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バステやデバフがボスにも効くゲームの方が好きではあるけど

 隣の山との稜線にある少し開けた場所に、相手は立っていた。


「ひとりか?」

「そっちも足りないみたいだけど」


 相手の問いにそう返す。

 シュラノとロンズさんは背後の森に隠れていた。


 私と対面しているのは2人。昨日見たうちのもう片方と、見知らぬ男だ。どちらも身だしなみという言葉をたいして気にしてない感じだけど、手にしている武器だけはよく手入れされているようで、曇りのない刃がぎらついている。


「あいつはどうした?」

 

 昨日見たほう、片手剣を持っている男が尋ねる。灰色の髪を乱雑に伸ばし、体格は標準、鎧はつけていない。


「生きてるよ。片足折れてるから帰りは苦労すると思うけど」


 罠探知機になってもらった男は仕掛けから解放したうえであらためて手足を縛り猿ぐつわもかませ、シュラノたちの近くに転がしている。


「そうかよ」


 男は唇を舐めてにやりと笑う。


「よく無事にここまで来たな?」


 もうひとりも口を開いた。片刃の斧を持っている。坊主頭でわりと背が高い。こちらは革製の胸当てや、肘と膝だけを保護するガーダーを装備していた。


「仲間が優秀でね」


 最後は協力してくれたし、一応あの男のことは売らないでおこう。……向こうの口調から、察している気もするけど。


 どちらもレベルは高くない。10ちょいってとこかな。正直いろんな相手と闘ってきた今、いくら油断したって負けようがないとすら言える。スタンみたいな異常個体がそうそういてたまるか。

 とはいえそれは普通に闘った場合で、さっきも痛感したように罠と毒を駆使されたら話は別だ。加えてこの場にいない残り2人――まあ向こうの森に隠れてるのは気配でわかるのだけど、そっちからの攻撃も気にしておく必要がある。


「こっちも聞きたいんだけど、わざわざ待っててくれたのはどういうつもり? やっぱり私への復讐?」


 剣使いの方が下卑た笑みを浮かべる。


「まあ、そんなもんだ。機会がありゃあ、てめえの身体たっぷり楽しんでから最後に穴を増やしてやろうと思ってたぜ。脳天でも心臓でも好きなところによ」


 ……あのときは見逃したけど、仕留めとくんだったな。


「そっちのアンタは? 私が殺した奴の友達だったとか?」


 斧使いも気配察知したくないぐらい欲望むき出しの視線で私を見ている。


「別に。ただこいつから話を聞いて、手伝ってやろうって気になっただけだ」

「ふうん……」


 周囲の地面を見る。どっかに罠が仕掛けられてるのかもしれないけど、草は生えてるし岩も転がってるので、ぱっと見てわかるようなものじゃなさそうだ。


「じゃあ、私がどんぐらい化物かってのも聞いた?」


 剣使いの男へと、握っていた石を投げつけた。

 あのときも同じ攻撃だったっけな。


「げはっ!」


 直前に同じようなサイズの石で何度か練習したので、あとは私の器用さ任せ。クリーンヒットではないものの、投石は男の脇腹を貫通した。


「あっ、ごめん、先に穴空けちゃった」


 斧使いが目を丸くして倒れた男へと向いた隙にポケットから次の石を掴む。


 剣使いは手足をビクビクと震わせて苦痛に歪んだ声を、


「がっ、あ……、痛え、痛えな、へ、へはははは!」

「ん?」


 苦悶の声から気味の悪い笑いへ。


「なんだこれ、痛え、すげぇ痛え、気色わりい、いや、気持ちいいなァ!」


 むくりと起き上がる男。抉れた脇腹がぞわぞわと蠢き、根が生えるように傷口を血管や筋肉が埋めていき、修復されていく。


「うわ気持ち悪っ」


 仲間が聞いたら『お前が言うな』と声を揃えられたことだろう。


「っはは、嘘だろ、そこまでの代物かよ」

「当たり前だろ? なんたって不老不死だ」


 2人の男が笑い合っている。

 

 ――間に合わなかったのか。


「狩ったの? 白金色の獣ってやつ」

「見ての通りだな」


 服が破れただけにしか見えない、傷跡すら残っていない脇腹を見せつけるようにする男。


「んで食べたんだ? 心臓だか肉だか」

「どうかな?」


 薄ら笑いを浮かべた2人がじりじりと間合いを詰めてくる。

 誤魔化すようなニュアンスが感じられたのはなぜだろう? 単に食べるだけじゃなくて、儀式とか呪文とか必要なのだろうか。


「親切に教えといてやるがよ、こいつも同じだぜ」


 斧使いを指さして男は言う。


「お前が化物なのは、残念ながら俺の悪夢じゃなくて現実だったってわかったけどよお、……言っただろ、『機会があれば』ってなあ!」


 剣が振りかぶられる。

 はっきり言って遅い。動作も雑。

 躱しつつカウンターでとりあえず頭を砕いてみるかな、と重心を変えたその瞬間、


 ――嘘でしょ『それ』使えるの!?


 バックステップ。

 男の剣が振り下ろされるよりも速く、眼の前を矢が通過した。


「シュラノ、ちょっと待機!」


 背後に声をかけつつ視線を矢の出処へ向ける。当然のように姿は見えない。

 そこにいるのは気配察知でとっくにわかっていたけれど、今の射撃は危なかった。

 殺気のない攻撃。

 リョウバやアルテナに戦闘訓練で何度もやられたものだ。

 あれに比べれば少し熟練度が低いみたいで、僅かに漏れた殺意を感じ取ってギリギリ避けることができた。


 シュラノも索敵で位置は把握しているだろうけど、あれを相手に射線を確保して攻めるのはリスクが高い。森の中で無音移動できるようなスキルはないので被弾上等の撃ち合いになってしまう。


 ――私が行ったほうがいいな。


「交代!」


 日本語で言った。

 当初の作戦は眼の前の2人を私が相手し、森に潜む方は突撃してくるならまとめて私が、遠距離を保つならシュラノが相手するというものだった。

 交代の合図では、シュラノが森からこいつらを牽制している間に、私が射手を仕留める。あらかじめ決めていたプランBだ。


 直前にこっちの言葉で待機と告げたので、眼の前の2人は油断している。ダッシュで矢を放った敵の方向へ――


「うわっ!?」


 数歩進んだところで足を取られた。

 嫌な感触――そして、激痛。


 思い切り転倒した拍子に足裏からさらに捩れるような痛みが走る。


「あぢぃっ!?」


 すかさず追撃してこようとした斧使いへシュラノが牽制射撃をしてくれる。その隙に腕だけで跳ね起きつつ距離を取った。

 何をやられたのか視線を向けると、まあ予想通りの落とし穴だ。2人が構えていた位置と森の中の射手の配置、そして私がどう動くか見事に予想していたわけか。


 さほど深くない穴にはトゲが埋められている。痛む足へと視線を落とすと、幸い貫通はしていないらしい。たぶん踵と小指の付け根あたりの2箇所。……そして、さっき矢を食らったときと同じように傷口が熱を持っている。


 ――接敵すればこっちのものだと油断していた私が悪いな。


 緊急事態だ、と頭に強く念じて義体のギアを上げる。

 痛みをこらえて状況を確認。

 森の奥から追撃の気配はないけど警戒は必須。あっちにも2人いるのでもう片方はより殺気を隠した攻撃ができる可能性も頭に入れておく。斧使いは左腕に火傷を負っているが、それも治りつつある。言っていた通りにこいつも剣使いと同じく不老不死の肉を食べたようだ。その剣使いはシュラノの潜むあたりを気にしつつ私を見ている。視線がキモい。周囲の地面はやっぱり私が見ても他に罠があるのかわからない。


 この状況で解毒に集中するのは無理だ。


 回りきる前になんとか目の前の2人の手足でも破壊するか――


「おおおおおっ!!!」


 雄叫びを上げて、ロンズさんが森から走り出てきた。護身用に持ってきていた短い槍の穂先には、仰々しい氷の刃が追加装備されている。

 驚く間もなく、男たちと私の間を線引きするようにシュラノの炎弾が放たれる。

 ふたりの意思は明白だった。

 この場で制止したり躊躇したりすることがどれだけ悪手かも。


 ――わかったけど絶対後で説教するからね!


 大きく跳躍して背後の森へ。大木の後ろに隠れ、ロンズさんの声と男たちの怒声、そして鳴り響く剣戟を無視して解毒に集中する。


 ――出ていけ、早く、今すぐ、でないと絶滅させるぞ貴様。


 もしもロンズさんが死んだら本気でこの毒の原料を地上から滅ぼすつもりで傷口に意識を注ぎ込む。


「……よしっ!」


 さっきよりも短時間で解毒を済ませる。傷口はまだ回復中だけど構うか。


 木の陰から出た瞬間に、また伏兵から矢が飛んでくる。相変わらず僅かな殺気だけど、トップギアに入った今なら躱すのは容易かった。

 真っ先に視界へ映ったのは、地に伏しているロンズさん。気配はちゃんと生きてる!

 剣使いは腹に氷の槍が刺さった状態で蹲っている。

 そしてロンズさんへと斧を振りかぶるもうひとりの男。


 ――魔眼光殺法。


 貫通式のレーザーが斧使いの頭部を消し飛ばしてからようやく、この緊迫した場面でなんてポーズをしてるんだ私、と冷えた頭のどこかで自分へツッコミが入った。

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