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シリアスブレイカーの多い職場です

「私たちって、なかよしだと思うんですよ、かなり」

 エクスナはメンバーを見渡してそう言った。

「軍人より強い侍従、女好きの軍人、男嫌いの技術屋、無口な魔術オタク、人族の姫と従者、暗部の美少女と、これだけバラバラでぶつかりそうな構成なうえ、魔王様っていう絶対的な最上位者の直属みたいな組織なのに。普通なら使命感と重圧と人間関係でギリギリまで心身削られてますよ」


「そうだね。バランが人柄も選考過程で吟味したって言ってたから。実際、私も助かってるし嬉しいよ、喧嘩とかなくて」

 それは本当にその通りである。

 あの極限地帯といえる白嶺でも、仲間割れのピンチとかはなかったし。

 軽口の叩き合いはあるけど、本気の言い合いとかないし。


「ええ、もちろんそういった要因もあります。私の寛容な性格とかですよね。でもイオリ様の存在も大きいんですよ」

「私?」

「はい」エクスナは真顔でこくりと頷く。「なんというか、イオリ様は天上のお方だけあって浮世離れしてるというか、世間ずれしてないというか、その一見冷たい美女な外見なのに纏う空気はぽわんとしてて、見てると和みますよ実際」


 なんだろう、軽く馬鹿にされているような気がしないでもないよ?

 私、リーダーのはずなのにペットとかマスコット的な位置に置かれたような気がするよ?


「ここまでの道中もなんだかんだ無事に来れたことと、その間に馴染んだお互いのこともあって、今この集団にはかなり平和な雰囲気が流れていると思います。ただの旅仲間ならそれでもいいんですけどね」

 エクスナの言いたいことが、フリューネやリョウバには既に伝わっているらしい。ふたりとも彼女の話を聞きながら、他のメンバーの反応を伺う余裕を見せている。


「ですが私たちはこれから一国を占領しようとしています。白嶺の魔獣とかこないだの妙な男もたしかに強力でしたが、国家というのは桁が違います。たとえるなら、レベル10,000の大巨人を相手にするようなものです」


「1万か……」

 魔王様の表面的な強さが、5千ぐらいだったかな? あの倍かあ。女神レグナストライヴァも同じぐらいだったような。となるとあの2名をまとめて相手取るようなもの。

 ――んー、難しい。

 マジ○ガ様を越える勢いの難関だ。

 まあ、どっちも底知れないから絶対5千以上の力を秘めてるんだろうけど。


「……イオリ様、なんか『検討に値する数字』みたいに捉えられると困るんですけど……」

 エクスナが顔をしかめている。

「あ、そうなの?」

「くっ、これだからイオリ様は見てて肩の力が抜けてしまうのです……!」


 え? どういうこと?


「なら、言い直しましょう。そうですね、仮に平均レベル20の兵士を1万人保持している国だとすれば、それはレベル20万の超大巨人ということです。しかもありとあらゆる技能を保持しています。戦闘技術に留まらず、補給や搦手や交渉や毒に薬に圧倒的な資金力など。――どうです? まともにやって勝てる相手だと思いますか?」

「無理だね」

 即答する。

「でしょう」

 エクスナは満足そうに笑う。

「割合ダメージとか100パー入る状態異常とかデバフとか残機やガッツとか連コインとか場合によってはバグを突くとかを駆使する必要があるよね」

「……耳慣れない言葉だらけですがあんまり刺さってないことはわかりました」

 ジト目でこちらを見るエクスナ

「いやいやわかってるって。つまり国家を相手にするなら相応の覚悟がいるってことだよね」


「……まあ、私は別にイオリ様に変わってほしいわけではないのです。ええ、そのままのあなたであってほしいですよ」

 おお、なんかちょっと口説かれてる気分だ。


「ですが、はい、そういうことです。覚悟が必要です。イオリ様を支えるべき我々には。この先は一手間違えれば千人単位で死者が出る可能性があります。国へ仕掛けるというのは、そういうことです。ですから不肖この私が、あえて血を流す提案と皆への厳しい意見を出してみたというわけです」


「なるほど」

 憎まれ役を買って出て、皆の意識を引き締めようとしてくれたわけか。


「さらに言えば、私が出した案なんて、この国の連中からしたら『ぬるい』範疇ですよ。特にモカとか本番で卒倒しないよう、注意しておいたほうが良いかと」

「……うん、そうだね……」

 先程、エクスナの反論で軽く固まってしまった彼女は俯きながらも頷いた。


「というわけで、目的を『この国の占領、しかもできるだけ被害を抑えて』というものに据え変えたうえで、改めて話し合いましょうか」

 ぱん、と軽く手を叩くエクスナ。


 ううん、今日はだいぶオンステージな感じだな。

 もともと喋るほうだし、それこそちょっとしたムードメーカーみたいな立ち位置に、最近はなっているけど。

 でも彼女の本職は、魔王軍の暗部だ。

 それこそ『ぬるくない』場面の数々を眼にしてきたのだろう。



「――その前に」と口を挟んだのはリョウバである。「さっきの提案への駄目出しと掘り下げを、もう少し続けてみたいのですが」

 その口元には不敵な笑みが。

「煮詰めれば流用できる箇所もあるでしょうし。――なにより、言いたい放題口にしてそこはかとなく気持ちよさそうにしているエクスナを、ちょっと理詰めで懲らしめてもみたい。具体的には涙ぐむ程度まで」


「ほんと性格悪いですねこの男!」

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