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誰が再会を喜ぶものかと

「それでは、イオリ様が休まれる際のお部屋をご用意しましたので、案内させて頂きます」


 バランの案内で、私は別室に移動することとなった。


 魔王はといえば、バランが机に積んだ、例の薄い石版の束を処理しにかかっている。

 この世界における魔王は、いわゆる『暴力の頂点』とか『破壊の化身』みたいなものではなく、地球における王族、または大統領みたいな立ち位置なのだという。

 だからデスクワークもそれなりにある。


 ちなみにゲーム機をしまったチェストは、バランが施錠して鍵は懐に入れていた。


「では、こちらへ」


 はじめて、私はこの部屋から魔法陣ではなく普通の出入り口を使うことになった。

 

 扉の先は、少し通路を進むとすぐに階段へと続いている。道幅はすれ違うのに気を遣うぐらいで、壁や天井は黒く沈んでいる。

 階段を登ると、そこは扉のない小部屋になっていた。壁にはいくつかのオブジェ。

 前回、魔王が別のところで操作していた魔法陣起動用に似ていた。


「あの部屋には、魔法陣からしか来れないようになっているんですか?」


 そう尋ねると、バランは肯定した。


「建設時に作った通路は埋められているそうです」


 その通路を掘った人も後で埋められたりしたのかな、と思ったもののそこまで聞く度胸はない。


 バランは壁のオブジェの内ひとつを操作し、私達はまた別の場所へと。

 ついた先でさらに別の転送。

 そして到着したのは、魔王の部屋ほどではないにしても、けっこう豪華な感じの通路の端だった。

 

「申し訳ありません、離宮はまだ建設中でして……。こちらは部屋が連なっているものの、最上級の賓客にお使い頂く建物でして、壁は三重になっております。イオリ様にはもちろん最奥の一室をご用意しておりますし、現在他の部屋は空けております。どうかご容赦を……」


 バランの言葉に、冷や汗がでる。


「いや、あの、私ごときに滅相もないというか過分にすぎるといいますか、全然構いませんよここで。むしろここがいいです。それに他にお客さん来たらもっと他の部屋に移ってもまるで問題ないというか――」


 ここまでVIP待遇されるほど、私はたいした人間じゃないのだ。

 こっちの世界では希少価値があるのかもしれないけど、それだってたまたま魔王が連れてきた只の地球人Aなわけで……。

 あ、でもあの謎靄は私を選んだっぽいよな?

 そういえばなんで私なんだっけ?


「イオリ様、立場をわきまえず私見を申し上げさせて頂きますが、そのようなご謙遜が美徳であることは承知しておりますが、魔王様や私以外の者には、あまりお見せにならない方がよろしいかと存じます」

「え、いや謙遜とかじゃないんですけど……」

「それでも、とご忠告させて頂きます。今後、私達以外の者と接して頂く場面は出てくるものと思われますが、イオリ様が他の世界からお越し頂いた方だという点は、基本的に隠しておきたいと考えているのです」

「あー、まあ無駄に注目されそうですしねえ。それに魔王様も言ってましたが、地球の技術とか情報とか、うっかりこぼしちゃいそうですよね」

「おっしゃる通りです。――ですが、この城にも粗暴な者はおりますし、笑顔の裏に策謀を秘めた者もおります。そうした者たちにとって、一見弱腰とも取られかねない振る舞いをされる方々は格好の的に見えてしまうものです」


 ……ま、そういう人もいるよね。

 たまによく忘れるけど、ここって魔王城だしね。


「えっと、わかりました。正直馴れないんですけど、精一杯強がって偉そうにしてみせます」

「決してご無理なさることはありませんが、ええ、そうして頂ければ魔王様も安心されることかと愚考致します」

「……あの、代わりにお願いなんですが、その丁寧過ぎる口調、もうちょっとくだけてみません?私相手のときは。やっぱり緊張しますし」

「……努力致します」


 案内された部屋は、予想よりずっと上だった。そりゃもう、ハードルを棒高跳びで越えるぐらい。

 雑誌で見た一泊12万とかのスイートみたいな豪華さ。

 広々した間取りに高い天井に思わずうろつきたくなる動線と永住したくなるソファセットと永眠したくなるベッドと。

 そしてバルコニー。

 そう、はじめて見るこの世界の景色。


「……いやあ、予想外予想外」


 バランも退室したので、思わず独り言も出る。

 だって魔王城とかラスダンってあれでしょ、基本夜で、たまに宇宙空間で、雷――はやや古いけど不思議な光が漂ってたり急にSFチックになったり、外はドラゴンが飛び交ったり火山が噴火してたり。


 それがなに、この絶景は。

 グランドキャニオンとイグアスの滝とドロミーティが合体したような雄大な自然は。

 太陽は燦々と降り注ぎ、柔らかい風が肌を撫でる。

 視界内に、人工物はなく、人の姿もない。

 ものすごく贅沢をしている気分に、いまさらひたる。


「あの、そろそろ話しましょうか」

「うわっ」


 背後から耳元に届いた声に驚く。

 元の身体と精神だったらもっとでかい悲鳴をあげるところだ。


 振り向くと、ほとんど寸前の位置にひとりの女の人が立っていた。

 これまた地球ではありえない、紫色の長い髪。

 ちょっとタレ目で可愛い感じだが、よくよく見るとものすごい整った顔立ち。

 そして、妙に希薄だが、得体の知れない気配。


「ええと、どちら様でしょうか?」


 魔王の奥さんか何かかな?

 底知れなさと見目麗しさがよく釣り合いそうだ。


「あら?物忘れが激しいのですね」

「は?」

「まったく、もっと積極的に協力してあげてください」

「へ?」

「では頼みましたよ」

「おい」


 ……そのぽやぽやした喋り方にデジャブを感じる私。

 声質は違ってるけど。

 ……そりゃあのときは、あのヒロインの声優をコピーしてたわけだし。


 ――そのこちらの話を聞かない強引さと説明の少なさにもデジャブを感じる私。

 ここは変わらない。

 ――そういえばあのとき、「こちらの世界では起きる直前しか話せない」みたいなこといってたか。


「出たな、紫の謎靄!」


 びしっと指をつきつけると、


「なんのことですか、相手に伝わるよう話してください」


 相変わらず人をイラつかせてくれるぜ。

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