リアルマインスイーパー
ロンズさんを説得した後、あらためて作戦会議。
最終的に私の出した案が採用された。
「じゃ、お願い」
「おう」
まずシュラノとロンズさんは荷物から包帯を取り出し、ちぎって丸めて耳栓にする。さらにタオルで頭部をぐるぐる巻きにして、その上に上着をかぶる。
「――【零下砦】」
魔力節約のため小さく作った氷の部屋に入ったのはシュラノとロンズさんだけ。
そこまで準備が終わったところで私は彼らに背を向け、山の頂上――連中がいるだろう方角へ向く。
大きく息を吸う。
「 逃 げ て !!!!!!」
過去に1度だけ発動したことのある、本気の大声。
木々が激しくざわめき、一斉に鳥が飛び立ち、大小関係なく獣たちが駆け去っていく。
――これでおそらく、連中が追いかけてるという白金色の獣も驚いて逃げ出したことだろう。狩るのが難しくなったし、また叫ばれないようこちらを攻めてくるなら儲けものだ。
「よしっ」
振り返ると、【零下砦】の前面には無数のヒビが入っていた。その内側では2人がしゃがみ込み、頭を押さえている。
「終わったよー」
ガンガンと氷の壁を叩くと、ひび割れながらもまだ頑丈。さすがシュラノの魔術だ。
片手で耳のあたりを押さえたまま、シュラノが逆の手で空中に文字を書くような動作をすると氷壁がすうっと溶け落ちていった。
「……こんだけ備えても駄目だ、まだ視界が揺れてやがる……」
「あー、ごめん、ちょっと加減したほうがよかったかな」
「……? うまく聞こえねえ、ちょっと休むから次の準備しててくれ」
すまん、と片手を上げてシュラノに謝罪のジェスチャーをする。
「くっ、不覚……、大音量で不調を起こすとは人生初の体験です……っ、しかし流石は偉大なる指導者! 天に轟くその御声、たしかに我が魂へ刻み込みました!」
なんで今ので忠誠度上がるの!?
2人を休ませている間に、言われた通り次の準備を進める。
1.近くの木を蹴り倒します。
2.根っこと枝をちぎり取って、雑ながらも丸太に仕立てます。
3.少し戻ってさっき放置した男を回収します。絶望の表情を向けられても無視しましょう。
4.手首と足首を縛ったうえで、丸太の先端を男の背中に当て、括りつけます。叫ばれても気にせずしっかり固定しましょう。
「できた……!」
「おい、ふざけんな! なんだよこれは!?」
子供の頃、なにかの映画で見たことがあった。戦車の砲台の先っぽに鎖とか瓦礫をぶら下げた状態で進ませ、地雷を先に爆発させてからそこを通るというシーンを。
男が固定されているのとは反対側、丸太の端を小脇に抱えて持ち上げる。重心が先端に寄っているけどこのぐらいの重さなら全然余裕だ。高さを調節して、男の足が地面に軽く触れるぐらいにする。
「この状態で山を登っていけば、作動する罠にやられるのはアンタ。それが嫌なら必死に仕掛けを見つけることだね」
「…………っ!! て、てめえっ、冗談じゃねえ! やめろ! 解けこのバケモンがぁ!」
「あ、こらジタバタするな」
ちぎり取った枝から手頃なものを男の足に当てて固定。膝を曲げられないようにする。片足が折れているので濁った悲鳴が上がるけど自業自得だ諦めなさい。――うん、私意外と工作の才能があったりして?
「……あらゆる意味でイカれてるな」
回復したらしいシュラノが言う。
「なんでよ、賛成したじゃん」
「いや、効果的だとは思うぞ。ただ発想も実行できる精神と腕力もすべてが異常ってだけだ」
うーん、殺意をぶつけてきた相手には半ば自動的に冷酷スイッチが入るからなあ……。もはや慣れた感覚なので、これが義体の性質に起因するのか私の性格自体がこの世界に適応してきたのかわからなくなってきている今日この頃。
ロンズさんも立ち上がって頭から布や耳栓を外しているので、もう出発して大丈夫だろう。
よいしょ、とまたマインスイーパー的な丸太を抱えて先端の男を進行方向に構える。
「じゃ、行くよー」
「やめろォ!!」
暴れようとする男だけどもう身動きは取れない。そのつま先が地面を擦るように高さを調整しながら山を登っていく。大掛かりな道具なのでルートが限定されてしまうけど、罠発見スキルがゼロに近い私たちが一歩ずつ警戒しながら進むよりはずっと早いはずだ。
毒矢を受けた場所から何十メートルか無事に進んだところで、私は口を開いた。
「なんか見つけたんだね?」
「なっ!? そん――」
口ごもる男だけど、無駄だ。
私はずっと男の気配を探りながら進んでいた。それが大きく乱れたのを察知したから声をかけたというわけだ。
単純に丸太をT字とかX字とかにしたので同じように罠を探ってもそれなりに効果はあっただろう。それをわざわざ男のところまで戻ってこうした細工に仕立て上げたのは、私の気配察知スキルがあったから。
「ロンズさん」
「承知しました」
「無理はしないでね」
男の少し手前まで進んだロンズさんが四方に目を配る。『ここに罠がある』という最大の情報が得られたのなら、仕掛けを発見できる確率は高いとロンズさんが申し出たのだ。冒険者ギルドで働いていたときに色々学んだのだという。
「――っ、ありました! 地面に糸が張られています」
「シュラノ」
「おう、見えた」
小さな氷弾をシュラノが放ち、その糸を断ち切る。
シュンッ、とかすかな音とともに先ほどとは逆方向から矢が通り過ぎていった。
「芸が無い――と言いたいとこだが、気づかなけりゃ普通に引っかかってたな」
地面に目を凝らしながらシュラノが言う。切断されて地面に落ちたはずの糸は、もうどこにあるのかすぐにはわからない。しゃがんでよく探さないと見えないぐらいに細く、たぶん色も周囲に溶け込みやすいものなんだろう。
「でも見つけたんだから。この調子で行こう」
歩みを再開する。
「なんだよ……、なんだんだよてめぇら……」
力なく男が声を漏らす。
今こいつにやられるとマズいのは、目をつぶって罠に気づかないようにされること。まあそれでも物理的なセンサーにはなるし、闇の中でいつ罠にかかるかわらかない恐怖に、気力を失った様子の男が耐えられるとは思えなかった。
「あ、また罠」
男の気配から私が声を上げる。
「……糸は、ないようです」
周囲を探ったロンズさんが言う。
「……ん? まだ秋季だってのに葉が落ちすぎじゃねえか?」
「ああ! シュラノ殿の言う通りですな。風季もまだ先ですし、緑の葉が多いです」
ロンズさんが折った枝をホウキ代わりに地面の葉をどかしていくと、見つかったのは膝ぐらいまでの浅い落とし穴。もちろんトゲが仕込まれている。
「くっ……」
男が悔しそうに唸る。
「ああ、これだとお前は引っかからないからな」
同情しているかのように男の肩を叩くシュラノ。
さらに先へ進み、また発見。同じような糸のトラップだけど、ただでさえ視認しづらいのにさっきの罠からだいぶ距離があったので、普通に探しながら進んでいたら集中力が切れているところだろう。
シュラノの氷魔術で切断。横からなら見送るだけだが正面からの矢だとマズいので一応警戒していると、
バサッ、と背後から物音。
「――っ、マジか!」
トゲのついた丸太が振り子となり、凄い勢いで飛んできた。
持っていた方の丸太から手を離し、全力で集中。乱雑に埋め込まれたトゲの隙間を見据え、掌底で迎え撃つ。
重たい破砕音を上げて、丸太トラップは真っ二つにへし折れた。
「びっくりしたぁ。こんな大掛かりなもの、よく短時間で作れるな」
シュラノの索敵魔術にも引っかからないような距離を空けて迂回しながら私たちより先行し、これだけの罠を道中に仕掛けていく。思ったよりだいぶ手強い連中のようだ。
「なるほど、後ろから来る罠もお前は平気ってわけだな。巻き添えは食うだろうが、まあ吹き飛ぶ程度か」
私が手放したので丸太ごと地面に転がっている男を見下ろしてシュラノが言う。……たしかに、男が喋らなくても問題ないと高を括っていたこちらが甘かったか。
「ただ、さすがにこのような罠はもう作ってはいないでしょう」とロンズさんが言う。「本来ならこの時点で私たちは壊滅するか、負傷した仲間を連れ下山するか、そうでなくとも一歩ずつ罠を確かめていてはろくに距離を稼げません。向こうが獲物を仕留めるには十分でしょうから」
あらためて聞くと罠ってえげつないな……。これまでの戦闘って基本的にシンプルな正面衝突だったからなあ。
「さぁて、と」
罠探知機を拾い上げて声をかける。
「協力してくれとは言わないよ。ただ、反抗されっぱなしだと仕返しはしたくなるよね」
そう言って、抱えた丸太を回転させる。
「てっ、てめぇ、よせ……っ」
180度回転して頭が地面に向いた男は固定された状態でじたばたともがく。
「そういえばさ、人間って逆さのまま長い時間いると死んじゃうんだっけ? 血が脳に溜まって破裂するとか」
ネットかマンガでそんな小ネタがあったような。
「そうなのか? 聞いたことはねえな……」
首を傾げるシュラノ。エセ知識だったかな。
「……ま、試してみればわかんだろ」
続けてそう言い、悪そうな笑みを浮かべている。
「――っ、わかった、わかったぁ!」
男が叫ぶ。
「え? なにが?」
「言う! 見つけたら言う!」
「なにを? ちゃんと言って?」
「罠だよ!」
「ほんとに?」
「ああ、できるよ畜生! 俺たちゃ罠猟の専門家じゃねえんだ、あいつらの仕掛けなら俺だって全部わかる! ここまででわかってんだろ!」
……専門家じゃなくてもこれだけのトラップ仕掛けられるのか……。
ああでも、エクスナとか特殊軍ならもっとエグいの知ってそうだな……。
完璧に心が折れたらしき男の姿勢を戻し、さらに山道を進む。
本人が言った通り、そこからさらに2つの罠があったけれど男は素直にその位置と仕掛けの種類を白状した。
そして。
「――入った。右前方だ」
シュラノの索敵魔術に敵がヒットした。
「よっし、もう逃さない」
反撃開始だ。




