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ゲームバランスのことなんですが

「あれが勇者ですか」

「ああ。人族の国によって『神に選ばれし戦士』『恩寵を受けし者』などと呼び名は違うがな。だが『勇者』という呼び名は良い。簡潔にして的を射た言葉だ」

「最近のRPGにはその単語が出ないのも多いですけどね――」


 魔王と会話しながら、目を凝らす。

 パーティの中でひとり、その男だけは明らかな特徴があった。

 おじさんと呼んでも、まあ、気を悪くされなそうな感じの人に見える。口元にヒゲを生やし、短髪で、素の表情が少し優しげに微笑んでいるような外見。

 人族の、勇者、の中のひとり。


 私の目に見える、体内を巡る光の水――『魂的なもの』、それとは別に勇者のなかだけには、別の色合いで輝く、丸い宝石のような光の塊が存在していた。


 勇者がライ○インみたいな攻撃をするたびに、その宝石は脈打つように輝きを増す。


「あれを使って、雷呼んでるんですね」

「ああ。適切な役割ではないと思うがな」

「え?」

「あれの最大の特徴は、真上から標的に攻撃できることだ」

「はあ」

「通常の法術や魔術は、直線での攻撃しかできん。放物状や曲射などの工夫を加える使い手もいるが、威力や射程が犠牲になる。あの雷は盾や雑兵を無視して、最奥に陣取る敵将や軍師を仕留めるのが最も効果的な使い方だろう」

「あー、なるほど。ところで法術って、あのお姉さんが使ったみたいな奴ですか?」


 金髪の女性が使った、光の球を投げる攻撃。

 勇者の方と違って、あのお姉さんに流れているのは他と同じ、光の水だけである。

 魔王は頷いた。


「そうだ。我々は直訳すれば『普遍する超力』と呼び、人族は『大いなる神の恵み』『悪を滅する祈り』などと呼んでいる。魔術と法術は私が名付けてみた」


どこか自慢げな魔王様。 

ああ、着々とゲーム用語がこの世界に定着してゆく。


「正体はどちらも同じだ。神々が魔族と人族、全体へと与えた恩寵を指す。神への信仰心と規定された祈り、そして技術の習得によって使えるようになる」

「え、じゃあ皆あんなのできるってことですか?」

「いや、習得には多大な努力とある程度の才能を要する。加えて習得した後は、昨日見た戦争のように『敵族を殺して』強くならねば実戦で使えるレベルには至らん」


 そっか、やっぱさっき見たあれは、


「あの、倒した敵から流れていく光の欠片、あれは経験値みたいなものなんですね」

「……そこまで見えるのか」


 魔王が驚いている。表情に出すのはわりと珍しいことだ。


「その通りだ。魔族は人族を、人族は魔族を仕留めた際、相手の持っている力を幾ばくか奪うことができる。昨日見た小規模な戦は、大概がそれを目的にしたものだ」

「なるほど、修行だけじゃなくて、ちゃんと戦わないとレベルアップできないんですね」

「訓練自体にも当然効果はある。だが同じ訓練をした者同士なら、殺した数で強さが決まると言っても良いだろう」


 ……それは、体格や頭の良さなどの個体差を誤差とみなす勢いで力量差のある、魔王ならではの発言ではあるだろうが。


「ところで魔王様」

「なんだ」

「こうしてちょっと離れた高いところから戦闘を眺めてる黒ずくめに仮面の二人組って、どう見ても悪役ですよね」

「……悪かどうかは断言しないが、決して好感の持てる立ち位置ではないな」


 あ、認めた。



「――で、アレが魔王様の自慢してた魔獣ですか」

「うむ、アルザードという。人族の侵入をまずグネヴィルが感知し、グネヴィルを倒せるほどの戦力をその断末魔で知らせ、その連中を攻撃するため動き出すよう躾けた」


 黒曜石でできた彫刻みたいな、騎兵型の魔獣。

 内在してる光の水――もう魂とか強さっていうか、レベルでいいかな? それがかなり高い。

 宝石みたいな『恩寵』は別として、あの渋いおじさんの勇者のさらに5倍ぐらいありそう。


「グネヴィルは仕留めた人族の血を根から吸い、さらに地面の養分を増やして他の木々まで成長させる。木々は滋養豊富な果実を実らせ、アルザードはそれを食べる。アルザードが仕留めた強力な人族は、周囲のグネヴィルが栄養とする」


 うわあ、生態系ができている。


「――にしても、こういう状況なわけですか」


 ここまで見てきた光景と、魔王から聞いた話を整理する。


 まず、人族と魔族、お互いの領土は目の前の大荒野、そして西に連なる『白嶺』という山脈で区切られている。

 ――より正確には、繰り返される戦争で木々が根絶やしになり、あの大荒野が生まれたらしい。


 次に、人族と魔族はお互いを倒すと、経験値的なものを手に入れることができる。ちなみに同族同士では駄目みたい。


 また、人族の世界には牛や豚、クマやライオンに類する獣がいて、魔族側にも同じような魔獣が存在する。人族が魔獣を倒したり、その逆のときも経験値は手に入る。


 それからあのアルザードみたいに、強力な魔獣は魔王自ら生み出しているらしい。代償として魔王の経験値が消費される。


 そしてこれが重要なんだけど、私の見た限りのレベル感。

 昨日見た戦争に参加してた魔族と人族は、レベル20前後ってところ。

 あ、これまで見た中で一番光が小さかったバランをレベル1としてね。

 ……バラン……。


 あの勇者一行は、ライ○イン使いの勇者がレベル40、他は20~30ぐらいかな。

 勇者の中にある『恩寵』は、石みたいに固まってることもあって光の水に加算するのが難しい。まあ勇者なんだし、レベル40(プラスX)とか夢があっていいじゃない?



 で。


 その勇者一行を今まさに撃退したアルザードが、レベル200ほど……。


 あ、勇者たちは怪我人を回収しつつ、今必死に退却中。

 勇者自身が殿になって、アルザードの剣撃をしのぎながら退路を確保している。

 傷だらけだけど、まだ元気そう。

 でもその背後にいるパーティメンバーは、かなりボロボロだ。

 

 うまく逃げ切れるといいな、と私は思う。

 そう思えることに、ちょっと安心したり。



 ――さて。

 レベル感の続きなのだが。


 そう、隣にいる魔王様である。


 ……見える範囲で、どうだろう、5000とか軽く越えてそう。

 もはや同じ作品のゲームとは思えないバランスである。ディス○イアかよ。


 ちなみにちなみに、サーシャはあのアルザードよりだいぶ強い気がする。

 ……サーシャ……。



 もちろんこれは、私がぱっと見た感じでの話だ。

 ビー玉やボウリング球やバランスボールを並べて、それぞれの大きさをなんとなくレベルで表したようなものである。実際にはもっと重さとか材質みたいな差異があるのだろう。装備とか熟練度とか。


 が、それを踏まえてなお、言ってしまおう。


「魔王様」

「ああ」

「あのアルザード、何体いるんでしたっけ」

「さっき言ったばかりだぞ。207体だ」

「ですよね。それがあの大荒野に沿って配置されていると」

「そうだ」


「魔王様」

「なんだ」


「無理ゲーですよこれ!」

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