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換金タイムです

 どうやら、向こうの世界の方が、時間の進みが早いらしい。

 てことは、なおさら用事を早く済まさないとだ。一介の大学生である私と、大陸の半分近くを支配する魔王、どちらの時間が高価なのかは明白すぎる。

 あの緑髪の男も、魔王がなかなか戻らないと心配するだろう。

 店の開店を待つ必要はなくなった分で、相殺されるかな?


 私は大通りに出ると、まず家電量販店に入った。

 まっすぐキッチン家電のコーナーに向かい、店員や他のお客に見られないようドキドキしながら、金の延べ棒を計量器に置いた。

 

 549グラム。


 それからトイレに入り、カバンに入れてあるペンケースから定規を取り出して、延べ棒のサイズを測った。

 さらにスマホで、金の比重を調べ、どうやらこの延べ棒も同じ比重っぽい、ということを突き止めた。


 さあ、ここからが本番である。


 まず『金 買い取り』でググる。

 すると思ったよりずっと多くの、買取店が見つかった。

 最寄りの駅前にもある。


 最悪、詐欺扱いされないように、『成金かつ工作趣味の祖父が亡くなり、実家の倉庫で眠っていた作りかけのオブジェを相続する予定なのでそのパーツをひとつ取り出してみたんですけど』みたいな作り話を脳内ででっちあげ、目当ての店のカウンターにブツを置き、身分証を提示した。


 ほんとうに幸いなことに、きちんと買い取ってくれた。


 約、255万円。


 ……嘘でしょ。


 百万円の札束、生まれて始めて見たよ。


 すごいビクビクしながらお金をカバンにしまい、なんだか頼りない足を動かしてお店を出る。周囲の視線が気になるが、ここできょろきょろしたら引ったくりとかに目をつけられそうなので必死にこらえた。


 さっきの家電量販店にもう一度入り、今度はゲーム売場へ。

 携帯ゲーム機、予備バッテリー、乾電池と対応する充電器を買う。自分のバイト先にもあるけれど、このハードは持っていると知られているので怪しまれそうだから回避した。

 休憩スペースのベンチでゲーム機を取り出し、初期設定をし、スマホからソフトを買い、店内Wi-Fiで容量一杯までゲーム機本体にソフトをダウンロードした。


 その後は駅前の大型書店に向かい、国語辞書や現代用語辞典などを買った。


 重たい紙袋を手に、魔王の待つ廃ビルに戻る。


 質量を少しでも小さくしようと、外箱や緩衝材は除いてから、魔王に渡した。

 それでも、分厚い辞書などもあるので一抱えにはなる。


 魔王は興味深そうにゲーム機や辞書を眺めてから、こちらへ向き直り、

「ありがとう」

 またその言葉を口にした。


 それから魔王が宙を睨むと、パリパリという音が鳴り、その空間に穴が空いた。

 バスケットボールぐらいの、黒い穴だ。

 魔王はそこへ荷物を次々に入れていき、最後にすっと目を閉じた。


 魔王自身の身体まで移動させると、ただでさえ莫大な費用がさらにとんでもない額になる。だから彼は自分の魂だけをこちらへ持ってきたのだと言っていた。

 私を連れて行くときも、私の魂だけ引っ張り出したそうだ。

 ……その間、私はここで仮死状態だったわけね。


 魔王の身体から、うっすらとぼやけた何かが、穴を通り抜けたように見え――


 どぷんっ、と、魔王の姿が大きなスライムになった。


「うおおぉぉっ?」


 乙女にあるまじき悲鳴が漏れる。

 びっくりした。

 いきなり異世界に連れて行かれてからここまでで、一番びっくりした。

 そうだよ、私は本来ビビリなのだ。

 向こうの世界であれだけ泰然自若だった私は、やっぱりあの謎ボディに引っ張られていたんだろう。


 スライムは青く、半透明で、人をダメにするクッションぐらいの大きさである。

 なるほど、魔王はこれに魂だけ乗り移り、あの身体を構築していたわけか。

 でもこのスライムはどうやって持ち込んだんだろう?

 まさか地球産?


 にしても、どうしよう、放置していいのかなこれ。

 家には連れていけないし、そうするしかないか。


 金の延べ棒の包みは、持ち帰れる気がしないので、スライムの近くに置いておく。

 吸収したりしないよね?


「えっと、じゃあ、お疲れ様でした」


 その場から動かずぷるぷる震えているスライムに別れを告げ、私は建物をあとにした。

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