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士気向上スキル(消費コスト:10億円超)

「いつかやりやがると思ってたけどこんなに早く来るとは思わなかったぜクソ隊長! もう何回目だこれ言うの俺等は警・備・隊なんだっつうの!」


 スタッカートを刻んだ怒号が青空に響き渡る。


「ああ、わかってる。今回は隣の国から戦争を吹っ掛けられたわけだ。つまり貴様らは名前の通り国境を警備するということだな。なにも問題なかろう」

「そりゃ兵団の仕事だろが! 俺たちがやんのはこの領主館と首都の警備だけだ!」

「その文言ならレイラ様が領主となられた際の契約更新時に消しておいたぞ。お前たちの仕事は領内全域の警備だ。なんなら解釈次第で国内全域にもしてやれるが?」


 いつものことながら彼らと応酬しているリョウバはとても楽しそうだ。


「うっそだろおい!? お前知ってたか?」

「知らん! あんな細けえ字読むわけねえだろ!」

「詐欺だろそれ……」

「納得したか? なに、大荒野へ行けというわけでもない人族同士の決戦だ。ちゃんと戦争管理ギルドも来るからそうそう死人が出ることはないだろう。というかお前たちの誰かが死んだら私の失態だからな。絶対死ぬなよ。死者ひとりにつき以降の訓練が倍々になっていくからな」

「だめだこれ、どっちにしても死ぬぞ……」



 盛大にやり合っているリョウバと警備隊の面々を横目に、私はシアンとミージュに近づいていく。他のメンバーと違ってこのふたりはそれほど動揺を見せていない。流石職業軍人というべきか。


「ふたりは大丈夫? わりと来てもらって早々だけど、たぶん参戦してもらうことになると思う」

「はい! もちろんです!」

「もとよりその覚悟でお世話になっておりますので!」


 相変わらず、元気よく礼儀正しい。

 そして相変わらず、私怖がられてるんだよなあ……。

 リョウバからの又聞きだけど、なんでも帝国でのヴィトワース大公との試合のせいで私をとんでもない怪物のように思っているらしい。


「ふたりとも大荒野でレベルは上げたんだよね。けど人族同士での戦闘は不慣れだったりしない?」

「正直に言いますと、魔族との戦闘に比べればだいぶ場数は劣ります」


 シアンがそう答えた。


「あ、ですが帝国内では訓練以外にそれこそ警備や治安維持任務、罪人の捕縛などもしましたし、抵抗の激しい相手は殺したこともあります」


 とミージュが続ける。


「そっか、じゃあ頼りになるね」


 実力で言えば、シアンもミージュも警備隊のなかでトップクラスだ。

 けれどフリューネもエクスナもずいぶんふたりのことを気にかけていたので今日こうして直接聞いてみたわけだけど、うん、これなら平気そうだ。


「あ、先に行っておくけど臨時報酬出すからね」


 そう言い残して、私はリョウバのところへ戻った。

 まだまだ警備隊メンバーと口論――というか口喧嘩に近いやり取りを楽しそうに交わしている彼に目配せし、私が前に立つ。


「おっ……」

「領主様……」


 一気に静かになったのはリョウバの指導の賜物なのか、リョウバほど親しまれていないのが大きいのか、あるいは、……なんかこっちでもあちこちから怯えているような気配がするんですが。


 ゆっくりと口を開く。


「皆の言い分はよく理解できる。一方でリョウバの言う通り契約上は問題ないというのもまた事実だ。が、私としては前向きに戦争に参加して活躍してもらいたいという思いが一番だ。それだけの訓練をお前たちは続けてきた。――そこで」


 彼らの意識が集中し始めたのを感じつつ、その興味を煽るようなイメージで軽く手振りも交えて話す。


「特別報酬を払おう。まず戦争に参加する者には一律で3万カラル」


 ざわり、と警備隊の皆が湧いた。


「おい、まじかよ」

「年俸の半分近いぞ」

「……あれ、お前俺より高くね?」

「いやでも、戦争だぞ?」

「けどよ、魔族とじゃねえしルール聞いたろ?」


 よしよし、かなり好印象だ。


「そして、戦争の結果が勝利であった場合――参加せず警備に勤しんでくれた者たちにも一律で5千カラルを払うこととしよう」


 うおお、とさっきよりさらに歓声が上がる。


「おい、どっちだ? どっちがいい?」

「実際どうなんだ? そりゃうちにはバケモンが複数いるけどカゲヤさんしか出ねえって話だぞ」

「あの人普通に400人倒しそうだが……」


「最後に」

 と私は続ける。また皆の意識がこちらに向く。最初とは見違えるような雰囲気だ。


「戦争に参加し、3点分の働きをした者――つまり3人を倒し自分は倒されない、あるいは4人を倒したところで倒される、そうした者たちには3万カラルに追加で、5万カラルを支給しよう。合わせて8万カラルだ。日頃願っている事柄の大半は叶えられるんじゃないか?」


 歓声が上がった。


「これもう出るわ俺」

「いやお前下がってろよ。いつも古傷痛がってるだろ」

「あれ? これ私8万稼いだら彼と結婚できるかも」

「だからアンタあの男はやめとけって……」

「え、まじでどっちだこれ? なんだかんだ死ぬかもしれねえし、けど8万は滅茶苦茶でかいな……」


 実際、大盤振る舞いだ。ここだけでなく兵団や特殊軍にも同じ条件を出しているので。

 事前に計算したけど、少なくとも20点差はつけて勝たないと赤字である。サトウマからもきっちり取り立てなければならない。

 けどまあ、このぐらいで味方の士気が上がるなら文字通り必要経費だ。


 大盛り上がりしている警備隊のことはリョウバに任せ、私たちは領主館に戻ることにした。

 その途中で森の方、特殊軍本部のある方角から近づいてくる気配があった。


「あれ? スピィ」


 先ほど会ったばかりの彼女が駆け寄ってくる。


「レイラ様、総隊長、つい今しがた報告が届きまして」


 やや息を切らしつつ彼女はそう言った。


「例の御一行、明日には全員が到着されます」



 ――翌日。


 領主館に何台もの馬車と騎馬が到着した。

 降り立つのは使い込まれているけど良く磨き上げられた革靴。


「ようこそバストアク王国レイラ・フリューネ特別自治領へ。心より歓迎申し上げます」


 建物の前で出迎える私たちのうち、まずフリューネがそう口を開く。


「お出迎え頂き誠に感謝致します。長旅ゆえ身繕いが行き渡っておらず、心苦しい限りですが」


 そう答えたのは、総白髪で背筋の伸びたお爺さん。


「領主代行殿には初めてお目にかかりますな。ジルアダム帝国第1教導隊隊長、トウガメナスと申します」


 そう、帝国の闘技会でアルテナと戦ったトウガさんだ。

 あのときの懇親会で、機会があればぜひ観光にでも来てほしいと伝えてはいたけど実際に手紙が来たときはびっくりした。帝国内でも相当な有力者だというし、軍隊の指導をする部隊のリーダーだとも聞いているのでそうそう他国に遊びに来たりはできないだろうなと思っていたのだ。


 そしてその隣に立つのはひとりの少女。緊張した様子で口を開く。


「こ、この度はお招き頂き誠に光栄です。第二軍所属のフユサナタと申します」


 彼女も同じくアルテナと戦った女の子。トウガさんの孫だ。良ければ一緒に、という私の誘いに乗ってくれたらしい。

 騎馬や馬車から荷物を抱えつつ降りてきてトウガさんの後ろに立っているのは護衛や部下の人たちだろう。皆けっこうレベルが高い。


「手紙でお知らせしました通りこちらが少々立て込んでおり申し訳ありません。行き届かぬことがないよう務めさせていただきますが、なにかございましたら何なりと。まずは中へ――」


 フリューネやターニャが案内する中、私はその場に残る。

 なにしろ一緒に来たもうひとつの集団の相手をしなければならないのだ。


 続く馬車からぞろぞろと降りてきたのは30人近い集団。


「――っああ、くたびれたぞ……」

「おいシャキっとしろ! なんで馬車の方が疲れた感じなんだ貴様」

「んなもん当たり前だろが。自分の調子で走る方が楽だ」

「どんな構造してるんだその身体は」

「……ふたりとも、黙れ」


 先頭を歩く3名は知った顔だ。


「お久しぶりでございます、レイラ様。このような時期にお邪魔すること、誠に申し訳ございません。必ずや彼らの働きをもって返させて頂きますので」


 ビシッとした姿勢で挨拶をするのは、肩口で金髪が揺れるいかにも優秀そうなお姉さん。

 ローザスト王国のレアスさんだ。


 そして続くのは、

「お会いできて光栄です。こうしてご挨拶させて頂くのは初めてですが、戦武二神のご加護厚き御身の元で働かせて頂くこと、歓喜の念に耐えませぬ」


 なんだか歌い上げるようにそう挨拶をするのはスラリとした長身に紫の髪を撫でつけた貴公子っぽい感じの男性。

 彼の言うように話すのは初めてだが、その戦いぶりは間近で見ている。

 闘技会でスタンと戦ったジルアダム帝国の戦士、ハキム。


 そうなると最後のひとりはもちろん、


「……世話にな、ります。……レイラ姫」

「誰!?」


 スタンの顔をした知らない人が敬語で語りかけてきた。

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