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クラフトゲーの主人公はまず基礎腕力がおかしい

 頭部を失ったとはいえ不老不死らしき斧使い。

 同じく腹に刺さった槍を自分で抜き、回復中の剣使い。

 森には未だに伏兵2名が潜んだまま。


 ――とはいえこの瞬間の脅威度は下がっている。急いでロンズさんの近くまで移動した。


「肩と腕に創傷だが軽い! 左足に矢傷!」


 シュラノが教えてくれた箇所を見る。たしかに上半身には斬られた傷がいくつかあるけど、見たところ重傷ではないし、傷口が変色してもいない。どうやらあの剣と斧には毒なしか。狩りで解体にも使うからかな。


 けれど左膝の少し上に刺さっている矢は別だ。ロンズさんの発汗量からしてもおそらくは毒。


 ――普通は解毒薬も持ってるはずだよね。


「お願い、もう少し耐えられますか」

「……なんの、これしき、平熱とさして変わりませんな」


 ロンズさんの返事は力強い。


「あとは任せてください」


 立ち上がる。


「へへ、なんだよてめえ、なんで毒がまわってねえんだ? お前もあれか、もしかして俺らと似たようなもんなのか?」


 口元の血を拭い、へらへらと笑う剣使いの男。腹の傷はもうすぐ完治というところか。目の焦点が少し合ってないように見えるのは、脳内麻薬がキマりすぎているのかもしれない。


「一緒にするな」


 言い放ち、跳躍する。

 地面に仕掛けた罠はこれでスルーできる――が、狙い澄ました矢の一撃が空中にいる私へと飛来する。予想通りだ。


 パシッ


「なっ!?」


 森の奥から、押し殺した声が届く。

 掴み取った矢を手の内で反転させ、着地した位置は剣使いの目前。まるで反応できていない男の眼球へと、握った矢を突き刺した。


「ぎあああぁっ!」


 膝をついて悲鳴を上げる男の手から剣が落ちる。不老不死とはいえ、毒耐性もちゃんとついてるのかな? 死なないまま毒に苦しみ続けるとか最悪の人生だぞ。


「あれ?」


 もう片方、斧使いの様子が妙だった。

 魔眼光殺法で首から上が消し飛んだ身体は、手足をビクビクと痙攣させているけれど回復しているようには見えない。傷口からは血が流れ続け、それだけでも致死量に思える。


 ――不老不死ってほどじゃないのか? マジで私と似たような自動回復って程度?


「ぐあ……っ、が……」


 剣使いの方も矢は引き抜いたものの苦痛の声は止まず、その場に倒れてしまった。こちらは潰れた眼球が回復し始めているが、おそらくは毒が消えていない。


 そして、斧使いの方はとうとう痙攣すら止まった。

 合わせたように、首からの出血も勢いを落としていく。

 魂が身体から抜けていくのが見える。

 ――死んだ。


「あああああっ!」

 

 悲鳴のような大声とともに、向こうの伏兵が森から駆け出してくる。

 目を血走らせた女だ。

 さっきまでは潜めていた気配が、怒りと殺意で塗りつぶされている。


 疾走しながら矢を放ってくる。

 避ける。

 女は弓を捨て、腰から短刀を抜き放つ。

 背後ではシュラノが魔力を溜める気配。

 そして森の奥からは最後の伏兵が、これまでと違い殺気を抑えずに――


 ん? 狙いが――


 背後に手をかざしてシュラノを制止。

 女が間合いに入るまであと数歩。

 そして森からは弓の弦が鳴る音。


 ズカンッ、と重たくも甲高い音を立てて、矢は()()()()()()突き刺さった。


 ぐるんっと目が裏返り、手足をばたつかせながら女は見当違いの方向へ走り、ほどなくぐにゃりと全身から力が失せ、最後には地に倒れていった。


「…………」


 静かになった森の奥から、最後のひとりが姿を見せる。

 ヒゲを生やした男だ。弓と矢筒を近くの木に立てかけ、両手を上げてゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 5メートルほどの距離で止まった男に声を掛けた。


「降参、ってことでいいの?」

「ああ。それを受け入れてくれると言うなら、だが」


 落ち着いた声音と表情だ。


「うん。説明次第だね」

「もちろんだ。まず何より先に――」


 ロンズさんへと視線を向けてヒゲ男は言う。


「その男が受けた毒に致死性はない。麻痺毒だ。もちろん解毒薬の用意はあるし、予備はあるからまず俺が飲んで見せてもいい。交渉の材料なんかに使うつもりはない」


 ――嘘をついている気配も、殺気や敵意もないな。


「じゃあ――」


 薬を受け取ろうと口を開きかけたとき、


「ぬうおおおおおっ!」


 後ろから大声が轟いた。

 確認するまでもなくロンズさんだ。


「動ける、のか……?」


 ヒゲ男がびっくりしている。


 肩で息を切らしつつロンズさんは吠えた。


「死毒ですらないものに倒れっぱなしでいられましょうか! 何よりこの身はつい先ほど偉大なる指導者の御業を目にする光栄に浴したものなれば! おお天の女神もご照覧あれ我が熱による消毒ををオオオ!」


 吠えながらロンズさんの身体が上下運動を始める。

 ……スクワットだ。腕も大きく振って、ものすごい速度でスクワットしてる。

 もともと毒によって流れていた汗がさらに量を増し、なんだか湯気が立ってるような気がして思わず後ずさってしまう。

 ヒゲ男も困ったようにロンズさんと私を交互に見る。いやこっち見られても私だって困るんですけどこの状況。


「かあああああぁっっ!」


 山中に奇声を轟かせながらロンズさんはスクワットを限りなく繰り返し、やがて力尽きたように膝をついた。


「ぜっ……、はっ……、や、やりましたぞサクラ殿……、我が体内より、毒が消え去ったのを感じます……!」


 急な運動で毒がまわった挙げ句の幻覚ではと疑ったけど、たしかに視線は定まってるし嫌な息の切れ方でもない、なにより深呼吸をしてからロンズさんはすっくと立ち上がってみせた。


「あー、うん、よかったですね……?」

「はい! この秘奥につける名称は後ほどじっくりとご相談させて頂きたく」

「えっと、そうね……」


 お任せしますと言いかけたけど迂闊に預けると私の名前とか技名に刻まれるおそれがある。


「その、一応解毒薬も飲むか? 健康なときに飲んでも害はないが……」


 おずおずと男が申し出る。


「……とりあえず、後回しで」


 なんとなく弛緩した空気の中、私がそう答えると男は素直に引き下がった。


「なら次の話をさせてもらいたいが、まずこいつは俺の方でとどめを刺してやってもいいだろうか?」


 ヒゲ男が示したのは剣使い。こちらは毒がまわりきっているのか、倒れ伏して動かないが表情は苦痛に歪んでいる。

 ……罠の除去をさせた男は、実のところこちらに直接攻撃を仕掛けたことがなかったので見逃しているけど、こっちの男はどうしようもない。


「任せる」

「感謝する」


 ヒゲ男は落ちていた剣を拾い上げ、その持ち主だった男の首を両断した。


「――毒もそうだが、()()()のこともある。食い散らされると何が起きるかわからないので、埋めながら説明させてもらっても構わないか?」

「うん。穴掘りは任せて」


 心得たようにロンズさんが森へと走り――そう、さっきまで毒にやられてた身で軽やかに走り――私たちの荷物を持ってくる。合わせてシュラノも警戒を解いたのか森から出てこちらへと合流。


 リュックから小型のスコップを取り出す。なお幸いなことに未使用のままここまで着いたけど、主な用途はトイレの始末だ。


 自分がやるというヒゲ男を制してスコップを振るう。杏仁豆腐をすくうより楽なぐらいだ。

 3体分の墓穴が、あっという間に掘り上がった。


「……たしかに、出しゃばった真似だったな……」

「気にするな、こいつがおかしいだけだから」


 脇に積まれた土の山を見ながら呆然と呟くヒゲ男に、シュラノが半笑いで答えていた。

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