだ。だから苛つくのかな。
「そういえばあなたの名前は?」
「カーズだ」
「カーズ、それでこれからどうしたいの?」
ヒゲ男――カーズは確かめるように私を見る。
「殺さないのか?」
「それも含めて答えて」
そう私は返した。軽く睨みつけるような視線と共に。
「死にたいのか、生きてなにかしたいのか、なにも負いたくないのか」
最後の言葉で、痛みが走ったようにカーズの目が眇められた。
しばらくの無言の後に彼は口を開く。
「詫びも含めて、あんたの下で働きたいと言ったら?」
「ついさっき仲間を射った男を信用できる担保があるなら」
そう言うと、カーズは懐を探って2枚のカードを差し出してきた。
「狩人ギルドと冒険者ギルドのライセンスだ。それから――」
近くの地面に転がっていた1本の矢を男は拾い上げた。墓穴に入れる前に女の後頭部から抜き取ったものだ。
「鏃と矢羽は俺が工夫しているものだから、狩人ギルドに見せれば判別がつく。仮に俺が姿を消したり――いや、怪しい素振りを見せただけでも構わない、これらを提示してこの墓のことも教えれば、俺は罪人として手配されるだろう」
「なるほど」
私は振り返ってロンズさんに視線で尋ねる。頷きが返ってきた。
「それじゃ、さっそく任せたいことがあるんだけど」
「ああ」
「あっちに、もうひとり生き残りがいる。最初に捕まった男。そいつと一緒に先に山を下りて、そうだな、とりあえず従えておいて」
「……あいつも部下にするということか?」
「任せる。まだ反抗心があるようなら衛兵にでも突き出して。ラーナルトに帰ろうとするなら同じように。あなたの目が届く範囲で、悪さしないように監視を。使えるようなら手足にしていい」
「わかった」
「私たちはまだここでやることがある。街に戻ってからこの先のことを話す」
カーズは頷き、男が転がっている森の奥へと歩み去っていった。
彼の姿が見えなくなってからシュラノが口を開く。
「あいつ、けっこうレベル高いんじゃないか?」
「うん。30は越えてたかな」
平均的な兵士と将軍格の間ぐらいってところか。
「似たようなのが同僚にいたよ。元軍人や傭兵、それも外傷や年齢以外の理由で退役した奴だ」
この世界にない単語だけど、つまりは戦場でなんらかのトラウマを抱えたということなんだろう。
「真面目でよく働くが、欲求や執着が薄い。平時なら優秀な働き手だが、大きな責任を負う場面で日和る――使い所は気をつける必要があるぞ」
「うん……、なんとなくだけどわかるよ」
でも、とロンズさんに聞こえないぐらいの小声で言う。
「あのおじさん、『神の恩寵』持ってた」
まじまじと私を見るシュラノ。
「……だからか。随分手際よく話を運んでるなと思ったが」
「まあね」
ヒゲ男――カーズと話してる間、私は気配察知をかなりフル活用していた。彼の感情の動きを、つぶさに観察しながら言葉や物腰を選んだ。
パッシブスキルで完全にオフにはできないため、普段シュラノたち仲間と話すときも勝手にある程度の感情は察してしまうけど、できるだけ深堀りしないようにしていた。ほとんど覗き行為みたいなものだから恥ずかしさとかズルさを感じてしまうのだ。
今回は敵として出会い、カーズ自身とは直接的な戦闘をしないまま降参されたので集中力の上がったモードのまま会話に入ってしまった。
そして間近で見た彼が恩寵持ちだと気づき、未だ戦闘用の思考回路で『彼を引き込もう』と決めながら話した結果がこの通りだ。
「こっちの実力を見せて、埋葬とか手伝う優しさだったり度量も披露しつつ、言葉は短めに、態度は冷たい感じで、互いの事情は俎上に上げないけど目的は秘めてる様子を忍ばせて――そういうのが刺さるんだなって把握しながら喋った」
「そうか」
「……怖い能力だよね」
「心配するな」
苦笑しながらシュラノは言う。
「お前は計算してないときの言動のほうが怖いぞ」




