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魔王が あらわれた!

 私は魔王に正対すると、適当に構えてみた。

 えーと、まずは飛び道具をガードさせて硬直してる間に距離詰めて、下段か空中か2択を迷わせて――

 脳内で最近やった格ゲーの初動を思い返す。

 実際、今の私なら飛び道具とか出るのかもしれないけど、やり方がさっぱりわからん。


 ならばRPG的なセオリーでいくと、弱点は――属性攻撃もできるのか知らないし、バフも同様だし、デバフも――そもそも相手魔王だし、弱点どころか耐性だらけという可能性が高い。

 なにより肝心の私のコマンドには「たたかう」しか存在しないという事実。


 ちくしょう、ラスボス相手に通常攻撃オンリーとか、どんな縛りだ。


 せめて全力で、クリティカルとか狙うしかない。


 まずは魔王めがけて走り出し――たと思ったらもう目の前にいた。

 どんなダッシュしたんだよ私。

 まあいい、とりあえずいい感じの距離だし、パンチ……は手首とかコキってなりそうだし、両手で、ドンって感じに。

 

 ドズゥンッッ


 ――思ったよりだいぶ上の効果音がしました。


 私の諸手突きというか、両突っ張りみたいな一撃は、魔王の両手でがっしりと受け止められていた。


「うむ」


 満足気に笑う魔王様。

 その両腕がぶれたかと思うと、私は真横に放り投げられていた。

 地面と平行にすっ飛ぶ私。


 やばいっ。

 と思った瞬間、流れる景色が急にゆっくりしたものに変わった。

 脳内のどこかが活性化し、集中力が上がったのがわかる。

 壁までの距離が、見なくても測ることができた。

 

 空中で姿勢を変え、壁に両足で着地する私。

 ビキィッ、と壁にヒビが入ったみたいだけど気にしない。


 床に着地するまで時間がかかりそうなので、そのまま壁を蹴って魔王へ突っ込む。

 うん、床から走るより、壁から発射した方がスピード出るね。


 頭突きはこっちも痛そうなので、また空中で姿勢を変え、飛び蹴りを見舞う。


 形容し難い激突音――それこそ格ゲーの強攻撃が入ったような音がしたが、またも魔王の腕でブロックされた。

 けど今度は魔王の立っている床を砕きながら、数メートル後ろまで押し込むことができた。

 床に二本の抉れた直線ができあがる。


「いいぞ」

 魔王は相変わらず不敵に微笑んでる。


 ガードされた腕を足場に、天井まで飛び、さらにそこを蹴って魔王の背後の壁へ移る。

 いわゆる三角飛びだ。

 背中にまた飛び蹴りを、と思ったが、


「げっ」


 瞬間移動したように、魔王が距離を詰めていた。


「防御しろ」


 魔王が右の拳を突き出す。


 ――うん、見える。けど私の姿勢、壁につけた足の溜め、跳躍できる角度を考えると、絶妙に避けられない。


 ガードの仕方なんてよく知らないので、両掌を重ねてパンチを受け止めた。


 ――――っ!


 一瞬、音が消えた。


 私は壁にめり込んでいる。

 びっくりした。超びっくりした。人生で一番凄い物理的な衝撃を受けた。

 ――でも、痛み、ダメージはない。ちゃんとガードできたらしい。


 めり込んだ壁から抜け出る。壁は発泡スチロールより脆く感じた。


 熱。


 床に着地したときには、魔王の片手に炎の球が浮かんでいた。

 ストレッチ用のバランスボールぐらいの大きさ。

 赤とオレンジが渦を巻いてほとんど真球を描き、陽炎で視界いっぱいが揺らめいている。


「魔王様!」


 バランが慌てた声を上げる。


 魔王は私と目を合わせ、フッと笑い、えぐい威力を秘めていそうなその火球を投げつけてきた。

 え、これ終わったんじゃない?


「かき消せ」


 眼の前に広がる火球の向こうから、そんな声が聞こえる。

 私は向かってくる虫を追い払うみたいに、片手をブンと横薙ぎに振った。

 

 空気が抜けるような音と共に、あっさりと火球は散った。

 あたりに炎の欠片が舞う。


 思わず振り回した手を見るが、火傷した様子もなかった。


「さすがに良い性能だな。イオリ自身も思い切りがいい」


「――少々、手荒すぎるかと」

 バランが魔王に対して眉をしかめてみせた。


「そこまでは……、違うな、確かに調子に乗った」


 そして私を見る。


「すまんな、こうした格闘は久々で、楽しんでしまった」

「いえ、私も気分よかったですから」


 ……あれ、私今なんて言った?


「痛みや疲労はありませんか?」


 バランの問いに首を振りながら、今の一連を思い返してみる。

 ――なんであんなに躊躇なく動けたんだろう?

 やはりこの身体でいると、テンションがおかしいみたいだった。


「――では、続けるか」


 その声と、嫌な気配に振り返ると、


「ひと通りの攻撃は試してみるべきだろう」


 右手に氷の大剣を、左手に雷の槍を携えた大魔王がそこにいた。


「魔王様……」


 げんなりするバラン。


「心配するな、加減は理解した」


 そう返しながら、さらに魔王は右足で地面を軽く叩いた。

 すると魔王の前後左右に、毒々しい色の水たまりが生まれ、


「うひぃ」


 紫、黄、灰、赤と、カラフルな粘液にまみれた四足歩行の何かが四体、ずるずると水たまりから這い出てきた。


「終わったら湯に浸かるといい」


 そんなことを気軽にいいながら、魔王が攻撃を開始した。

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