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馬車ありでも8人で城攻めとかどっちがモンスターなんだ

「実のところ、この国の中枢に致命的な打撃を与えるまでなら、まあこの面子ならできると思うんですよ」

 とエクスナは言った。


 さすがに酒場でできる話ではないので、宿屋の男子部屋に集まっての会話である。

 大部屋を2つとったとはいえ、全員だと手狭ではある。けれど同じ階に他の客はいないので、そこまで声を潜める必要もなかった。


「たとえばですねー、まずフリューネ姫が身分を証して、王城に歓迎してもらって、パーティやらお茶会やらで貴族を集めてもらいます」

「はあ……、ここに親しくさせて頂いている方はいらっしゃいませんが、ええ、どうにか……」

 フリューネはやや自信なさげに頷く。

「アルテナさんとターニャさんはもちろん護衛ですね。その間に、モカは城下町のあちこちに爆薬とか派手な被害を出す薬品とかを仕掛けてもらいます」

「え」

 モカの表情が固まった。

「下準備が済んだところで、フリューネ姫に集めてもらった会場へリョウバとシュラノが遠距離から砲撃」

「おい」

 なにか言いかけたリョウバを無視してエクスナの声は続く。

「同時に、街中にしかけたあれこれをモカが起爆。王城も城下町も混乱に陥ったところで、イオリ様が単独で正面から突貫。当番の兵士を蹴散らし、補充されてくる戦力もなぎ倒し、ひたすら注目を集めてもらいます」

「それなんて無双ゲー?」

「これだけやれば場内の防備もぐちゃぐちゃです。そこへカゲヤに残存戦力を露払いしてもらいながら私が王のいる場所まで潜入し、暗殺、と。――ざっと以上になります」


 いかがです? と見回すエクスナに、他の皆は何か言いかけるが飲み込み、――そろって私の方を見た。


 くっ、やっぱこの流れか。

 ここで私が「採用!」って言ったらそのまま突き進んじゃうパターン? ルート分岐? 私にその手を汚せというの?


「……えーっと、じゃあ、意見のある人は手を上げてください」

 日和りました。

 いや、リーダーとしてはまずメンバーの声を聞かないとね!


 ばばっ、とシュラノとターニャ以外全員が挙手する。

 積極的で先生嬉しいです。


「そうだね、今の説明の出番順でいこうか。まずフリューネから」

「ありがとうございます。……たしかに、効果はあるものと思います。今の説明だけではもちろん粗が多いため、詰めていかなければなりませんが、ええ、今おっしゃった目的が第一であると仮定すれば、考慮すべき作戦かと」

 いつもの優等生仮面を被ったフリューネである。

「うん、じゃあ率直な感想は?」

「私、流れ弾で死んでしまいます!」

「だよねー」

 お貴族様を集めてもらって、そこにリョウバとシュラノの遠距離タッグ攻撃だもんね。

 同じ室内にいるフリューネたちにはダメージを与えないってのは厳しい。

 アルテナが護衛にいたって、守りきれるものじゃないでしょ。


「アルテナはどう?」

「はい。従者としては当然ながらフリューネ姫をそのような危険に晒す作戦には賛同いたしかねます」

「実際、ふたりの射撃と魔術から守れる?」

「――そうした場には、帯刀を禁じられるはずです。である以上は我が身を盾にし、後は御二方の攻撃回数と範囲、それに運次第かと」

 うんうん、想像したくない絵面だね。


「仮に、非常な幸運に恵まれて私が生き延びたとしても、確実に共犯者と疑われることとなるでしょう」フリューネが口を開いた。「そうなれば、行き着く先はラーナルトとバストアクの戦争です」

「そこまでいっちゃうと、魔王様への『できる限りの協力』を越えちゃう、かな?」

 言いづらそうなことを私が口にすると、フリューネは迷いながらもやがて首を縦に振った。


「んと、いったんここで切ろうか。エクスナ、今の反論についてはどう思う?」

「砲撃の時間に合わせて物陰に隠れてもらい、あとはアルテナさんの言った通り運ですね。ラーナルト王も『娘は死んだものと思う』って仰ってましたし、イオリ様が誰かに責められることにはなりませんよ」

 よどみない回答が返ってきた。

「フリューネ姫の運が良ければ、怪我はシュラノが治してくれるでしょう。その後の責任問題ですが、たぶんラーナルトはフリューネ姫を切り捨てますよ。お姉さんと保養所へ向かった設定でしたっけ? そこを燃やすなりして、死んだことにして、ここにいるあなたは偽物だと突っ張れば戦争にまでは至らないかと。地理的にも間に別の国がありますし、バストアクがわざわざ難攻不落の自陣を捨てて攻め上がる可能性はないと言っていいでしょう。そもそも作戦がうまくいけば、文句を言うべき王族や貴族は死んでますから」


「……ええ、おそらく、そういった方向になりますね……。申し訳ありません、私の仮定は保身を優先した、まず有り得ない未来でした」

 フリューネはゆるゆると首を振った。


 なんだか大学のゼミでやったディベートみたいだな。

 肯定側立論、否定側立論、反論――。

 あれ、ちょっと喧嘩したみたいな空気になるんだよね……。


「ええっと、モカはどう?」

 私は次に出番が来る彼女へ話を振った。


 モカは視線を斜め下に向けて口を開く。

「市街への罠を設置するというのは、非戦闘員への攻撃ということになります。それは、ちょっと……」

「人族の国同士じゃないんですから、戦時規定とか関係ありませんよ。過去の歴史でも魔王軍が人族の国を滅ぼしたときはそんな考慮なんてなかったですよね? 先代魔王が滅んだ後の人族も、かなり残忍な侵攻をしたって聞きますし」

 あ、それは魔王も言ってたな。

 自分が討伐された後、人族の蛮行を止める手立ては必要だとか……。


 モカが黙ってしまったので、慌てて次に振る。

「リョウバは?」

「麗しきフリューネ姫の居場所めがけての射撃は御免被りたいところですね」

 どこか冗談めいた口調で彼は言った。

「もちろんアルテナ殿とターニャ殿が盾となるのも。できうるならば私自身が盾になりたいところですよ。……ああ、それはなかなか良い立ち位置ですね」

 顎に手をあてて微笑むリョウバに、エクスナが冷たい視線を向ける。

「はいはい、『リョウバ』の感想はそれでいいですけど。でも『空追う牙の副長』なら感情じゃなく命令で動けますよね。じゃなきゃそんなにレベル高くなってないでしょうし」

 リョウバの眉が、一瞬だけぴくりと動いた。しかしすぐにもとの表情に戻る。

「自慢ではないが、女性兵士を狙ったことはないぞ」

「筋金入りですかこの男……」


 なんだろう、このエクスナが四方に地雷を撒いているような空気は。 


「えっと、カゲヤ?」

「……暗殺、と簡単に述べていましたが、あれだけ露骨に防衛を誇る王城の主です。その居室に対策を施していないとは考えられませんね」

「あ、その点は大丈夫です。詳しくは秘密なので言えませんが、私の手腕はイオリ様が保証してくれます」

 ねー、と首を傾げてこっちを見るエクスナ。

「うん、そこは大丈夫……なのかな?」

「あっ、ひどい」

「だって、こないだは白嶺だったじゃん。お城とはわけが違うというか」

「いえいえ、むしろ昔いた場所ですから、だいたいの通路は把握してますよ」

「え、あのお城に住んでたの?」

「はい。――さあこれで一通りの反論に答えましたが、どうですイオリ様?」


 にこり、とエクスナは微笑んだ。


「え? ……えーっと」

 まずい、マジでルート分岐ポイント!?

 ちょ、セーブっ、セーブしたいんですけど!

 無理ですよねわかってます!


 ――よし、こうなったら頼るはこの身体の性能だ。

 バトル中さながらに集中力を上げ、今の会話を頭から高速再生する。

 

 ……あれ?

 ……あ、そっか。


「ねえエクスナ、これってあくまで『この国に致命的打撃を与える手段』だよね? 私はこの国を滅ぼしたいんじゃなくて乗っ取りたいんだって。できればあんまり血を流さずに。……こんな荒っぽい方法でお城を奪っても、国民とかみんな逃げ出しちゃうんじゃ?」

「はい、そうですよ?」


 にっこりと、エクスナは笑った。

 よくできました、と言わんばかりに。

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