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ふと気づいたら、国のトップと会うのも3人目

 王様の挨拶の後、酒と食事が再開された。

 王様もわかりやすいVIPスペースで、給仕を受けている。


 王のテーブルには反対側に空席が並んでおり、そこへ部屋に入ってきたのと逆の順番で、貴族たちが呼ばれていった。なにやら和やかに会談し、適当な頃合で席を立ち、交代していく。

 なんだか結婚式で新郎新婦の席へ行くみたいな感じである。

 タイミングを仕切っているのは、地味な衣装をまとった数名だ。いわゆる、黒服さんというやつ。会場を滑るように移動し、貴族たちへ適切なタイミングで移動できるよう声をかけている。


 そのうちの1人が、ついに私たちのところへも来た。


「参りましょうか」

 フリューネがお上品に微笑み、黒服の後に立つ。その後を私たちも追いかける。

 品定めするような視線をかき分けながら。

 コルイの軍事基地にいたときほど露骨ではないけど、その隠し方がいかにも「ザ・下心」みたいで嫌な感じだ。


 赤い絨毯の敷かれた短い階段を上り、そこでまた一礼。

「――そう、畏まらなくてよい。席へ」

 その声で頭を上げ、黒服さんの先導でテーブルへ。別の給仕さんが引いてくれる椅子にフリューネと私が座り、アルテナとカゲヤは壁際に立ったまま控える。


 テーブル越しに、正面からバストアクの王を見た。


 意外と、若い。

 年上の年齢はわかりづらいけど、20台後半ぐらいだろうか。体型は標準的。顔つきは穏やか――というか、言い方悪いけどやる気が無いような感じにも見える。

 顔立ちそのものは、整っている。肌とかやけに綺麗。

 暗緑色の髪をセンター分けして、肩ぐらいまで伸ばし、そこに王冠を被っている。正式な名称とかあるのか知らないけど、頭頂部が隠れないタイプのやつ。


「バストアク王、セイブル27世だ。歓迎しよう、ラーナルトの姫君たち」

「――お招き、誠に感謝しております。本来なら謁見の間にて玉座を見上げるべき立場のところ、こうして場を設けて頂いたこと、過分のご厚情に心が震える思いでございます」

 フリューネの言葉で気づく。

 そういえば他国の使者が王様に会うのって、普通はもっと公的な場だよね。いや普通とは地球のリアル政治の話ではなく、私のゲーム内知識ではあるけれど。あの、一直線に絨毯が敷かれて、左右に衛兵が並んで、最奥に王様と、時には王妃様が座ってるみたいな。


 冷静に考えたらあの場で木の棒とはした金渡すって、相当ヤバいと思うんだけど。大臣とか兵士とか、「え……うちの王様、しょっぱすぎね?」とか忠誠度ダダ下がりだと思うんだけど。


 などと私の思考が逸れているうちにも、会話は進んでいく。

 そしてほとんど気配を感じさせずに綺麗なグラスへお酒を注ぎ、平然と毒味も済ませてゆく給仕さん。

 ちなみにこの世界じゃ年齢制限とかはないみたいで、フリューネも普通に飲んでいる。


「――ええ、長年、病で城内に臥せっていたのですが――」

 あ、私のこと喋ってる。

 慌てて思考を切り替え、上品に微笑むだけの係に戻る。

「――情け深き神に、有り難くも恩寵を賜りまして、今はこのように健やかに」


 そう、今回はそういう設定を追加している。

 王様ともなれば、他国の王女のことまで把握している可能性が高い。

 病弱で知られる私がこんなところまでのこのこ出張ってくるのは怪しまれるリスクがある。


「それは重畳なことだ」

 バストアク王は、私に視線を向けた。

「どのような恩寵を?」


 ――これは、舐められてるな。


 恩寵の詳細を訊かれるということは、要するに必殺技とか奥の手とかを白状しろと言ってるようなものだ。

 他国の王族に対して、臆面もなく。


 けど、これも想定内。


 私は、あくまでにっこりと笑ったまま。

「病や傷がたちどころに治るという恩寵なのです」

 とフリューネが解説してくれる。

 心持ち、声を大きめに。


 ――途端に、突き刺さる視線。


 目の前の王様からではない。

 背後にいるであろう、歓談している最中の貴族たちから。

 うひい。


「おかげで体調も良くなり、閉じこもっていた反動で、こうして他国を見て回りたいと我儘を仰るぐらいで……。ただ、長年あまり喋ることもなかったので、まだ舌がうまく回らないものですから、先程から口数の少なさを申し訳なく思っておりますの」


 相変わらず、私の妹はよどみなく嘘を並べてゆく。


「なるほど。実に有用な恩寵だ」

 バストアク王は口元にうっすらと笑みを浮かべた。

「ああ、有用といえば――貴国から融通された『レベル測定器』だが、あれも実に興味深いな」

 おお、もうこっちまで出回ってるのか。

 ラーナルト王、がんばってくれているんだな。

「ありがとうございます。あの道具については我が国だけで使うには惜しいと、王がご判断されまして」

 その王、前に『魔』がつくんだけどね。


「ラーナルトは総力戦でも仕掛ける気か?」

 さらりと、物騒かつ壮大な質問をされた。

「生憎、私はそこまでは――」

「そうか。いや、あれの使い道を思えばそうなるだろうと、思ってみただけだ」

「失礼ながら、どのようなご推論かを伺っても?」

「あの数字が公平かつ絶対な値を示すという前提においてだがな。属する国家や軍に依らず、個々の強弱を相互に知らしめることが可能となる。ひいては編成及び配置、戦略にも大いに参考になろう。ことに、複数国家で同時に侵攻する場合においてはな。互いの素性や性格は知らずとも、レベルという『信用』があれば背中を任せること、共闘することへの心理的負荷も減ることだろう。我ら王や軍師にとっても、全体を人数以外の数字で見るという観点は、戦争の動かし方に新たな風を呼ぶこととなる」


 相変わらずやる気なさそうな態度ながらも、すらすらと言葉が出てくる。さすがは王様ということなのかな。


「――まあ、苦言を呈したいこともあるがな」

「それは……、どのような?」

「なに、私のレベルが1だと、家臣に知れ渡ってしまったことだ。この戦国において致命的だぞ、これは」

 くくく、と王は笑う。


 冗談――なのかな?

 フリューネの笑顔は崩れてないし、平気なんだろう。


 にしても、やっぱレベル1か。

 見たときから、へたしたらそのぐらいかなって思ってたけど。


 ――でも、ただそれだけじゃないんだよなあ。


 バストアク王の体内を流れる魂は、たしかにフリューネやスタンと同じぐらいの量でしかない。

 

 けど、この王様、恩寵持ちだ。


 加えて、体内ではなく体表――普通は魔力とか法力とか、まあそういう魂から生じるオーラ的なものが漂っているんだけど、そこに別の色が混ざってる。


 その色は王様の全身を覆い、一部がほどけるように伸びて糸のようになり、その根本は――背後の壁に控えている、従者へと繋がっていた。


 たぶん、王様を守るバフ的な術なんだろう。

 

 術士本人は、俯いて静かにしているけど、かなり辛そう。

 あとでシュラノに、どのぐらい大変なことしてるのか聞いてみよう。


 さて、最悪の場合、この王様とバトルすることになるわけか。

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