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ダイナミック五体投地

 ジュイメーヌ巨大樹林を後にしてから、さらに3度、襲撃者を返り討ちにしました。


 雲の上に達する山頂に広がる花畑で、

 誰も最深部までたどり着いたことのない洞窟で、

 怪物が住み着いているという湖の畔で。


「懲りる気配がありませんね」

 慣れた手付きで襲撃者をふん縛りながら、エクスナが少しぼやき気味に言った。


「全員、向こうからすれば行方不明という結果になっていますし、そろそろ不気味に思う頃ですが……」

 最初は怖がっていたモカもだんだん慣れてきたようで、拷問の跡が見える襲撃者の近くにいながらもギリギリ表情を崩さないようになってきている。


「これ以上引き渡しても、輸送や拘束の手間が増えるだけでしょうし……」

 フリューネもやや困った顔だ。

 どうも襲撃者たちは同じような情報しか持っていないようで、毎回エクスナが『質問』してはいるが、目新しいネタは襲撃回数に反比例して減っている。


「うーん、そろそろ他のが釣れると思うんだけどなあ……」


 私たちの計画はこうである。


 傷を治す恩寵持ちという嘘をついて私自身を餌にする。

 すると王城内に複数いるとエクスナが言っていた変態共が私を攫おうと刺客を放ってくる。

 そいつらを撃退して尋問して、バストアク王国の最新情報を入手する。

 より強い刺客も襲ってくる。

 そいつらも撃退し、より深い情報を集めていきつつ敵戦力を削る。

 

 というのがひとつ。


 そして、

 王国内の癌とも言うべき連中の刺客を返り討ちにしていくうちに、私たちの噂が流れていく。

 するとそいつらを厄介に思っている人たちが接触を図ってくるはず。

 その人達の目的次第では、協力して下剋上大作戦を実行する。

 あるいは、変態共を倒すところまで連携して王国の力を削ぎ、あとは裏切ってその人らも倒し、王国を手に入れる。


 という2方面作戦なのだが。


「思っている以上に、王城内が悪い意味で一枚岩なのかもしれませんね。反旗を翻すような気概を持てないぐらいに」

 とリョウバが言った。


「となりますと、まずはステムナ大臣とサレン局長の毒牙を引っこ抜きますか?」

 エクスナが言っているのは、要するに襲撃犯たちを逆にこっちから奇襲して殲滅するという話である。

「だが聞いているだけでも国内に3箇所、拠点があるというからな……。1箇所を攻めれば残りは警戒するし、分散して同時攻撃するにはこちらの戦力が足りない」

 リョウバは集めた情報をまとめた用紙をめくりつつ答える。


 そんな話をしながら次の名所まで馬車を走らせていく。

 途中、なだらかな丘で昼食をとり、食後のお茶を飲み、襲撃犯の定時チェックのためにシュラノが索敵魔術を行使した。


「距離50。一直線にこちらへ突進中」

「あ、また? ……って、突進?」

 これまでの襲撃犯はじっくり間合いを詰めてくるのが常だったのだが。


「別口でしょうか」

 モカがお茶のカップを置いて立ち上がる。

「あ、見えました、えっらい速度でこっち来ます」

 エクスナも警戒態勢になる。


 そして、

「――ぉぉぉぉぉおおおおおおお!」

 雄叫びを上げながら、土埃を舞い上がらせながら、複数の人間が駆け寄ってくるのが見えた。

 ちょっと怖い。


 先頭きって駆けてくるのは、凛々しい顔つきの兄ちゃんである。

 灰色の髪をたなびかせ、黒と紫のやや派手な衣装をはためかせ、黙って静かにしてればロード・オブ・ザ・○ングのレゴ○スみたいな美貌を必死の表情に歪めている。

 男エルフめいた兄ちゃんは、一心にこちらを――というか、気のせいか、私を――見つめて、全力疾走してくる。

 

 その背を追いかけているのは、同じような男女が4名。なんというか、めちゃくちゃ気合の入った体育祭で優勝争いしてるリレーのアンカーみたいな感じだった。


「……撃ちますか?」

 リョウバが躊躇いがちに聞いてくる。

「……うーん、敵じゃなさそう、なんだけど……」


 みるみる近づいてくる彼らから、気配も届く距離になっていた。

 うん、敵意や害意の類は感じられない。

 だからリョウバも躊躇ってるんだろうけど、それでも押し寄せてくる勢いにはつい迎撃体制を取りたくなるプレッシャーが迸っていた。


 ズドドドドド――と、たったの5人とは思えない地響きに似た足音が大きくなってくる。

 そして、

「――ぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオ女神よおおおおおっ!!」

 先頭の男が、一際バカでかい声を張り上げながら、私たちのいる場所から30メートルほど手前で、突然身を低くした。


 何事かと思うまもなく、ズザザザザザザァァァッ――と、男は地面に全身を委ねてしまう。

 もちろんそこまでの勢いが残っているので、男は全身で地面を削りながら前進し続ける。


 つまりはヘッドスライディングである。


 後ろの人達もそれに倣う。

 雄叫びアンド突進からのヘッスラを披露する謎の集団。


 意味不明すぎてマジで怖いんですけど。


 もとが凄まじい速度で疾走していたものだから、スライディングもやたら長距離を記録し、平和な午後のひとときを過ごしていた丘の上には、5本の直線が鮮やかに彫り上げられた。


 ……そして、沈黙が訪れる。


 展開についていけなくて呆然としている私。

 ひとまず警戒している仲間たち。

 指先からつま先までピィンと伸ばし、地面に突っ伏している5人の謎集団。


 誰か口火を切ってくれないかなあ、と期待してみるのだが頼れる仲間たちはなんとなく嫌そうに突然の来訪者を見下ろし、その視線をリーダーに向けてくる。


 くそう、やっぱり私かよ!


「……ええと、なんの御用でしょうか?」


 そう尋ねると、5人は乱れのない動きで手足を動かし、ヘッドスライディングの姿勢から、片膝立ちで顔を伏せるという叙勲を受ける騎士みたいな格好になった。


「お初にお目にかかります! 我々は『熱を司る女神レグナストライヴァ様を崇め奉り身も心も熱く滾らせることに余念のない者たちの集い』と申します! 私は発起人のミゼットガゼットという者です! どうか、どうかお見知りおきを!」


 顔を伏せているのに、天に轟けと言わんばかりの大音声であった。


「…………」

 仲間たちが、私を見る目に、くっきりと言いたいことが現れているようだった。


 だよね、私がうっかり神様をご降臨させちゃったことがフラグなんだよねコレどう見ても。

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