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ピッコ○さん、ごめんなさい

 まず、右足を軽く引いて左半身になります。右手は、腰に当てておきます。

 次に、右目を閉じます。

 続いて、左手をチョキの形にします。

 その左手を横から、左目を上下に挟むような感じで添えます。そうです、横ピースです。このとき、指先と肘は恥ずかしがらずピンと張りましょう。

 さあ、羞恥心を捨てて、片足立ちになりなさい。左足の膝から下を曲げて、つま先を天へと向けるのです。すると――


 ピキュン。

 どかーん。


 目からビームが出ます。


「何が!?」

「光線だ! くそっ、何人やられた……っ?」

「直前の構えを見たか? あの猿、完全に馬鹿にしてやがるっ……!」

「ちっ、足が……」

「誰か! 私の目はどうなってる?」


 客観的に己を見たら自殺しそうなポーズから瞬間で放たれる魔力ビームは、さすがの暗殺者たちも予想外だった模様。

 連中のど真ん中へクリーンヒットし、着弾地点から半径2メートルは消滅、半径30メートルまでは爆風でダメージを与えることに成功していた。


 見たか、――いやできれば見ないで欲しいんですけども、これが追加兵装その2、その名も【魔眼光殺法】!

 他に【カルナの熱視線】という案もあったけど、この場合に熱視線を放つのが私自身だという現実にくじけてしまった。放つんじゃなくて浴びたいんですよあの視線を。


 誤作動するとララの誓いより断然ヤバいので、より複雑であざと恥ずかしいポーズを要求されるけど威力は魔王の折り紙付きだ!


『くっ、く……ぅく、いや、良い攻撃だ……くくっ、だ、駄目だ、今のポーズが脳裏に焼き付いたぞイオリ……、は、腹が……』

 戦闘訓練でなかば強引に披露させられたうえに、ビームとは別種のダメージを負った魔王を殴りたくてしょうがなくなったけど、とにかく折り紙付きだ!


 敵が動揺しているうちに、突進。

 着弾点に近く、爆風ダメージが大きかった奴らを仕留めにかかる。


 四肢を失い全身やけどを負った敵が、それでも口から何か飛ばしてくる。

 回避して、その頭を踏み潰す。


 飛び出た内臓が黒焦げになっている敵は、私が近づいた瞬間に隠し持っていた袋を握りつぶした。

 ぱっと吹き出る緑の煙から、バックステップで逃げる。

 煙を間近で浴びた当人は、皮膚を腐らせて息絶えた。


 その毒煙の奥から、片手のない敵2名が掠めた煙で身体を腐らせながらナイフを突き出してくる。同時に、左右からも別の敵が。

 どいつから対応するか一瞬だけ考え、一番速度のある右へと向きかけた瞬間、

「――くっさあ!?」

 猛烈な悪臭に思わず息がつまる。いつの間にか、薄黄色の煙が左の敵の背後から広がってきていた。

 そしてその隙を逃さず襲ってくる刃。

 後方へ飛び退るが、僅かに右の上腕をナイフが掠めてしまった。

「ぅあっ……!」

 激痛。


 さらにバックステップで距離を取りながら、傷口を見る。周辺の皮膚が黄色と紫に彩られ、じゅくじゅくと泡立つように発疹が増えていく。

 当然のようにナイフへ塗られていた毒だ。


 まだ鼻先にまとわりついているような悪臭と激痛で涙のにじむ視界の先で、敵が歓声を上げている。


「やっと当たりやがった!」

「やはりな。攻撃には敏感だが、搦手までは察知できぬ獣よ」

「毒はなんだ?」

「ハジュスの濃縮だ」

「……おい、なんでまだ立ってられる?」

「知るか。アレを常識で測るな」

「とにかく罠だ! もっと弱らせる! 非殺傷系を持ってる者は残らず出せ、特に五感を塞ぐ奴だ!」


 あんたら完全に私を猛獣扱いしてるな!


 ぐっと歯を食いしばって耐えているうちに、痛みは和らぎだした。

 傷口を確かめると、さっきまで不気味な色だった皮膚はもとに戻り、傷口は早くも塞がりつつある。


 どうやら自己治癒力が勝ってくれたみたい。

 今回は。

 毒や薬が効きづらいのは知ってたけど、限界を試したわけじゃないのだ。掠めただけでたいした量じゃなかったから大丈夫だったけど、もっと深くやられたらわからない。

 それにあの痛みをまた味わいたくはないし、どうしても隙ができてしまう。

 できるだけ避け続けるしかない。


 それにしてもあの悪臭は予想外だった。

 見ればまだ黄色い煙が向こうで漂っている。近くの奴らはいつのまにか覆面をつけなおしてるし。


 ……うう、近寄りたくない。

 敵意も殺意も、物が動く気配もない非致死性の煙とか私に特効じゃん。


 けど魔眼光殺法は脅威だったみたいで、深手を負った敵は動きが鈍いし、そうでない奴らも警戒心が高まっている。ちょっとだけ、膠着状態だ。 


 といっても、敵は例によって互いに距離を取りつつ、前衛の背後では何やら指示を飛ばしたり位置を変えたりごそごそ持ち物を交換したりしている。さっき言ってたような道具を準備しているのだろう。


 その作戦は、残念ながら間違っていない。

 私はいわゆる『意識の外からの攻撃』に弱いし、殺気のない攻撃やデバフは殺意満点の攻めほど鋭敏には察知できないし、煙やガスなど物質として薄いものも気づきにくい。


 私は連中に、確実に攻略されつつある。


 ……とは理解したものの、それで私にできることが増えるわけでもない。

 精々いろんなことを想定して、できるだけ回避して、やれる範囲で命中率を上げて、なるだけ短時間で全滅させるだけだ。


 それが難しいんだけど。

 ったく、敵さんに気合い入れて音声も入ったのはいいけど、戦闘は相変わらず冷静極まりないんだもんなあ。もうちょっと勢い任せの力勝負に持ち込みたかったんだけど。


 私はちらっと零下砦周辺の戦場を見る。


「――ふふ、そうだ、いいぞ。……叫べ、吠えろ、死に様を咲かせろ……!」

 地を這うような声を漏らしながら剣を振るいまくり、汽車のように血煙をたなびかせながら斬り進んでいくアルテナ。


「ぁっはははははぜってぇー外さねえぇっははははは!」

 完全にトリガーハッピー入った笑い声がドップラー効果を起こす勢いで駆け回りつつ矢を放ちまくるナナシャさん。


 ごらん、うちのバーサーカーなんてあのご様子ですよ。

 

 それを囲んでる敵も乗せられてるのか、重なりすぎて何言ってるかわからない怒号をあげ続けている。カゲヤの戦場が武人同士の決闘場なら、あっちの戦場は狂戦士たちのカーニバルだ。

 私の目の前にいる君たち、ちょっとは伝染ればいいのに。


 ……伝染る?


 なんか、引っかかった。


 あらためて目の前の敵を見る。

 立っている敵、倒れている敵、飛び散った四肢、こぼれた内蔵、まだ漂っている黄色の臭煙、緑の毒煙。二色の煙は空気より重いらしく、ほとんど風もないため一箇所に溜まって、ゆらゆらと敵も立ち入らない空間を形成している。


 ……感染る!

 

 静かに深く息を吸い、止める。

 そのままダッシュ!


「来るぞ!」

「一瞬でいい、止めろ!」


 狼狽えることなく迎え撃つ敵勢はその場で足を踏みしめ、構える。

 ――そいつらの手前で、地を弾けさせながら真横へ急転。

 敵の大部分と、2つのガス溜まり、そして私が一直線になる位置へ。


 せーの、

「ふぅーっ!」

 止めていた息を、思い切り吐いた。誕生日ケーキのろうそくを消すとき並の気合で。あれ思ったより大変なんだよね。


 しかし今の身体の肺活量で起こす息吹は、ろうそくどころかキャンプファイヤーでも消せそうな強風となる。


 ましてガス溜まりを吹き飛ばすぐらい、敵に向かって吹き飛ばすぐらい、軽いものである。


「ぐわっ」

「ぅごぉ」

「退避ぃ!」

「……がっ……」


 悪臭にむせる者、毒にやられる者、位置によってダメージは違うが、かなりの広範囲攻撃になった模様。一部の敵は耐性とか免疫でもあるのか無事だけど、大半には効果があったみたい。

 絵面的には私が毒の息とかくさい息とか吐いたみたいだけどそんなことはありません。毎日歯ぁ磨いてるし。


 さて、これでまただいぶ敵を減らせた。


 最終WAVEも、そろそろ詰めだ。

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