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主人公、最大のピンチ


 今更ながらだが。

 この世界での私は、魔王様に用意してもらった高性能過ぎる義体のおかげで、魂が見える。


 人族と魔族だけでなく、獣や魔獣なども含めて、生命あるものすべての魂が。


 もともと、誰かにそんな説明を受けたわけではないので、初めのうちはなんとなく「魂っぽいなー」と思っていただけだった。

 周囲の人たちの体内を流れる、光る水のようなもの。


 けれど先日、この世界ではリアルに存在する神様から魂についての話を聞き、あ、やっぱりそうだったんだ、と納得した次第。


 今ではこの身体にもすっかり慣れ、普段の『ただ異様に視力の良いノーマルモード』と『魂とか魔力とかが見えちゃうスキャンモード』の切り替えも無意識にできるぐらいになっている。


 で、魔王城にいた頃から疑問だったことがひとつ。

 それは旅に出て世界を見て回ってから、はっきりと確信したことでもある。


 魔族や人族、動物たちにあまねく内在している魂。


 それが、昆虫には存在しないということ。


 最初は、小さすぎて見えないのかと思っていた。

 魔王城は普段からすごくきれいに掃除されているので、そもそも羽虫とか見ることがめったになかったし。


 けれど、人族の領土に入って森や山なんかに何度も入っていると、そこそこ大きな虫をみつけちゃったりもする。


 そういった大型昆虫にも、魂は見えなかった。


 一寸の虫にも五分の魂、という地球の日本国にある諺が、この世界では通用しないのである。


 

 さて、少し話は変わって。


 私はこの世界で、魔獣や獣を倒した。

 殺した。

 人族――人間も殺した。


 もとの、地球にいたままの私だったら怖くて気持ち悪くてできなかっただろう。身体能力も低いし。


 けど、この世界ではできた。

 できてしまった。


 時々気になっている、精神状態とか思考とかがこの義体に影響、悪く言えば侵食されていないかという懸念を別にしても、わりと素の私――のつもりでいるけれど――20年以上平和な日本で暮らしている私が、生き物を殺して、その死骸を見て、平気だった。


 思うに、今の『魂が見えている』という特質が、大きいのだ。


 人も、動物も、魔族も、善人も悪人も、敵も味方も、みんな色とりどりだが本質は同じ魂を内に秘め、輝かせている。


 魂は魔力だけでなく、たぶん感情とか意志とかの燃料にもなっている。

 私が集中すると感じ取れる『気配』は、それなのだと思う。


 そして生物は死ぬとき、その体内に収めていた魂を天へ昇らせる。

 魂の総量は一定で、天へ昇った魂はまた別の生物へ循環する。輪廻転生というやつだ。このことも女神レグナストライヴァから聞いている。


 私は、この世界の生き物たちの本質は肉体でなく魂にあるのだと捉えている。なかば本能的に。

 死は、肉体の停止であり、魂の消滅ではない。

 

 誰かが死んだら、後に誰かが生まれる。


 この世界の魂の総量は変わらない。


 ――こうしたことを、たぶん私はこの目に映っている世界から常時感じ取っているせいで、殺害や死体にそこまで嫌悪感や忌避感を持てないのだろう。


 もちろん、魔王様やバランにロゼル、今のパーティメンバーにはとても親しみを感じている。もしも彼らに万一のことがあったら、私はひどく悲しむだろう。

 

 みんなのうち誰かが死んでも、その魂は滅びずに別の場所で生まれ変わる。

 それを理解していても、だめなものはだめだ。


 我ながら都合がいい。


 要するに、敵・悪人・ろくでなし・その他どうでもいい人物――に対しては、『死んで別の何かに生まれ変わったほうが世界のため』みたいな傲慢な感情を持ってしまっているのだろう。

 

 こんなこと、偽善だし、大勢が責めるだろうし、人を殺したのはれっきとした犯罪だし、地球に帰ったら罪悪感と己への嫌悪感で自殺したくなるかもしれない。


 でも、今この世界で使命を果たすには、はっきり言ってしまえば『好都合』だった。


 

 ……少し真面目な話をしてみました。


 さあ、本題へ戻ろう。


 私は、『魂を持つ者たち』は目に見えるし気配を感じられるし根っこのところでは同族みたいなものだと思っている。


 が、昆虫どもには魂がない。


 結果――だいぶ薄気味悪い存在に見えてしまう。


 だって魂ないのに動いてるんだもん。え? それって生きてるの? ゾンビと違うの? どんな仕組みでお前は今そこの樹にとまっているんだ、なに樹液吸ってるんだ、いったいお前は何を考えているんだ、つうかなんなんだお前らは――


 みたいな感じである。


 おまけに魂がないから気配もない。気づいたら物陰でうごめいてたり、腕に止まって血を吸おうとしてたりする。


 ついでに言おう。

 地球にいたころから、私は虫の類が嫌いである。苦手である。怖いのである。


 結論。

 この世界における私の天敵は、昆虫。


 で、現状。


「いやああああああああああっ!」


 虫が、

 昆虫が、

 甲虫が羽虫が地虫が黒虫が赤虫が蝿が蜂が蛾ががガガガガガ!


 うじゃうじゃと、

 わさわさと、

 もぞもぞと、

 

 押し寄せてきているのである。

 しかも、1匹1匹が馬鹿げたサイズなのである。


「ジュイメーヌ巨大樹林、その奥地は巨大虫どもの縄張りです。樹だけでなく、虫たちも大きくするこの土地において人族は弱者となります。しかし奴らの甲殻や羽や鱗粉は高値で取引されるため、商人や冒険者は一攫千金を夢見てここまで踏み入るというわけですよ」

 冷静に解説してくれているエクスナ。


「ひいっ、いまそこ、なんか素早いナニかがじゃらららって這って! ぎゃあ! なんか触った! 触っちゃった!」


「道中でなんとなーく気付いてはいましたが、イオ――あっ、レイラ姫、虫がお嫌いなんですね」


 四方からやってくる昆虫をこともなげに躱し続けるエクスナ。


「ちっ、多すぎる!」

 縦横無尽に弾丸を打ち続けるリョウバだが、この数相手では分が悪い。


「モカ! 虫よけの類は!?」

 同じく、間合いの中を槍で薙ぎ払うので精一杯のカゲヤ。


「あああ、あるんですけどカバンがあっちに!」

 私ほどではないけれど絶賛パニック中のモカと、遠くに落ちている彼女のカバン。


 ――30分ほど前。


「ここから奥には珍しい獣がいるんですよ。ちょっと強めなので、フリューネ姫たちは残ったほうがいいかもしれません」


 今思えば含みのある口調でエクスナは言った。


 で、この5名で森の奥へ踏み入ったわけだが。


 しばらく静かな深い森を歩いていたそのとき、いきなり四方八方から虫の大群が押し寄せてきた。


 私とモカが動転し、他のメンバーも回避を余儀なくされ、あっという間にみながバラバラの位置に。

 そして絶賛混乱中のまま、今に至る。


「いやー、この数は予想外です。普段は大型が数匹来るだけって聞いてたんですけど。最近になって状況が変わったのか、誰かの何かが虫を引き寄せてるのか……。ちょっとびっくりさせようと思っただけなんですが……」

 幸い、そこまで強力な昆虫はいないようで、大ダメージを受けている者はいない。

 精神的ダメージなら超くらってるけど。


 しかし、どうする。

 逃げるにしても、全方位から虫が来るので退路の確保が難しい。

 広範囲の攻撃手段を持っているシュラノがいないのも痛い。


 飛んでくる虫や這い上がってこようとする(ギャー!)虫を避けながら悩んでいると、


 

 ぼたっ



「――――――え」


 ナニかが、

 私の頭に、

 落ちてきて、

 動いて、


「っ! お気を確かに!」


 カゲヤが何か叫んでいる。


 が、今の私に周囲を把握するキャパはない。

 頭上にナニが落ちてきたのか考えてもいけない。


 今すぐ失神したほうが幸せだよ、という私の精神と、

 大丈夫、まだ耐えられるから強制再起動するね、という私の義体がせめぎ合い、


 ぷつり、と脳内で何かが切れた気がする。


 ――私はその場に仁王立ちとなり、


「……私ごと殺れえええええっ!」


 この旅で初めて、大切な仲間に命令口調で懇願しました。

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