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傷跡ひとつないイオリに周囲はガチで引いているため近づけない

 この国に来た当初の目的である各国との懇親会、その本会場では基本的にこちらからは動かず、やって来る人たちを迎える姿勢だった。

 けれどこの場は参加人数が絞られ、今日の試合の打ち上げであり、そのトリを努めさせてもらった私である。多少の無礼講も良しとする雰囲気もあるため、少しは会場内をまわってみてもいいとファガンさんからお許しをもらった。


 というわけでスピィとリョウバを連れて無目的に打ち上げ会場をさ迷ってみることにした。


 お、さっそく賑やかな集団が。

「――アルテナ様、明後日我が家で晩餐会がございますの」

「試合では随分とお怪我をされましたよね。良い治癒術師を抱えているのですけれど」

「光仙楼の貸し切りだなんて、羨ましいですわ。そういえば、あそこの料理長の兄弟子を知ってまして、以前にそのふたりの合作が先代皇帝の――」

 すごい、会場内でいちばん女性陣が集中しているスペース、その中心にアルテナがいる。

 まちがいなくこの場でいちばんモテてる。リョウバが歯噛みしてる。

『試合の打ち上げですから。戦士としての顔を見せるべきですから。レイラ姫の護衛もありますから』と流れるように説明して頑なにドレスを断り、キリッとしたパンツルックを嬉々として選んだのがある意味裏目に出てる。


「共に戦ったというのに、この差はいったい……」

 と苦悩しているリョウバだけど、あなたもそこかしこのお嬢様たちから意識向けられてるからね。近づいてこないのは、やっぱり女性同士という悪く言えばおふざけだと言い張れるアルテナへと違って、本気だと取られやすいからだろうか。

 まあそのお嬢様たち、リョウバの隣りにいる私に軽い敵意も向けてきてるから、もしかしてこれ私たちがそういう仲だと思われてないかな? だとすればマジで遺憾なんですけど。

 ……いや、たしかにリョウバは見た目かっこいいし性格も……まあセクハラとか悪ふざけとかに目をつぶれば優しくて頼りがいもあるし、戦闘能力も高いんだけど……。

「レイラ姫、傷心の私にお情けを頂けるならばこの会場でのエスコートを是非とも。さあこの腕にお手を、そしてお身体を、具体的にはその豊満な」

 ズンッ

 ゆるやかに手を伸ばし、ずいっと差し向けられた腕をスルーして横腹へ添えて、ヴィトワース大公から受けたばかりのゼロ距離打撃を真似してみました。

「ごはっ……」

 膝をつくリョウバ。

「まあ、どうしたの? 飲み過ぎかしら」

「そのようですね」

 若干冷たい目でリョウバを見ながらスピィ言う。

 うん、前言撤回。目をつぶってられないから白眼視するしかないのだこの男は。


 しぶとく立ち上がったリョウバを引き続き連れて、「助けてください」と目で訴えてきたアルテナに「すまん」と片手を上げてその場を去る。だってあの輪から救う手立てが私にはないのだから。あのお嬢様たちをかきわけるには腕力とは別のパワーが要る。


「――本当に気絶していたのか!? 僕に教えたくないからじゃないんだろうな!?」

「そう言ってるじゃないですか! 私だって見たかったですよ……」

 別の一角からは、そんな言い合いが耳に届いた。

 酔いに任せた軽い衝突かなと目をやると、見覚えのあるふたりだ。

「くっ、情けないぞ! 最年少一級戦士の座を僕から奪っておきながら武神に弾かれるなど」

 そう口を尖らせているのは、スタンの試合相手だったハキムという男だ。礼服姿だと貴公子っぽい見た目がさらに洗練されているけど、喋ってる内容と物腰は正直ちょっと子供っぽい。

「だから私はそんな肩書いらないんですってば。お祖父様はご覧になったと言ってましたから聞いてきたらどうですか?」

 面倒臭さをがんばって隠そうとしてるんだけど隠しきれてないのがアルテナたちの相手、トウガと組んでいたフユという女の子だ。こちらはアイボリーを基調とした、露出を抑えた可愛いドレス姿。


 言い合いの内容からして、武神ユウカリィラン様の試合のことだろう。フユはあの巨大な眼球のプレッシャーに耐えられず気絶して、ハキムはおそらく、スタンにやられて倒れたまま武神の試合が終わっちゃった感じなのかな。


「割って入るのはおよしになってくださいね」

 まさしく釘を差すような鋭さでスピィがそう言った。

「……わかる?」

 今まさに声をかけようかなと思ったところだったので、タイミングの良さに怯む。

「はい。あの場にレイラ姫が加わりますと、ハキム殿の詰問は貴女に向かいます。それも下手をすると、あの物腰のままで。それは従者として許しがたく、また周囲の目が多いこの場で賓客であるレイラ姫にそうした振る舞いをされるのはハキム殿自身にも大きく傷ができることでしょう」

「あ、そうか……」

 そこまで考えられてなかった。たしかに恥ずかしながら私はVIP待遇されているし、ついでに今日は戦神様から聖地のマスコット的な位置に任命されたりもしてるので、迂闊な態度を許しちゃうと最悪その人が失脚とかしかねない。

「それに、レイラ姫よりも適切なお方が対応されるようです」

「あ、ほんとだ」

 見ればふたりの奥、歓談する人たちの間を滑るように通り抜けるトウガさんの姿があった。

 こちらに気づいたらしく、目線と表情で意思を伝えてくる。「お任せを」と「ご配慮感謝します」が混ざったような感じだろうか。気配察知を使わなくてもそれだけ読み取れるような視線と顔の作り方は、さすが年長者という感じだった。


 無言のお言葉に甘えてその場を去る。

 会場内は他にも、遠くからでもその大きさですぐわかるカゾッドさんを囲む戦士らしき男たち多めの集団や、やたら年齢層高そうな方々と歓談しているオブザンさんなど、にぎやかなグループが点在している。


 そして建物を出て再び庭園へ出向くと、

「あっ、いたいたレイラ!」

 ちょうどこちらへ向かってくるヴィトワース大公と出くわした。

 その背後に、飲みつぶれたのか腕力でつぶされたのか微妙な感じの男たちが積み重なっているのは見なかったことにしよう。

「いい具合にお酒も入ったし、そろそろふたりでお喋りしようか」

「はい。えっと、どこか空いてる場所は――」

 なんとなく、他の人に聞かれないほうがいいなと予感したので首を巡らすと、

「あそこがいいかな」

 と大公が指さしたのは上方、パーティ会場である大きな建物の屋根の上だった。

「なるほど」

 あそこなら他に声は届かないし、それ以前にたいての人は昇ってこれないだろう。


「……ではレイラ姫、私たちは王のもとへ戻りますので」

 あきらめた感じでスピィが言う。

「うん、ごめんね」

「ご同席できないのは痛恨の極みですが仕方ありません」とリョウバも言い、「ではスピィ、眼の前の至高とお呼びするに相応しい女性おふたりのように成長する願いを込めて私がエスコートを努めよう」

「謹んでゴメンナサイ」

 さらりと断ったスピィが軽く指を動かすと、タイミングよくカゾッドさんと彼を囲む男性率9割の集団がやってきた。「おお、リョウバ殿だ!」「お見事な試合でしたな、ぜひお話を――」

 あっという間に詰め寄られるリョウバ。あ、集団の中に見覚えある顔――あれ暗部の人だ。誘導してきたのか。


 とっさに逃げようとしたリョウバだが、その裾をちょこんとつまんでいるスピィに封じられた。

 うん、あの手を振りほどくのもステータスと別のパワーが必要で、紳士を自称するリョウバにその能力はないだろう。


「そんじゃ、ちょっと失礼」

 ふわりと身体が浮く。

 私は私で、あっさりとヴィトワース大公にお姫様抱っこされていた。しかも大公は片手が三角巾で吊られているので、片手だけで器用に。そっちの腕だって包帯が巻かれているというのに丈夫なものだ。

 まあたしかに私はドレス姿で、大公は懇親会と同じパンツスタイルなので適役なんだろうけど、これけっこう照れますね。


 そして周囲の人があっけにとられる中、私たちは屋根の棟木へと軽やかに大ジャンプで移動した。

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