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犯行動機?

 魔法陣を使い、あの豪華な部屋に入ると、また私達はソファと黒板のあるスペースに腰をおろした。


「まずは御礼申し上げます、イオリ様。先日くださった書物は非常に役立っておりますし、このゲームというものも……、少々予想以上に、魔王様のお気に召しています」

「はあ……、それはよかったです」

「私の言葉は、いかがでしょうか? 前回よりは伝わりやすくなったかと自負しているのですが」

「はい、そりゃもう。ばっちり通じます」

「ありがとうございます。では、前回もお伝えしてはおりますが、あのときは使える言葉も少なかったことで、不十分な説明になってしまったものと思われます。重要なことですので、今一度言葉にさせていただきます」


 バランザインは黒板に地図を描いた。

 オーストラリア大陸に似た、真ん中のくびれた横長の地形である。ただ、北には首長竜みたいに細長い岬が、南には青森県の突端を逆さにしたような入江があったりと、かなり特徴的なシルエットである。


 その大陸の真ん中よりちょっと左、くびれが終わったあたりにバランザインは縦線を引いた。


「この線を目安に、左側が私達のいる魔族の領土。右側が人族の領土です。魔族領は大陸の四割弱というところですね。そして魔族と人族は対立しており、魔族の頂点、私達を率いているのが魔王様というわけです」

「はい」

「そしてイオリ様をこちらへお迎えした理由ですが」

「はい」


 一呼吸の間が空く。


「――人族が魔王様を討伐するにはどうすればいいか、という戦略を練ることにご協力頂きたいからです」


 うん、この間も聞いたけど、やっぱりわからん。

 私が人族の方に呼ばれていたのなら話は通るが、呼び出す――というか拉致したのは魔王の方で、その魔王がどうすれば自分を討伐できるか考えて欲しい、と。

 自殺志願なのか?ここの魔王様は。


 しかしその理由は、前回は「言葉に慣れてから」ということで教えてくれなかったのだ。


「あのー、今回は理由聞けますか?」


 その問いに、魔王自らが口を開いた。


「今の人族が、あまりに歯応えないものでな。もっと戦力を上げ、私と大いに戦って欲しいのだ」

 

 おお、魔王というか、戦闘民族みたいな発言。


「――という建前を用意していたが、真の理由は他にある」

「は?」

「魔王様!?」


 きょとんとする私と、驚きの声を上げるバランザイン。


「……その理由は、まだ言うことができない。知っているのはバランをはじめ数名しかいない。それが広まると人族を含めた世界全体に影響があるのでな。すまないが、もう少し時間をもらいたい」


「はあ……、でも、だったら、なんで建前だって言っちゃったんですか」

「こちらが頼んでいるのだ。すべてを即座に説明はできないにしても、嘘をつくのは良くない」


 律儀な性格らしい。


「だから、目的そのものは本当だ。私が人族に倒されるための、知恵を貸して欲しい」


 魔王討伐のための、知恵ねえ……。

 

「……えーっと、私を呼んで、ゲームも持ち込んでっていうのは、つまりそのためなんですよね?」

「そうだ」

「具体的にはどう役立てるおつもりなんですか」

「それはまだわからない」

「へ?」

「イオリを招いたことと、『ゲーム』というものについて学ぶこと――それが神の託宣だった」

 

 あ、そうそう、前回ちらっと説明されたけど、この世界リアルに神様がいるんだってさ。

 いや、私の世界でも神の実在を信じてる人たちはいっぱいいるけど。

 どうもこちらでは、姿を見たり声を聞いたりできるみたい。

 まあ、魔王がいるんだし、神がいてもいいでしょう。その神がなんで私ごときを指名したのかはわからんけど。


 ……あの話していてイライラする変身可能な靄も、神様の一種なのだろうか。

 そういえばあれとの会話は、魔王たちにまだ伝えていなかった。

 あとで伝えといたほうがいいよね。


「それで、ゲーム、やってみたんですよね。どうでした?」

「難しい」

「……あー、そうでしたね……」


 さっきの悲惨なプレイ画面を思い出した。


「えっと、バランザインさんもやったんですか?」

「バラン、で結構ですよ。イオリ様」そう微笑んでから、緑髪の男は答える。「私は、ゲーム機には触れておりません。ゲームを使えるのは魔王様のみ、というのが神と交わした契約なのです」

「え、どうしてそんな」

「ゲームは数多く、そのなかに秘められた叡智もまた膨大ゆえに、広まると大きな混乱を招きかねないから、だそうだ」


 魔王がそう説明した。

 大げさな物言いにも聞こえるけど、たしかにそのとおりだとは思う。

 パズルやアクションならともかく、ストーリーのあるゲームだと異世界の文明文化に関する情報がけっこう詰まってるから、この世界へ妙な影響が広まる恐れがある。


「まあ、厳密に定めたのはその1点だけだ。私が得た知識をバランや他の者に伝えることは、私の裁量で行うことができる。それに」


 魔王はそこで、不敵に笑った。


「ゲーム以外のものについては、誓約をしていない。イオリの世界の書物のようにな」


 あ、そういえば辞書とかも渡してるし、あっちの方がよっぽどいろんな情報があるよね。

 

「大丈夫なんですか? それ、バレたりしたら」

「私もバランも、迂闊に他者へ伝えるような真似をするつもりはないからな。世の中が混沌と化すのは望むところではない。神々を騒がせるようなことにはならないよう重々注意するるつもりだ」


 聞いてると、魔王のイメージから離れていく人だなあ。


「でも、じゃあ、私もあんまり向こうの話はしないほうがいいですよね?」

「そうだな、私と会話する程度なら問題ないが、他者へ広めるようなことは避けてもらいたい。命令ではなく、私からの願いとして、聞き入れてくれると助かる」

「わかりました」

「ありがとう。……だが、それはそれとして、教えてほしいことがある」


 魔王は表情を引き締めた。


「なんでしょうか」

「どうやったらここから先に進めるのだ」


 ゲーム機を掲げながら、魔王はそう尋ねてきた。

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