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レベル発表会

「グランゼス皇帝陛下、レベル141でございます!」


 おおっ、と見物人からどよめきが起きる。


「さすがグランゼス皇帝。まさか141とは……」

「100越えすら今日はまだ出ていなかったよな?」

「陛下ならば死門の黒獣すら打倒できるのでは」

「馬鹿者! 恐れ多いことを抜かすな! 陛下に万一のことがあるやもしれぬ妄言を――」


「おい、兵長! 貴様レベル50で随分と誇っていたがどういうことだ!?」「いえ、御主人様! たしかに団員の平均と比べれば私は――」


「俺、傭兵やめて農業継ぐかな……」

「阿呆、グランゼス皇帝は大荒野で20年戦い続けた猛将だぞ。ウォルハナムの乱では神獣すら仕留めたとか――」


 あちこちで様々な感情のこもった会話が繰り広げられている。

 しっかし141って、カゲヤと先代バストアク王は超例外として、これまで出会った人族ではトップだ。それが大帝国の皇帝で、人柄も良さそうとか、完璧超人じゃん。


「そういうことだ」

 相変わらず見透かしたような事を言うファガンさん。

「強く、大きく、正しく、優しく、豊かで、懐が深い――それがグランゼス皇帝で、その皇帝が統べるのがジルアダム帝国というわけだ」

「なるほど、バストアクとは違うってわけですね」

「ああ、領主の出来も数段上だと思っておけ」


 戻ってきた皇帝が、「次はどうする?」と尋ねてくる。

「順番としては俺だろうが、落差が激しいのでな」肩をすくめたファガンさんが、「ナナシャ」と声をかける。

「はーい」

 と気軽に返事をしてすたすた舞台へ登るナナシャさん。


 そして、

「『狂風射手』ナナシャ殿、レベル91でございます」

 ほお、と今度は感心したような声が多い。これまで見た人族の平均からすればすごく高いんだけど、直前のインパクトが大きかったからなあ。


 続いて、

「『血煙纏い』アルテナ殿、レベル84でございます」

 とアルテナも続く。

 

 この結果を聞いた周囲では、

「さすがは、『血風姉妹』か……!」

「2人がかりなら皇帝に勝てるということか?」

「いや、そのような単純計算ではないだろう」

「それがな、我が国の実験ではレベルの合計による勝率が――」

「待て待て、私の私兵で試したが少数同士の戦闘では――」

 などと議論が起こったりしている。

 ……そういえばフリューネが、レベルに関する論文が出てくるとかいってたなあ。帰国したらこんな話をまたお勉強する日々が再開するのか……


 続いて、ファガンさんが「いい晒し者だな……」とぼやきながら舞台へ上がり、

「ファガン国王様、レベル24でございます!」

 と高らかに発表される。

 

 うわっ、これはキツいな、と思ったけれど、周囲から上がるのはどことなくほっとしたような気配だった。

「ほお、戦地でお見かけしたことはないが……」

「さすがは王族ということか。継承権が上位の兄に腐らず、訓練されたのだろう」

 そんな評価も聞こえてくる。

 ……ああ、そっか、カゲヤやリョウバに、なにより魔王様とか神様とか高レベルなヒトたちがまわりに多すぎるから麻痺してたけど、そもそも普通の人は魔族を倒す機会すらないんだった。

 村人はレベル1で当たり前、捉えた魔族や魔獣相手に訓練した貴族たちでもレベル10前後、実際に大荒野で戦っている人族・魔族の平均がレベル20~30という世界だった。


 この会場で今日までレベルを晒していただろう戦士たちも、今ざっと見渡した感じでは平均レベル30前後というところだろうか。

 そのなかでは、ファガンさんのレベルは決して見下されたりするような数字ではなかったようだ。むしろ同じく国のトップであるグランゼス皇帝が異常ということか。そりゃジルアダムの皆さん、自慢げな表情だったのもわかるというものだ。

 

 けど、そっか、そうなると……、

「次はイオリよね? 楽しみ!」

 笑顔のヴィトワース大公に笑い返し、戻ってくるファガンさんと入れ替わりに壇上へ。


 目の前にあるレベル測定器は、私たちがラーナルト王国へ持ち込んだ時よりもさらにバージョンアップしているようだった。

 ロゼル班が改良した結果の一部は定期的にラーナルトへ流しているし、それを受けたラーナルト、さらにそこから情報や現物が流れてゆく各国でも研究が重ねられているので、それこそ地球の体重計とか体温計のように様々なタイプの測定器が存在しているらしい。制作費がかなり高いので数はそこまで出回っていないけれど。


 それに、計測方法はだいたい同じようで、センサー的な箇所を両手で包んだり首筋に当てたり握りしめたりすることで、レベルを算出するというもの。今のところは、レベル以外のステータスまで一緒に測れるような便利アイテムは開発されていなかった。


 ジルアダムが用意したのは、透明な球体に軽く片手を乗せれば数秒でレベルが測れるという最新バージョン。


 魔王城出発時点では、私はレベル1だった。

 白嶺でいくら魔獣を倒してもレベルは上がらなかった。

 それがレグナストライヴァ様のおかげで経験値が入るようになり、

 レベル1000の神獣を仕留め、

 コルイ共和国の洞窟で100匹ほどのモンスターを駆除し、

 バストアク王国でも100人近い暗殺者を殺し、

 とどめに、神様の力を借りたレベル2500オーバーの毒舌王を倒した。


 そんな私の今のレベルですが、

「は……?」

 計測した係員の人が、ぽかんとして、目をこすって、慌てたように他のスタッフを集めた。そして「誠に申し訳ありませんが――」という流れで再度の計測。


 今度は隣に置いてあった計測器へ、同じように手をのせる。


 4人の係員が目を見開いて結果を凝視し、ごくりと唾を飲み込み、ひとりが意を決したように声を上げた。


「バストアク王国領主レイラ様――レベル、ろ、607……」


 しぃん、と会場に沈黙が満ちた。

 

 聞き間違いだよね? と見物人たちがお互いに顔を見合わせている。

 測定器の故障か? と係員を見つめる人たちもいる。

 ごく一部は、えっ、マジで? みたいな驚嘆を私に。

 ファガンさんとスピィからは、「やりやがった……」みたいな視線が。


 やがて、静かだった海がゆっくりと波立っていくように、ざわめきが生まれてゆく。


 そして笑いを堪えるような声で皇帝が、

「もう一度告げよ」

 と係員に指示した。


 なんだか顔色が悪くなってる可哀そうなその人は、ぐっと気合を入れ直してから天井を仰ぎ、

「バストアク王国のレイラ様、レベル607でございます!」


 今日一番の盛況が巻き起こった。


 もはやひとつひとつは聞き取れないほどあちこちで声高に会話が交わされ、無数の視線が全身に刺さってくる。


 そそくさと舞台を降りて元の位置に戻ると、

「やー、たっかいねえレイラ。驚いたよホントに」

 とヴィトワース大公が明るく笑いながら、こっちの肩をばんばん叩いてくる。わりと痛い。常人なら鎖骨とか折れてますよ?


 そして、

「さーて、どうすっかなあ……」

 と小声で呟きながら、彼女も舞台へ向かっていく。


 まだ全然喧騒の収まらないなか、さっさと測定器に手をかざすヴィトワース大公の姿に、遅まきながら会場の注目が集まっていく。


 その結果を見て、またもぎょっとする係員の人。

 再びスタッフが集合し、そのうちひとりが、諦めたように、やけになったように発表したのは、

「ウォルハナム公国、ヴィトワース大公――レベル529でございます!」


 落ち着きかけていた会場に、またしても燃料が注がれた。


「ちょっと待て、ふたり続いて500以上だと!?」

「おまけにどちらも戦士ではないのだぞ!?」

「いや、ヴィトワース大公はかつて大荒野で――」

「落ち着け、昔の話だ。大公に収まった今となっては衰えも――」

「侮るな。アレは普通では――」


「やっぱ駄目だ、剣と鎧売っぱらって鍬と種籾買って実家帰るわ俺……」

「なあ、お前んとこ小作人雇う気ないか?」


 けれど、今度のざわめきには、なんとなく負の気配が多めに混ざっているような気がして、


「それよりもバストアクだ。あのレイラという女領主、つまりは大公より強いと!?」

「待て待て、それこそ侮るなという話だ。聞けばあの女はまだ20そこそこだぞ。経験の差が、なにより生まれが――」

「だが、血風姉妹のレベルも聞いただろう。合わさればあの化物とて――」

「そうか! しかもバストアクの国力、地形、位置関係、どれをとっても――」


 ……とってもきな臭い会話が聞こえてきます。しかも複数箇所から。


「残念、負けたわー」

 まったく悔しそうではない口調で戻ってくるヴィトワース大公を、迎え撃つようにグランゼス皇帝とファガンさんが立ちはだかった。


「あら? なぐさめてくれるのかしら?」

 きょとんと首を傾げる大公に、

「話す必要があるな」

 と皇帝が重たげな声を発し、

「是非とも」

 とファガンさんも応じる。


 そして、「あっ、そうそうそっちのふたりもレベルを……」とリョウバとシュラノに声をかけようとする大公の肩を、背後から忍び寄ったオブザンさんがガシッと掴み、「嬢、戻りますぞ」と方向転換させた。


「ちょっとなによオブザン、別にそこまで大至急相談することでもないでしょう?」

「それは事の原因が言って良いものではありませんな」


 ヴィトワース大公は背中をオブザンさんに押され、左右をグランゼス皇帝とファガンさんに挟まれ、問答無用でこの場から退場させられていった。


「……いったいどういうこと?」

 近くにいたスピィに尋ねてみるが、

「――今すぐ帰国が……いや対処するまでは……下手をすると――ああ、総隊長とフリューネ様がっ……」

 などと完全に沈思黙考状態で、こちらの声は届いていないようだった。


「ひとまず我々も戻りましょう」

 そうリョウバに促されて、私たちもファガンさんたちの後を追うことにした。


 見物人たちからの視線は、いつまでも背中に貼り付いていた。

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