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タッチパネルよりコントローラーの物理的感触が好みです

 豪華な刺繍の施されたぶ厚い絨毯。

 シミひとつなく磨き上げられた窓や壁。

 宝石や貴金属に彩られた装飾類。

 きらびやかな細工に輝くカトラリー。

 色鮮やかな料理。


 遠慮とか反省とか侘び寂びとかとはまったく無縁の、なんともゴージャスな会場であった。

 よく言えば、絢爛豪華。

 わるく言えば、成金趣味。


 バストアク王国、その王城内の一室で、私たちは部屋に負けないぐらい装飾過多な衣装に包まれた貴族たちに混ざっていた。


 まずは敵を知る。


 そのために城内へ入り込む身分が、私たちには備わっていた。

 ……正確には、フリューネには備わっていた。


「ねえフリューネ、そろそろ私もラーナルトの姫って通用すると思う?」

「……無口な様を装っていれば、どうにか」

 そんな会話を交わしたのが数日前のことである。


 喋らなければいいのに、的な評価を受けたのは人生初のことです。

 ともあれ、動作だけならどうにか及第点をもらえたので、泊まっていた村を後にして城下町へ入り、王城の門番に身分を伝えた。


 幸い、ぞんざいな扱いを受けることもなく、「確認してまいりますので、その間こちらで」と紹介された高そうな宿で2日ほど過ごすと、招待状が送られてきたという次第。

 

 そんなわけで、今日この場に来ているのは次の通り。


 ラーナルトの第2王女、レイラ――のふりをした私。

 同じくラーナルト第3王女のフリューネ。こちらはもちろんホンモノ。

 側仕えのアルテナ。

 護衛のカゲヤ。


 以上の4名である。


 王城のなかに入るということで、当然ながら魔族チェッカーである『審門』をくぐり抜ける必要があったので人族限定。加えて何があるかわからないので本来の側仕えであるターニャの代役でアルテナが入り、私も含めて実質戦闘員3名体制だ。

 

 ちなみにバストアク王城の審門は、空港のゲートを派手にしたような拵えだった。といっても機械が測定するわけではなく、そのゲートの左右に審査官っぽい人が立っていただけ。

 その審査官2名だが、頭から黒いローブを被っていて顔が見えず、足は鎖で繋がれ、ローブの奥からぷんぷんと薬品臭が漂うという怪しげな人たちだった。

 通り抜ける際には、突き刺すような視線と、くんくんと嗅がれる鼻息、そしてじっとりとした気配が襲ってきた。

 

 素知らぬ顔してそこを4人ともパスし、案内されたのがこの広間である。


 私たちが入室した時点で立食形式のテーブルは大半が埋まっており、歓待の声をあちこちから受け、その後も何組か貴族様たちが部屋へ入ってくる。

 後から来る人ほど、服装が派手だったり偉そうだったりするので、たぶんそういう順番が決まっているのだろう。私たちは、全体で見るとかなり上位だが、そのうえに10組ぐらいいるという位置。


 あまり国交のない国の、しかも王子ではなく王女ならこんなものなんだろうか。


 そんなことを考えている間にも、次々と人が挨拶にやってくる。

 相手をするのはフリューネである。

 私は、その後ろでおしとやかに微笑むだけの係。


「――ええ、私共は継承順位も最下位のふたりですし」

「――もちろん、護衛には精鋭をつけておりますが」

「――そうですね、コルイの村に美味しい食事処がありまして」

「――そうなんですの、ラーナルトの連絡鳥は白嶺で鍛えられているため、長距離も得意で」


 などとフリューネはそつなく会話をしている。ところどころに牽制を交えながら。


 そうしてやってくる貴族たちを眺め続けている私が抱いた率直な感想ですが、

 

 口喧嘩では勝てそうにないけど、殴れば絶対勝てる。

 

 ――自分にびっくりする……!

 なにその感想。蛮人? どこの蛮人!?

 私、平和な日本の女子大生!

 最近なんだか忘れかけてきてるけど! 違う! 今の私は転生者とかじゃないの! 最終的に地球へ帰るの! そして未来のゲームを思うがままに堪能するの!


 あ、やばい、ゲームのことを思うと、禁断症状が……。

 だってもう何ヶ月もやってないのだ。

 ああ、なんかボタン押したい! 小気味いい効果音とグラフィックでビームとか飛ばしたい。ステータス画面眺めたい。フィールドでなんか見つけたい。


 そう、実は魔王城を出発してから、定期的にこうした発作に見舞われております。

 

 こういう場合、一番効くのは戦闘することだったりする。

 あとは高いところに登って異世界の景色を眺めるとか。

 武器や防具ををつけたり外したりしてみたり。

 そういう、いかにもゲームっぽいことをすると症状が落ち着くのだ。


 だが、今この場でそういった行為はできない。

 それどころか、大勢の集まる場で挨拶と日常会話が続くだけの、言ってみれば服装以外はあんまりファンタジー感のないこの空間。豪華な会場や食事なんかは魔王城でとっくに慣れてしまった私である。

 くっ、発作がおさまる気配がない!


 仕方ない、脳内でテト○スでもやるか。

 ついでにもう1画面を脳裏に展開して、そっちではマ○オの1面から開始したりすると、意識が分散されて落ちてくるブロックがかなりランダムになってくるので一石二鳥だったりする。


 これは日本にいた頃から退屈な授業中なんかにやっている私の特技である。

 さらに今の私は脳みそが高性能なので、もういくつか画面を追加してシューティングやRPGなんかもできたりする。


 我に返らないことがコツだ。


 そんなふうにして発作と時間をやり過ごしていく。

 やがて、場の全員がお酒を2~3杯は飲んだ頃、隅に控えている地味な衣装のおじさんが

「王のご入室でございます」

 とよく通る声をあげた。


 全員が、素早く、かつスムーズにグラスをテーブルに置き、一方向へ向かって立ったまま20度ぐらいに頭を下げる。


「――とにかく、私の真似をしてください」

 というフリューネの厳命を受けている私もそれに倣う。


 やがて、扉の開く音、足音、椅子に座る音。


 ――そして、けっこう長い沈黙。

 みんな頭を下げたまま。


「よい、皆、楽に」

 そんな声が届いたのは、誰かさんが座ってから何十秒経ってからだろうか。

 

 ゆっくりと頭を上げる。


 パーティ会場は立食だが、部屋の一辺だけは床が高くなり、豪華な椅子とテーブルが用意されている。

 そこに座り、私たちより目線の高い位置から見渡している男は、

「今日は、ラーナルトより姫君を招くことができた、希少にして祝福すべき日だ。楽しんでもらいたい」

 言ってる内容に全然そぐわない退屈そうな表情をした、バストアクの王様であった。

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