第1話 出会い
俺達は付き合っている。今日はデートだ。俺は、彼女とゆっくりと歩きながらイルミネーションを見ていた。
「私達が付き合ってもう7年かぁ」
「正確には1分後な」
「もう!細かいんだから!でも、あの時だけは大胆だったよね!」
そうだ、あの時だけは大胆だった。
〜7年と少し前〜
「K中学校の綾崎 陽です。1年間よろしくお願いします」
出席番号1番の綾崎さんが自己紹介をしているのを僕は興味ないフリをして、しっかり聞いていた。綾崎さんの自己紹介が終わり、クラスメイトが拍手をし終わったら、先生が、
「次は、出席番号2番の嵐 仁くんです」
俺の番のようだ。
「A中学校の嵐 仁です。あらし じん なので、アラジンと呼ばれてました。1年間よろしくお願いします」
これで高校デビューというやつが出来たと思った。しかし、クラスメイトは、少し間を置いてから拍手をした。そうだ、僕は高校デビューに失敗した。失敗したが、プラスに考えれば、また中学校の時の様に静かに過ごせるから良いか、と思っていた。しかし、思っていられるのは入学式からたったの1日だけだった。
次の日、登校していたら、前を歩いてる男子2人組の先輩が噂をしていた。
「新入生の、杏 って子が可愛いらしいぜ」
「いやいや、最上 って子も可愛いぞ!」
噂は本当か気になったが、俺には関係ない事だと自分に言い聞かせ、早歩きで先輩を追い越し学校へ急いだ。
席に着いた途端、前からとても大きな声で話しかけられた。綾崎だ。
「昨日、彼女とデートしてたアラジン君!」
してない、とだけ言ってその場をやり過ごそうと思ったが、少しからかわれてるような感じがしたので、彼女なんて居ないが、つい言ってしまった。
「羨ましかったのか?」
そう言いながら綾崎の顔を見た時、胸がドキッとした。よく見たら綾崎はモデル顔負けのスタイルと美貌の持ち主だったのだ。なぜかわからないが、僕はすぐに言い直した。
「あれは妹と本を買いに行っただけで、あの、その…」
間髪入れず綾崎が、
「デートな訳ないよね!だって、ウチより可愛い子がアラジンなんかの事好きになるはずないもん!」
図星過ぎて何も言い返せなかった。その代わり、こんな言葉が咄嗟に出た。
「ありがとう」
綾崎は笑いながら、
「褒めてないのに感謝されちゃった…なんとなくこちらこそありがとう!」
そう言い残して去っていった綾崎の後ろ姿は、まだ何か言い足りなそうだった。
やっと静かに読書出来ると思い、本を取り出した瞬間、後ろから、
「あなたがアラジン君?同じ体育委員の春奈です!よろしくね!」
「ああ、よろしく」
俺は、ノールックレスポンスしてやった。って、待てよ、春奈って同じクラスの最上 春奈だよな、あの噂の。その瞬間俺は顔を見るために振り返ろうとしたがそれよりも先に動いたのは最上だった。最上は俺から本を取り上げて言った。
「体育委員の仕事、行くよ!荷物運ぶんだから男子が働かなくてどうすんのよ!」
茶髪でギャルっぽいが、噂通り可愛かった。
荷物を運んでいると、突然最上が話しかけてきた。
「アラジンってさ、綾崎のこと好きなの?」
「嫌いじゃないけど好きでもないかな」
「それってこれから好きになるかもってことでしょ!ねっ!でしょ!」
困っていると遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。これで質問地獄が終わると思った。だが、そこに現れたのは綾崎だった。
「ちょっと、最上さん!ウチのアラジンに気安く近づかないで!」
「何言ってんのよ!アラジンは春奈の奴隷なんだからね!」
「最上、荷物は持ってやってるが俺は奴隷ではないぞ」
とは言ったが、2人は俺の声なんて聞いていなかった。それどころか2人の言い合いはエスカレートしていた。その隙を突いて先に荷物を教室に置きに行こうと思った時、2人は突然言い合いをやめ、声を揃えて俺に向かってこう言った。
「アラジンはどっちを選ぶの?」