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対人戦は終わりだ、ジャンルを変えるぞ

おかげさまで100話まで来ました。読んでくださってる方々ありがとうございます!

その冒頭がアレなのは主人公のせいです。

 両手で下腹部を抑えながら、うずくまってプルプル震えているスタン。

 その腰のあたりを軽く叩きながら沈痛な表情をしているグラウス。

「潰れたか?」

「あの角度なら玉は横に流れたと思いますが、よほど寄っていない限りは……」

 なんだかひどい会話をしているリョウバとカゲヤ。

「ひっ……ひひっ……」

 腹を抱えて笑いを押し殺しているエクスナ。

 後ろの方でこっそり「ぐっ」とガッツポーズをしているモカ。

「あれはどのぐらい痛いのでしょう」

 と尋ねるフリューネを宥めつつ馬車の方へ引っ込めさせているアルテナとターニャ。

 ぼーっとしているシュラノ。


 勝者への歓声や敗者への声援などはなく。

 その場にはただ、軽いカオスが巻き起こっていた。



「くっ、くぉのっ……おいてめぇ鉄腕女ァ!!」

 やがてちょっと回復したらしいスタンが内股で立ち上がった。


「あ、大丈夫?」

「うるさい! おいなんだあの馬鹿力は! 理屈に合わん威力を出すな!」

「手加減するなって言ったじゃん」

「ぐっ――、ああ、わかってる今の試合はお前の勝ちだ畜生! だがな――」

 スタンは木刀ではなく、外して木に立てかけていた剣を指差した。

 そしてことらさ大音声を上げる。


「今この場でお前に決闘を申しこ――」


「テム」

「はい」

 キィン、と甲高い音を立てて、


 スタンの身体が、薄緑のキューブみたいなものに閉じ込められた。


 途中まで聞こえていた大声もかき消える。


 そしてグラウスたちの連れである金髪の女性と男の子が、キューブの方へ近づいてきた。

「すまんな」

 グラウスが疲れた声で言い、

「これ以上はね」

 と女性が苦笑する。


 男の子はすいすいと右手を動かし、それに連動するように1メートル四方ぐらいのキューブは宙に浮いた。

 

 ――あの男の子、恩寵持ちだ。

 キューブの操作に合わせて、男の子の体内に魂とは別の色合いで輝く宝石のような光の塊が見えた。

 グラウスにもあるそれが、たぶん『神の恩寵』の源。


 薄緑のキューブは半透明で、中に閉じ込められているスタンが窮屈な体勢ながらも激怒してる顔で暴れているのが見えた。


「スタンの言ったように、あなたの勝ちだ」

 グラウスが前に出てそう言った。

「しかし、見ての通り諦めの悪い男ゆえ、このままだと抜き身の剣で即再戦となってしまいかねない」

 うん、途中まで喋ってたもんね。


「慌ただしくて申し訳ないが、このまま辞去させてもらいたい。そう長くは閉じ込めておけないのでな」

 スタンがげしげしとキューブを内側から叩くたび、少年が嫌そうに顔をしかめているのが見えた。

 バリアみたいなものかな? 耐久力を維持するのにMPを消費し続ける的な。


 グラウスはなんだか意味ありげに私を見た。

「私としても、あなた方とはもう少し話したかったが」

 そして今度はフリューネへ視線を向ける。

「このままラーナルトへ帰られるのですか?」

「ええ、そうしようかと思っております」

「機会があれば、ぜひ皆さんを連れてローザストへお越し頂きたいものです。私は軍人風情ですが、懇意にしている貴族もおりますので歓迎させて頂けるかと」

「ありがとうございます。父に相談させて頂きますわ」


 なごやかながらも、なんだか水面下で色々探り合っているような気配を感じる。

 うーん、この手のやり取りは苦手なんだよなあ。

 せめて選択肢が出ないものか。

 まあ、当面はフリューネにお任せしてしまおう。


 ――ピシリ、とふいに何か割れるような音がした。

 見れば暴れ続けているスタンの肘が、キューブにヒビを入れている。


「テム!?」

 慌てたように女性が声を上げ、

「は、張り直しますっ」

 呼ばれた少年も焦ってキューブへ魔力を注ぐ。あ、人族は理力って呼ぶんだっけ?


 グラウスが溜息をついた。

「――申し訳ない、本当に長くは抑えておけなさそうだ」

「あ、いいですから行ってください」

「そうさせて頂く。では、失礼」


 そしてグラウスたちは去っていった。

 宙に浮くキューブに閉じ込められたスタンを連れて。

 うわー、最後まで私にガン飛ばし続けてる……。



「――にぎやかな男でしたねー」

 パーティメンバーだけになってから、エクスナがぽつりと言った。

「うん、そうだったねー」

 私も同意する。

「イオリ様、打たれた箇所は」

「あ、もう大丈夫」

 心配そうなカゲヤに笑い返し、ふと思ったことを聞く。

「ねえ、カゲヤは勝てそう?」

「……勝てぬとは言いませんが、決して気は抜けない相手かと」

 おお、高評価だ。

「あのまま決闘までいってたら、私は勝てたかな」

「あの剣でしたら、同じ手が通用したと思われます」

 ……そうだね、私の肌、へたな刃物じゃ切れずにへし折れちゃうからね。

 魔王城で何度か実験したよ。嬉々としたロゼルの指示で。 


「じゃあ、もしスタンがものすごい切れ味のいい魔剣とか手に入れたら」

「あの男がその類の武装を使うは置くとして――、イオリ様の自己治癒力にかかるものと」

 あ、そうだった、私、防御力だけじゃなくてHP自然回復もあったわ。

 ……想像するとだいぶエグい絵面の戦闘シーンになるけど。


「しかし困りましたね。このままローザストを目指して良いものか」

 リョウバがあまり困ってなさそうな顔でそう言う。

「試合中、グラウス様をはじめ皆さん驚かれていましたからね。だいぶ、イオリ様の戦力を警戒されておりました。おそらくローザスト王国に向かえば、先方から何かしら接触があるものと思われます」

 フリューネも懸念を述べる。

「驚いたのは我々も同じでしたがね。あの男はなかなかおもしろい」

 リョウバはなんだか楽しそうだった。


 で、

 こういったとき、最後に決めるのは私の役目である。


 んー……。

 もともと、人族の世界がどんなもんか見ようと思って、戦線に沿った3国より1歩手前にあるローザストが参考にしやすいかなあって考えたんだよね。

 別にその近くにある他国でも、よっぽど独自の文化とかじゃなけりゃ構わないわけだ。

 ていうか、なんとなくの雰囲気はちょっとずつわかってきてるしなあ。ラーナルト王国からここまでの道中で。


 ――いっそ、ステージすっ飛ばすか?

 そう、これは一本道の王道RPGではなく、オープンワールドなのだ。

 気の向くままに行き先を決めてもいいじゃない。

 もちろん最終目標は忘れてないけど。

 うん、そうだ、もうちょっと先かなあって思ってたメインクエストの1つに手をつけてみよう。


「えー、進路を変えます」

 私はみんなに宣言する。


「次に向かう国、そこを、奪います。私たち魔王軍が占領します」


 さあ、国盗りチャレンジだ!

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