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色々な始まり

「お帰りなさいませ、イオリ様」

「ただいまー」

 

 3度目の、転移である。


 前回、魔王に連れられて人族との戦線を視察し、魔王城へ戻ったらタイムアップだったので地球へ戻り、またスケジュールを空けてこの世界へやって来た。


 今回は、携帯型のゲーム機を新たに1つ、最初に渡したハードの分も含めてソフトを大量に、もちろん電池も、とお土産が多い。

 据置は……、難しいだろうなあ。電源ケーブルを何に繋げばいいんだっていう大問題がある。

 あの勇者を拉致して雷呼んでもらって、大容量のバッテリーでも作るか?


「体調はいかがでしょうか?」


 心配そうなバランに、笑って手を振る。


「大丈夫です」


 前回の地球帰還時のことだ。


 元の身体に戻ってあの廃ビルで目覚めた私は、記憶に新しい戦争の様子をリアルに思い出し、嘔吐してしまった。

 慌てて窓に駆け寄ったので、室内を汚さないで済んだけど。

 そりゃ平和な日本の大学生が中身をぶちまけ合う戦争を目視したら、気分も悪くなる。

 加えて、それを傍観していただけ――というか、冷静に観察していた自分に対する罪悪感というか、違和感みたいなのも強かった。


 その場にいた魔王もかなり心配した様子だったけど、私のアテンドでだいぶ日数を使わせてしまっていたし、地球の12倍の速度で向こうの世界は時間が進んでいる。大丈夫だから早く戻って、と多少むりやりに見送ったのだった。



 その翌日は講義をサボり、家でボーッとしながら色々考えた。


 考えた結果はまだ全然まとまっていないけど、家でゆっくりしながらゲームをしていたら、少しずつ動く気にもなってきたので、こうしてまたこの世界へ来ている。


「今回も1日空けときましたから」

「かしこまりました」


 ちなみに前回の帰還時は、多少身体が凝っていたものの、意外なほど喉の渇きや空腹感はなかった。

 人間、1日ぐらいの断食なら意外と平気なようだ。まあずーっと寝ていた、というかむしろ魂が抜けていたのだから仮死状態に近かったというのも理由だろうけれど。


「イオリ様がご不在の間に、ご指摘頂いた課題は多少ながら解決へ向け進めております。まずはそのご報告から――」


 説明しながら、バランの目線が横へ流れた。


 私もそちらを見ると、部屋の片隅にあるテーブルで魔王がさっそく新しいゲーム機をいじっていた。それはそれは楽しそうに。


 まだここは転移装置のある大部屋である。


「魔王様、もはや何も言いたくありませんが、せめて自室へ」


 バランが嘆息した。



「では、まずレベル制度の普及から――。現在、開発部門にて見積と決裁が済み、測定器の製作に入っております。試作品に40日ほどかかる見込みで、量産計画はその出来次第ですね。配布と運用指導の計画は並行して策定中、導入後の運用・保守体制整備は量産計画に入ってから詰める予定となっております」


 よどみなく話すバラン。

 就活にすらまだ手をつけていない私だけど、なんだか聞いているだけで凄く仕事してる感が湧いてくる。

 すぐ近くから聞こえてくるBGMや効果音がちょっと邪魔だけどな。


「次に、『ルート設定』ですが、アルザードの大型化と増産は可能です。門の建築と道路の敷設も、5日後には見積が出ます。問題はやはり魔族側への説明と、人族への通達方法、それと領土内の治安維持ですね」

「うーん、そこは他のができてからのフェーズになりますから、時間はあると思います」

「ええ、引き続き全体計画を練っていきます」


「そしてダンジョンの生成ですが、かなり難航しております。やはり人族内部に入っての工事となりますから……」

「ですよねー。やっぱそこは現地入りして調査がまず必要ですか」

「はい。イオリ様にはお手数ばかりおかけしますが……」

「いやいや、養殖場所を決める必要もありますし、どのみち行くわけですから」



 そんな感じで、私とバランは会話を交わしていた。


 その時、


「緊急事態です」


 強い調子のノックと共に、サーシャが部屋へやって来た。


「どうしました」


 バランが立ち上がる。

 魔王もゲームを止めて、彼女を見つめていた。


「ロゼルが魔王城へ戻りました」

 サーシャの言葉に、


「馬鹿な、早すぎます」

 バランが顔色を悪くし、


「……厄介な」

 魔王が眉根を寄せた。


 うん、どなたかな?


「開発部門の一員です。優秀ですが、度の過ぎた好奇心を持っており、イオリ様の安全確保のため地方での任務を与えていたのですが……」


 不思議そうな私の顔を見て、バランが説明してくれた。

 ……なに? 安全確保って?


「今どこにいる」

「真っ直ぐにこの部屋を目指していたため、一時的にここへの転送陣を停止しました」

「よくやった」


「ですがそれを知るとすぐ、イオリ様の世界へ渡る、あの部屋へと……」

「ああ……」

 バランが額に手を当てた。


「追手は」

「かけましたが、あちらへの転送陣は反撃のようにロゼルが止めまして」


 サーシャ、日本語上達したなあ。


「つまり、奴は今」


 魔王がものすごく真面目な顔になっている。


「思うがままに、あの世界間転移装置を弄り回しているものと」


 ――パリッ、


 と、聞き慣れた音がした。


 魔王が時空に穴を開ける時の、あの音が。

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