有能だけどボイスがうるさいとパーティから外したくなる感じ
部屋の中には男ばかりが20人以上。
……さすがにむさ苦しい。この場をフリューネに仕切らせるのは忍びないので私から順に声をかけていくことにする。
「あらためて久しぶりスタン。怪我はもう大丈夫なの?」
「ああ、問題ねえ、です」
たしかに見たところ包帯などは巻いていない。でもあのときの試合はほとんど体内へのダメージみたいだったからなあ、顔色もちょっと悪いような気もするし、レアスさんから聞いた通り実際はまだ完治してなさそうだ。
にしても、
「……ねえほんとにどうしたのその口調? あ、レアスさんの教育の賜物ってこと?」
「ざけん――いや、違う、関係ねえ。最初に言った通り世話になることの、その、けじめみたいなもんですよ」
んー、あんま深掘りするとキレそうだしなあ。
「まあ、無理しない範囲でね。とにかくこれからよろしく」
「ああ、よろしくオネガイシマス」
ぺこりと、あのスタンが軽く頭を下げるその様子を感動的な面持ちで眺めているレアスさん。
「おお、先生がまさか……」
「さすがはヴィトワース様と対等に闘われたという――」
「あれが、レイラ様か……」
スタンの後ろでは弟子希望の皆さんがざわついていた。
その集団からちょっと離れたところに立っているイケメンに声をかける。
「ハキム、この領地で働くというなら喜んで受け入れるけど、本当にいいの? 立場で言えば今からトウガ殿たちと同じくお客様として扱うこともできるけれど」
「いえ、心からの願いでございます。是非ともお役に立たせて頂きたく存じます」
うやうやしく一礼するハキム。様になっているその物腰はとても女子からの好感度を稼ぎそうだけど、室内の男たちからはリョウバを筆頭に『気に入らねえ』的な視線も集めていた。
まあ要するに、シアンやミージュと同じ契約だ。ジルアダム帝国の軍人を一時的な傭兵として雇い入れるということ。
レアスさんから事前に手紙で聞いたところによると、入院中のスタンへ日々説教している頃からよく顔を出しており、『治り次第再戦だ』と息巻いていたらしい。
けれどスタンはろくに治ってないけどどうにか動ける、ぐらいの段階で強引に退院し、そのままこっちへ向かうことにしたため再戦どころではなくなってしまった。
『ならば僕もついていくぞ!』
――という次第でここに至る。
『やや直情傾向ではありますが、能力は高く性根もまともです』
というのがレアスさんの評である。
「そう、わかった。これからよろしくね」
「はっ! 誠心誠意お仕え致します!」
……とはいえ、ハキムも闘技会に出ていた以上はスタンと同じく間近に迫る戦争には参加させられないんだけど。
ったく厄介なルールだ。
ただ、この2人以外は戦力にカウントできる。
スタンの後ろに集まっている男性陣に向かって口を開く。
「他の皆と会うのは初めてだな。レアス殿から聞いていると思うが、私がここの領主レイラだ。そしてこれも聞いてるはずだが7日後にこの領地は戦争を行う。お前たちにも参加してもらうが、その活躍次第で名と顔を覚えよう。覚えた者は我が領地で雇い入れるとともに、私からスタンに正式な弟子入りを推薦する。戦争後もしばらくは猶予を与えるが、3ヶ月以内に私が覚えられなかった者は速やかに故国へ返すので、そのつもりで」
……あー、ちょっと久々だなこのよく知らない人たちに敬語を使えないストレス。
普段なら丁寧な口調でもフリューネたちは許してくれるけど、今は戦争前。来て早々に参戦させる彼らに対してはできるだけ『強い領主』を演じるようにと厳命されているのだ。
「承知しました!」
「ご記憶下さるよう奮戦致します!」
「是非とも陣形の最前列に配置頂きたく!」
「いや私こそを!」
……うーん、暑苦しい。
さすがスタンを追いかけて大陸の端からここまで来てしまった人たち、なんか部屋の気温と湿度が高い。
ただでさえこの領地には暑苦しい集団がいるっていうのに――
そんなことを思ったのが災いを呼んだのかもしれない。
簡単な挨拶の後はリョウバとコウエイさんに任せ大会議室を出て、歓迎会代わりの夕食まで執務室で仕事をしているところへ、シナミがやってきた。
「レイラ様、その、お知らせしたいことがございましてあのいえ私がしたいどうこうは無関係ですね申し訳ありませんつまりお知らせすべきというかああ違いますすべきかどうかも私が判断すべきではなくあのええと恐れながらこちらの書簡にお目を通して頂きたくもちろんお時間のあるときで構いませんのでですができれば明日までにはいえご無理であれば構いませんので」
――いつも通りのシナミで最近は安心するようになってしまった。
あの集団に入信した彼女がいつアレれらのようになってしまうのか戦々恐々としているので。
「ありがとう。今見ちゃうね」
受け取った封筒の宛名にやたら太字で堂々と書かれていたのは、
『偉大なる指導者にして御心厚き領主レイラ様』
…………。
封筒が汗で湿っているような錯覚がする。
「ねえフリューネ」
「お断りします」
くそう。
シナミが退室するのを見届けてから、仕方なく封を開けて中の手紙に目を通す。
やたらと熱量のこもった丁寧な挨拶の後に記されていたのは、
「参戦したい、って言ってるんだけど……」
「ああ……、来ましたか……」
両手で顔を覆うフリューネ。
「何名ほどでしょうか」
「恥じぬ戦いをできるのは15名。体力面だけの保証なら追加でいくらでも、だって」
「そうですか、ええ、歓迎すべきことなのは重々理解しているのですが……」
「ちなみに残りは全力で応援団になるって息巻いてるんですけど」
うあぁ、と両手の隙間から呻くフリューネ。
「隣国のみならずローザスト王国、さらにトウガ殿たちから帝国へと、あの集団の存在が広まるわけですか……」
うわ、想像したくない……。
「ええっと、そもそも宗教団体が戦争に参加するっていうのは大丈夫? 変にこじれたりしないかな?」
「それは問題ないでしょう。別に教義や経典解釈の違いなどで争うわけではないですから、単純な戦力とする分には咎められる謂れはありません」
覆っていた手を下げ、フリューネは難しい顔で私の持つ手紙を見つめる。
「むしろ応援団のほうが問題です。決戦においては参戦する者以外、外部からの指示出しやアドバイスは反則とみなされますから」
「ああ、そっか」
あそこが手薄です、なんて応援団が叫んだら反則を取られてしまう。……むしろ彼らの大声を思えばそれ自体が一種の攻撃とみなされかねない。
「それから、参戦についても考慮は必要です。所詮は金銭の揉め事ですからね。軍属でない者をあまり大勢加えるのは良くない評判を招きかねません」
「あー、そうだよねえ。でも無下に断るのはさすがに可哀想だし、こう最前線に立たせない方向で役割を考えてみようか……」
「そうですね、参戦も応援も断ると当日はあの施設で1日中祈りでも捧げそうですし」
「うん、そうなるとまた周辺住人からの苦情が……」
……うん?
「ねえフリューネ、後でリョウバたちとも相談したいんだけどさ」
私はちょっと思いついたアイディアを語ってみせた。