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■■譚  作者: 古風
4/7

4日目。

 ビ、ビ、ビ、ビビビ、と、かすれた音が頭から聞こえてきて、目が覚める。


「……ふう」


 目蓋をこじ開けられ、カーテンが笑っているのが目に入る。

 窓に張り付いた影が腕を引っ込めたのを確認して、なお頭の中で音を鳴らし続ける時計を叩いて、叩いて、叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて。


「もう、こんな時間…」


 電波の受信を、もう少し強く設定し直した方がいいなと書き込み、電源を入れっぱなしにしていたテレビの中央に映り続けていた時間を見て、二度寝を諦めて手に絡まった髪を払い、布団から身体を起こす。


「ああぁ…」


 欠伸をしつつ、流しから取り出した薬缶に水を入れ流し水を入れ流し水を入れ流し、零れる水に手を濡らす。台所横にある二つ並びのコンロ両方の火をつけて、強火にして置く。

 もう一方のコンロに置いていたフライパンから、十六つ足を動かし誘う黒い虫を掴んで床に放り投げる。調子が悪い冷蔵庫の、冷たい扉を開く。


「……ああ」


 手を伸ばして卵を掴み、フライパンにぶちまける。塩コショウを取り出して振りかけるのも忘れない。

 換気扇が、高低音を発して回転するのを横目に、箪笥を引いて落ちてきた服を脇にどけ、取り出した服を取り出して着替える。


「ふああぁ」


 なおも漏れ出る欠伸を飛び込んでいた虫ごと噛み殺し、コンロの火を消す。焼けた臭いが室内に充満して天井うごめきひしめいていた影が散っていく。生暖かい冷蔵庫を開けて、冷やしていた皿とパンを取り出して、卵を乗せてテーブルに置く。薬缶の火を止める。

 カップを取り出して、中にインスタントコーヒーを入れて、底に沈んだ細い脚をなんとなく見下ろしつつ、薬缶から溢れた湯を入れる。脚の動きが止まる。


 洗い物が増えて困るな、と思いつつ、適当な上に適当な、いつもの朝食を咀嚼する。


 テレビに目を向けて、本日は逆さに羽が散る日なので空を注視するのは危険だと叫ぶ天気予報と、超電音波は人体を侵食するために効果的な方法は脳を揺することであり現在それ以上の方法は存在しえないのであると主張するニュースを見るともなしに見やる。

 ゆっくりしたいところだが、どこからか叫び声が聞こえる。時間がない、時間がないのだ。皿をそのままにテーブルから立ち上がる。


 電燈が割れてしまい、白く曇った鏡の前で歯を磨き、流れ滴る水で顔を洗えば、目が覚めて頭が騒ぎ出す。

 開いたカーテンが笑い続けており、クレセント錠が下りているのを確認して、靴を履き、部屋を見回す。異常なし。


 荷物を持ち、重く錆びついた扉を押しのけ、外に出る。錆付いた音を周囲に撒き散らし、扉が閉まる。

 ぼろぼろと爛れる鍵穴に鍵を差込み、左へ右へ回して、鍵をかける。


「さてと。今日も頑張るか」


 揺れる階段に細心の注意を払い、下りていく。

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