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この眼に映るもの

「……何?」


 魔王の訝しげな声で我に返った。


「え、い、いやいやいや、そういうわけじゃないんですよ!」


 慌てて釈明する。

 私にはスプラッタ趣味なんて微塵もないし、グロ画像とか見たくもないし、あくまでゲーム内のバトルだけを楽しむ一般人である。当然、戦争バンザイなんて主義者でもない。


「……ただ、この眼がですね、お察しの通りいろいろ見えるもので」

「ふむ、何が見えている」

「……なんていうか、その、エネルギーというか、まあ……魂?」

「ほう?」


 私はあらためて戦場を見つめる。


 魔族と、人族。そのどちらにも、身体の内側を巡っている光――発光する水のようなものが私には見えていた。

 なんて言えばいいんだろう、そう、たまに海の生物にいる、皮膚が透けてて内蔵とか見えるタイプのやつとか。もしくはスケルトンタイプのコントローラーで内側にイルミネーションがあるやつとか。

 ……いまいち的確な例えじゃないが、そもそも私の眼に見えている有り様が、たぶん人間の五感から外れているっぽいので、説明が難しい。


 複眼とかピット器官とかロレンチーニ瓶とかによる感覚を、人間がリアルにはイメージできないのと同じようなもの、かもしれない。


 もともと、その光る水は魔王やバラン、サーシャを目にしたときにも感知していた。

 あくまで目を凝らしたときだけ見えるものなので、普段は普通に見た目通りの見え方しかしないけれど。


 その光る水は体外にも溢れ、霧のように彼らの身体へ纏わりついている。加湿器から出る湯気とか、香炉から溢れる煙みたいに。


 光の色合いは様々。

 光の強さや水の量、流れる速さ、霧の大きさも人によって違う。

 だけど、光が強かったり霧が大きかったりする兵士が、戦力としても高いように見えた。――あ、またひとり殺した。あの巨体の魔族、なかでも一際光が強いなあ。


 ちなみにぶっちぎりで光が強く、内側の水も外側の霧も大量なのは、もちろん魔王様である。しかも他の兵士たちと違って、光が一色じゃない。無数の色が混ざり合っている。


 これが魔力とかオーラとか、要するに戦力の指標だとすれば、あそこで戦っている両軍合わせても魔王の放つ輝きには全然足りない。

 というか眩しいので、あんまり魔王に対しては目を凝らすことができない。

 こないだの戦闘訓練時なんて、もっと眩しかったから即座に普通の視界に切り替えたのだ。失明するかと思ったよ。



 ――さて、そうした光には、ひとつの特性があった。

 誰かが死ぬと、体内を巡る光の水はより一層輝きを増し、そしてその身体から離れていくのだ。

 すうっと、上空へ向かって。

 どこまでも昇り続け、そのうち見えなくなる。

 何が見える、という魔王の問いに、『魂』と私が答えたのはそういうわけである。


 ただし死者の魂はそのすべてが天空に昇るのではなく、一部はその誰かを殺した相手の身体へと、吸い込まれていくのも見えた。


 戦う人族と魔族の体内に流れる光の水。

 彼らの身体に漂う光の霧。

 死と同時に天へと昇る光のかたまり。

 その場で勝利を収めた者に吸い込まれる光の欠片。


 そうした様々な光の動きが、無数の色合いと輝きで、戦場を埋め尽くしていた。

 血や肉や火花を覆い隠すほどに。


 それを私は、綺麗だと思ってしまった。




 戦況は、やがて魔族側に傾きはじめた。

 人族のさらに背後からラッパのような音色が響く。

 人族の兵士たちは殿を築きつつ、退却していった。


 魔族側も深追いすることはなく、人族の殿を殲滅してから引き上げていった。


「勝ったんですか?」

「この場、この時に限ってだがな。日々の小競り合いに過ぎんし、両軍ともあまり士気には影響しないだろう」


 先に進むぞ、と言って魔王は私達が観戦していた場所――すなわち崖の上から飛び降りた。

 ……いいけどね、さっきの着地と変わらない高度だし。



 また森の中を進んでいくと、左前方から足音が聞こえてきた。


「案ずるな、味方だ」

 と魔王が言う。


 姿を現したのは、オレンジ色の髪をした背の高い男だった。

 目つきが鋭く、首や手や肩のあたりとか、全体的にゴツゴツしている。

 肌も鎧も、あちこち古傷だらけだ。

 ――目を凝らしてみる。

 戦闘形態ではないけど、漂う光の霧は密度が濃く、何かあれば即座に反応しそうな気配を放っていた。内側に流れる水は、さっきの戦争で目立っていた巨体の魔族よりちょっと大きいぐらい。

 しかし魔王を視界に捉えた瞬間、一転して霧が乱れ、即座にその場へ跪いた。

 視界を平常時に戻してみると、表情は強張り、汗を流しているのがよくわかる。


「XXXXXXXX」


 こちらの世界の言葉で会話を交わす魔王とオレンジ髪。

 魔王の出発準備が整うまでの3日間、バランやサーシャにこちらの言語を教わったこともあり、『他の者に触れ回るな』的なことを魔王が言っているのがわかった。


 ふたりが話している間に、私は森の中を眺めてみる。


 ぱっと見、崖の上と植生はあまり変わらない。広葉樹林で、葉の密度は濃く、太陽を遮ってあたりは薄暗い。

 幹は人の胴回りぐらいのものから、3人ぐらいで手を繋いでやっとというぐらいの大木まで様々。それぞれが間隔広めに立ち並び、木の上の方にはたまに果実が成っている。リンゴをさらにまるっぽくした感じの、赤い果実だ。


 ただ、多少気になることが。

 生えている木のうち何本かに、さっきの魔族や人族、それに魔王やバランやオレンジ髪の内側にも見えている、光の水みたいなものが存在している。

 ――トレント型のモンスターが擬態してるのかな?

 近づくと急に動いたりしそうなので、遠巻きにしておくことにした。



「運が良いぞ、イオリ」


 会話を終えた魔王が戻ってきた。

 オレンジ髪の方は、いそいそと去っていく後ろ姿が見えた。


「なんのことです?」

「ここから東へ向かった先に、勇者が現れるという情報が手に入った」

 

 ――ほほう!?

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