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高回避・痛覚耐性・毒持ちの集団という悪夢


 地中から飛び出てきた槍を躱し、剣や短刀や鉤爪を構えて特攻してくる連中の頭上を飛び越し、まず狙うのは高所にいる弓部隊。

 タクティクス系で開始時から高台に陣取って飛距離伸ばす敵に散々イラついた経験のある私を相手にしたのが運の尽きだ!


 左右の巨岩の上に8人ずつ、飛んでくる矢を回避しながら、跳躍3回でその右側の弓兵たちの懐へ入った。


 動揺する気配が流れるものの、誰ひとり声を発することなく6人が二の矢を継ごうとし、残り2人が弓を捨てナイフを抜きながら突進してくる。


 私はそれらがヒットする前に身をかがめ――反対側の巨岩めがけて思い切り足元を蹴りつけ、弾丸のように飛び出した。


『体格に見合わない怪力を持つ者にとって厄介なのは、足場の脆さだ。足が小さいほど、そこに力が集中するからな』

 魔王様のアドバイス。

 それを今は、逆に利用する。


 風を切って空中を突き進む。

 遠ざかる背後から聞こえるのは、足場になった巨岩が崩落する轟音。

 もとから穴だらけの奇岩は、実に景気よく砕け散ってくれたらしい。


 そして近づいてくるのはもう片方の巨岩と、その上に陣取る残り半分の弓兵たち。

 着地する必要もない。

 身体を丸めて反転し、蹴りの体勢へ。いくぞ、ライ○ーキック!


 巨岩が、弾け飛んだ。


 破片が砲弾のように四方へ振りまかれ、近くの奇岩もろとも、周囲に潜んでいた敵にもダメージが入ったらしい。いくつかの魂が天へ昇るのが見えた。

 もちろん、その中心地となった巨岩に陣取っていた弓兵たちも。ある者は発射直後の破片に弾け飛び、ある者は瓦礫に飲まれ、ある者は蹴りの風圧で吹き飛んだ。


 地面へ着地。

 ざっと3秒で、左右にあった体育館ぐらいの巨岩は無残に崩れ落ち、ガラガラと破片が散乱していく。

 そして3秒あれば、

「ぁ……」

 接近戦をしかけてきた連中のうち7~8人ぐらいは、カゲヤが仕留めてくれている。

 

 それでもまだ15人以上残っているけど、

「……っ」

「射撃注意!」

 そいつらにも魔弾と矢が命中していく。


 攻撃したのは、氷の内側にいるリョウバとナナシャさん。氷壁をぶち破ったのではなく、まるで銃眼みたいに氷の一部に小さな穴ができているのだ。


 そうして、敵の第一陣が全滅するまでにかかったのは10秒前後。


 サレン局長をはじめ周囲からはまたも驚愕の気配が漂うものの、戦意は衰えない。すかさず第二陣が襲ってくる。

 今度のは、倍の80名ぐらい。……こいつら倒しても、まだ半分ってところか。


 しかも第一陣を見ていたせいか、第二陣はひとりひとりが前後左右に距離を保ち、包囲しつつ波状攻撃を仕掛けてくる。

 どうやら、ここからは長丁場になりそう。





「――とうっ」

 足元から大きな瓦礫を拾い上げ、敵陣めがけて投げ飛ばす。


 単発メテオ、いや単発ならそもそもコメットがそうだっけ? まあそんな感じの勢いで巨岩だったものの破片が飛んでゆき、地面を波打たせる勢いで衝突する。

 しかし攻撃は当たらなかった!


 さっきから私は、こうして投石という見習い戦士が覚えるかスルーするような攻撃を続けている。

 一応、戦闘向けのフル装備になってはいるんだけど、私の武装ってカイザーナックルと短剣なんだよね。強敵とのタイマンなら有効なんだろうけど、今のように大勢相手のときは大きな物体を投げたり振り回したりするほうが効果的なのである。


 まあ、当たってないんだけど。


 最初の2~3投までは命中していたのだ。1投目なんて5人ぐらい一気に仕留めたし。

 けれどあっという間に私の投球フォームは見切られたらしく、既に命中どころか余波によるダメージも与えることができていない。くそう、私には配球オタクのすぐ怒るキャッチャーがいないから!


 それでも、意味がないことはない。

 私が投げ続けていることで、敵は氷の外で戦っているカゲヤやアルテナに対して集団で一気に攻め寄せることができないでいるのだ。

 少数相手なら、あの2人はそうそう劣勢に立たされることはない。


 よって、私はさっき蹴り砕いた巨岩の跡地にスタンバり続けている。


 もちろん私に対しても、敵は襲いかかってくるのだけど。

 そう、まさに今背後から無音で襲ってくる暗殺者Eみたいに。

 けれど、

「甘いっ」

 脇腹に向かってくる何かを感じ取り、振り向かずにサイドステップで避け、バックブローをお見舞いする。

 しかし避けられてしまった!

 ええ、近接攻撃のフォームもあらかた見切られておりますが何か?

 

 躱されることは織り込み済み、屈んだ体勢の暗殺者Eに向けて、そっと伸ばした足を途中で急加速させる。

 ゴキッ、と折れる暗殺者Eの左足のスネ。

 格闘技的には明らかに体重の乗らないフォームでも、私のステータスなら強引にダメージを与えられるのだ。

 悲鳴を上げることも、すっ転ぶこともなく、Eは初撃で脇腹を狙っていた暗い色の曲刀を、今度は私の首筋へと滑らせるように突き出してくる。

 その右手首をキャッチし、握り砕く。

 すかさずEは左手の指先を揃え、またも私の脇腹めがけて貫手を見舞ってくる。

 それもキャッチすると、砕く前にEの口から含み針が。

 首を傾けて避ける。

 視界がずれた瞬間、折れた左足の先から刃が飛び出て、蹴り上げ。

 キャッチした左手を押し下げ、その前腕に刺さらせる。

 当然のように毒が塗られていたようで、Eの身体が脱力、しかし崩折れた上半身がふいに力み、Eは私の膝辺りめがけて噛みつこうとする。八重歯が異様に鋭い。

 ――膝蹴り。

 Eの鼻から上が消滅した。


 どさりと地面に落ちたのは、頭部の上半分を失くし、自身のつま先を左腕に刺した状態の死体。

 魂の抜けた、奇妙な格好の物体。


 その足首を掴み、5歩手前まで近づいていた暗殺者Fへ向けて手裏剣のように死体を投げつける。

 A、Cに続いて3発目の元人間手裏剣は、躱そうとしたFを引っ掛けるようにして巻き込み、まだ無事だった奇岩に当たって新たな瓦礫を生み出していった。


 第三陣も、投石などを含めて10人は仕留めただろうか。


 さっき暗殺者Cを倒したとき、Dは7歩手前まで近づいたところだった。

 まとめてやられないよう散開し、少数を送り込み、私の動きを観察している。

 ひとりひとりも簡単に倒れないし、上下左右に攻撃を散らしてくるし、最低でも四肢の1本は壊しておかないと私のパンチやキックは当たらないしで、実はけっこう消耗している。


 もっと戦闘訓練に時間を割いていれば良かったと後悔の念が湧くけど、今更だ。

 手持ちの武器――強大なステータスと頑丈な身体でゴリ押すしかない。

 そしてこの戦闘経験をもとに、次はもっと効率的に動いてみせる。


 ……自分はいったいどこを目指しているのかという疑問も湧くが、我に返っている場合じゃない。

 そう、私は未来のゲームに満ち溢れた至高空間を手に入れるため、あいつらを壊滅させなければならないのだ!

 ……だから冷静に自分を省みるなってば私。


 少し落ち着こうと息をしながら、みんなの様子を確かめる。


 シュラノが作った氷塊の前では、カゲヤもまた死体を積み上げている。その数は私よりずっと多い。

 それだけではなく、リョウバも氷の内側から銃眼を利用して敵を射殺している。撃たれた敵の陰に潜んでいた別の敵が、その銃眼を狙って小さいお手玉のような布包――たぶん毒――を投げつけるが、そのときにはもう銃眼は氷に埋められている。

 そして別の角度から攻め込んできた敵を撃てる位置の氷壁に、新しく穴が空き、すかさずリョウバが射撃。


 さらにリョウバが陣取る場所から、馬車を挟んだ反対側――そちらの氷壁が今度は扉のように開く。そこから突撃するのは治療と補給を終えたカザン王子の部下たち。

 彼らが出ていった直後、氷の扉は閉まり、継ぎ目すらなく頑丈な氷壁に戻る。


 これがシュラノをして「今日はもうなにもできない」と言わしめた大魔術、【零下砦】。

 内側にいる者たちを完璧に守りつつ、周囲に群がる敵を排除するための機構も併せ持った氷の城塞を、瞬時に作り上げる秘奥。

 

 戦況は、いぜん優勢だった。

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