バーサク+リジェネ×捨て身+乱れ打ち
戦場のちょうど真ん中に位置する私の左右では、合わせて5つの戦いが繰り広げられていた。
すぐ左隣は安定のカゲヤ。対するはこれまたさっきの蜂型の大型版。
頑丈そうな横開きの大顎と、5本に増えた鞭のような尻尾を駆使しているけれど、カゲヤには傷一つない。そして的確な間合いとタイミングで振るわれる槍。確実に体力を削っていっている。じきに急所へ届くだろう。
うん、ここは大丈夫だね。
そのさらに隣ではリョウバが、これまた2メートルぐらいありそうなトンボを撃ちまくっている。
トンボはトンボのくせに肉食のようで、でかい複眼の下には牙の並んだ口が開いている。けれど、おそらくは空中高機動からの噛みつきを得意とすると思うんだけど、既に胴体も羽も被弾していてそこまでのスピードが出ていない。
よし、こっちも勝てる。
そして蜂とかトンボとか地球でも比較的平気な方の虫でアリガトウ。
さあ、一番奥のふたりは――
「ああもうっ、シュラノまだですか! そろそろ疲れますよ! 疲れました! 休憩を要求しますっ」
さっきはカザン王子たちが倒したワーム型も、律儀に強化版が送り込まれてきている。今度のは頭部が二股に分かれ、いい具合のコンビネーションでエクスナに食らいつこうと連撃を見舞っている。
それを賑やかに叫びながら軽やかに回避し続けているエクスナ。
ちょっと離れたところで魔力を集中させているシュラノ。
普段から静かなシュラノは、体温も低そうだし気配も薄い。目や鼻の見当たらないワームが何で獲物を感知しているのかわからないけど、とりあえず今は完全にエクスナをターゲッティングしていた。
そのシュラノの右手が上がり、さっき放ったのよりも大きな炎弾が放たれる。
「ギュチィッ」
気づいたワームが回避する。
……しかしこの虫たち鳴き声がキモいなあ。
炎弾がワームの細長い身体をギリギリ当たらずに通り過ぎる瞬間、シュラノから、またも魔力を操る気配。
ドウッ、と炎弾は炸裂し、その場に巨大な火柱が上がる。
炎に巻き上げられてワームの叫びは聞こえない。
「うわっちいいいい! ちょっとシュラノ範囲考えてくださいっ、熱波が! あ、髪、髪焦げました!」
エクスナの元気な叫びはよく響く。
ワームは全身の粘液に炎耐性でもあるのか、空へと立ち消えていった火柱の中から出てきた途端に、再び近くのエクスナへと襲いかかる。さすがに全身焦げた状態では先程より勢いが弱いものの、それでもその攻撃力はエクスナにとって致命傷になり得そう。
「しかもまだ生きてるじゃないですかー!」
「周囲は森」
「山火事上等です、もっと強いのを! でも撃つ前に言ってくださいお願いですからっ」
「炎は非効率と判明。他を検討」
「検討しなくていいですから片っ端から危なっ! 今! 今ちょっと危なかった!」
「息が切れる。喋らないほうが」
「わかってますよ畜生!」
……よし、ここは救援の第一候補だ。
若干、ギャグ時空に片足突っ込みかけてるみたいだから大丈夫かもだけど。
で、反対の右サイドでは。
「ふっ!」
カザン王子の高価そうな剣が、羽の生えたサソリみたいな敵の尻尾を切りつけた。
甲高い衝撃音とともに、羽サソリの赤い甲殻がいくらか剥がれ落ちる。
おお、やるなあ。
「王子、あまり前には――」
「言っている状況ではない!」
同じく剣を構えた戦士が心配そうな声を上げるが、途中で遮るカザン王子。
どうやら、最前線に立つ気構えはちゃんとあるみたい。
ごめんなさい、さっきのワーム相手のときは後ろで守られてたから、てっきりそういうタイプかと思ってたよ。
動き自体もいい。
他のメンバーとも、うまく連携して立ち回ってる。普段から、彼らと一緒に鍛えていることが伺える。
相手の羽サソリも四方からの攻撃に対応しきれていない。武器は2本のハサミみたいな脚と尻尾に対して、カザン王子たちは総勢5名だしね。
よしよし、ここもお任せでいいかな。
――さあ、残るは右隣なんだけど。
「キャギイイイィッ!」
敵は、カマキリのような外見。全身が濃いオレンジで、巨大な一つ目で、杭みたいな牙が一本だけサーベルタイガーの如く突き出ているけど、全体的なフォルムはカマキリである。
鎌というより、ほとんど斬馬刀と言えそうな前脚を巧みに操り、時には折りたたんでいる長い後ろ脚で跳躍し、やけに伸びる首で噛みつこうともしてくる。全体的に鋭く、細長く、頑丈そうで、手強そう。
そりゃ、蟷螂拳のもとになった生物だし。
某トータルファイターも、某黒い剣士も、苦戦した生物だし。
実際、魂が見えないこともあって戦闘用ロボット的な印象すらある。虫だけど、虫なんだけど、機能美という言葉さえ浮かんできそうな。
その戦闘ロボットが、
「ギイイィィ……」
加速度的に弱っていくのがわかります。
その原因の片方は、無言ながら爛々と目を輝かせ、口元にうっすらと笑みを浮かべながら矢を連射しているお姉さん。例によって手持ちの矢が尽きそうになると臆すことなく接近し、何本かの矢を引き抜き、何本かの矢はガントレットでより深々と打ち込み、また距離をとって連射のループ。完全にパターン入ってます。
もう片方は、同じく無言かつ氷のような無表情で、猛烈な剣撃を放っているアルテナ。カマキリの間合いから一歩も引かず、その攻撃を紙一重どころか皮一枚掠めさせつつ避けている。つまりは軽傷を負い続けているわけだけど、自己への回復術を併用しているようで、その傷はすぐに塞がる。そして最小限の回避のおかげで体勢を崩すことなく、自動回復の効果で動きを鈍らせることもなく、より深くて鋭い攻撃を繰り出し続ける。痛みとか舞い続ける血飛沫にはお構いなしのようだ。
ぱっと眺めたふたりの印象は、『技術を捨てていないバーサーカー』。なにそれ怖い。
にしても、そっか、アルテナって戦闘中はこんな感じなんだ……。
カマキリもさすがの耐久力のようで、まだまだ攻撃は仕掛け続けているし、アルテナの回避がギリギリどころか判定的にはアウトなラインで続いてるので、いつヒットするか気が気じゃない。
……がしかし、このふたりに混ざれる自信もない。
コンビネーションが完璧なんだもん。
あのお姉さんはアルテナの動きを完全に把握してるように矢を撃ってるし、アルテナも背後から矢が飛んでくることを考慮している気配がないし。
私が入ったらうっかり背中とか撃たれたり、回避中のアルテナにぶつかったりしちゃいそう。
あと、単純にふたりのバーサクかかってます的なテンションが怖い。
なので、
「いーれーてー」
エクスナとシュラノの戦闘に助力すべく馳せ参じました。