表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/161

美化

 寝転がりの視界の中。窓から入る光によって、僕は時間を理解できた。

 室内には、酒の匂いやらなんやらが充満している。……そう、【これ】の元凶である野郎だ。

「おっっぷっ。もう飲めんぞー、おいらは」

「いてっ。あたま、いてっ」

 頭の方から聞こえてくる忌々しい声は、ケビン・ジョージのコンビ。この二人を相手に、僕はダウンしたわけだ。

(誰が勝者か、それすら曖昧。困ったなっ)

 考える、そんなに困らないか。

「……おい、2人共起きてるか?」

「……」

「……」

 言ってみたが返事なし。酔いつぶれか、単なるノックアウトか。

「今更っていうか、またかって感じだが、改めて礼を言うぜ」

 上体だけ起こし、気にせず話を続行。どうせ勢いから出た気持ちだ、構いやしない。

「ジョージとは子供の頃から、ケビンは学院一年から……なんだかんだで世話になった」

 ちょっと、しんみりとし過ぎかな。なんて、思ったりもしたが。

「稽古の相手とか。ぶっ倒れたときに迷惑かけちまったこともあったな」

 回想は緩やかに。白黒絵の如く、頭を流れていく。

(ジョージは当然のように力を貸してくれた。文句を言いながらも助けてくれたケビン)

 ……どちらも本当に物好きというか。落ちこぼれ野郎に期待するとは。

「感謝してるよ。信じてくれて、ありがとうってな」

 素直な感想を口にした。

「……以前も言った、礼は要らないんだ。友人同士助け合うのは必然だ」

 期待してなかった返しが、寝ていた筈の友の口から飛んできた。

「俺が手を貸したのは、単に自分が諦めた夢に……何らかの形で関わりたかっただけだ」

 それは知っている。お前はそうやって、ずっと僕の夢を支えてきてくれた。


「まだ諦めないのかよ!根性あんなー!」


 僕が鍛錬してる傍でその言葉を言ったのは、昔のこと。

 才能がない筈の僕が、ひたむきに頑張ってるのが気になったようである。

「……夢を抱いて、あっさり挫折してさ。何か恥ずかしくなって、ロインに出会って。俺は、本当の熱意ってやつを見た気がしたんだ」

「人を熱血野郎みたいに言うのは止せよ……」

「おまえ、割とそっち系だろ」

「ふぁっ!?」

 暴言だーッ!!ふざけんなっ。

「ぶはっ!おいらも思うわっ。灼熱男はタイプ熱血っ」

「なんにっ!?」

 いつの間にやら復活を果たした空気男、ケビンが僕に追撃を放つっ!

「だってよー!毎日毎日飽きもせず、汗水流して夢に向かってなんてよおっ。おいらには出来ないぜっ!」

 軽い口調で言う友の言葉からは、しっかりとした好意の念が込められていた。

「ケビン?」

「本当によー!おいらみたいな、劇的な何かがあるわけでもなく、ただぼんやりと軽く生きて、老後は飛んでる虫の数とか数えながら過ごすような奴には、共感できない生き方だよっ」

 己の生き方を自虐するように、さりとて否定ではなく肯定する感じでケビンは心情を語った。

「……あーっ、柄にもなくぺらぺら喋りすぎたな。忘れてくれ!今のなし!」

「……」

 

【おいらは王都生まれ!ガキの時からスカイ・ラウンドはかっこいーって思うけど、最初から目指しちゃいなかったよ。分相応ってあるだろ】


「……そっか、お前の理由ってそれなんだな」

 今まで疑問ではあったが、納得がいったような気がする。

 軽薄そうに見えて、トレーニングの助力は真面目にやる友の行動に。

「まじで、サンキューな」

「……もっとだっ、もっと言えっ!親しき仲にも礼は要ってな!おいらを崇め!銅像を作るのだっ」

「逆に言いたくなくなるなっ」

 ケビンらしいぜ、この野郎がっ!


「ふーっ、ただいま」


 家に入ってきたのは、朝のランニングを済ませた野郎共。

 熱血×2に堅物だ。

「良い汗をかきました!お二人とも、素晴らしい足腰をお持ちで!」

 むさ苦しい熱気を放ちながら、上着を脱いでシャツ姿になる三人。うげえっ!目が腐る!無駄に引き締まった筋肉トリプルとかっ。精神攻撃かっ。

「何飲むよ?」

「茶を頼む」

 ジン太が、部屋のボックス・三つのドアが縦に並んだ物体、それの真ん中を開いて飲み物を取り出している。水分補給か、きもい程汗を流してるからな。

(美女の滴る汗……なら、ともかく!)

 例えば、同じ学院生のルナさんとか!健康的な美が溢れんばかりで素敵だ!しかもお嬢様!

【ちょっと、目線が嫌】

 思わず凝視してしまい、誠心誠意あやまったことがある。

 美を汚すとは、紳士ロイン不覚に相違ない!

「……分かってくれたら良いの。悲しいこと言わないでっ」

「うう……」

 床に、並んで寝ているメリッサと先生。……ありだな。

 布団は掛けたが、ベッドに移した方が良いだろうか。あまりに気持ちよさそうに寝ているもんだから、判断に困る。

「――解き放たれた鳥は」

「――空の向こうへと」

「――自由の地へと」

 汚物三人衆は放置。直視できねぇよっ。


 ●■▲


「――」

 周囲に広がる青い空に浮かぶ太陽が、その通路を照らしている。

 しかしそれは、熱を持たぬ飾り物。何者も暖めることはない。

「……王」

 静かに足音を響かせて行く者は、四角い面が並ぶ長く幅広い廊下を、その先を目指す。

 坊主頭の長身男性。

 身に着けるは、戦士団の証・青き衣服の一。右胸に付けたエンブレムは、鳥を模した副団長を示すもの。

 右手に握った得物は、金色の柄頭を持つ大剣。ずっしりとした重さを伝えてくる。

「!」

 空の彼方から小さい点が現れた。

 それは時間が経過する毎に、大きく確かになっていき。


 二体の大きな【獣】が、獰猛に翼を鳴らしながら歩行者に襲い掛かった。


「【防衛獣】」

 称された獣は鋭いくちばしを向け、副団長目掛けて振り下ろす。

 一つ目の鳥のような化け物は、巨体に反した動きをし。

「……」

 しかし、獲物は冷静に攻撃を避け。足取りに動揺はなく、体に速さを淀みなく発揮させる。

 くちばしは床に当たり、弾かれた。

「――刃・駆動」

 両手剣を構えながら、言葉の発声。

 男の両目が鋭く光り、斬り伏せるべき敵を見据えた。

「標的・補足」

 睨み合う両者。今にも唸りを上げて、振るわれようとしている剣。

 対する防衛獣も、力を溜めて、肉体に無数の棘を発生させる。

「――!」

 両者は同時に動き。


「拒絶」

 衝突など皆無で、化け物二体の首は切り落とされた。振り抜き前の剣によって。

「お戯れを」 

 発生した緑炎を気にも留めず、更に先へと歩いていく副団長。


「――王よ、第一団・副団長フェイル、此処に」

 キャッスルの奥。

 夕焼け模様によって赤に染まる、王の間にて膝を着くフェイル。

 彼の前には、低い段差の石段。そして――。


「貴様も変人だな。わざわざ会いに来るとは」


 眼帯を右目に装着した、二メートルはある巨体の男は。戦士団の制服に良く似た、橙色の衣服を着用。

 赤と黄が混ざり合った髪を小指で掻きながら、手に黒い外装のファイルを持ち、樹木で作られた玉座に腰を下ろしていた。

「いえ、わたしにとっては当然です。敬愛する王ならばいくらでも。……迷惑でしょうか」

「防衛獣のことなら、久々に貴様の技をとな……ふむ、貴様の中で美化されているようだな。おれという人間が」

 王・クリュウは、何らかの資料に目を通しているようだ。

「そんなことはっ」

「あるさ。本音を言ってしまえば、おれのような底が知れた人間には……」

 言葉の途中で、クリュウは喉を詰まらせる。

「……いかんな。つい弱音を」

 自分の言動を戒めるように首を振り、クリュウは調子を戻す。

「とにかく、美化しすぎるのは好まんな」

「し、しかし」

「やめろとは言っていない。おれだって経験はある……単に好き嫌いの話だ」

 王が漏らした少しの笑みは、己に向かうもののように思える。

「経験が?」

「おお。昔の話だがな、今にして思えば愚かしいな」

 クリュウが見ている遠い過去は、どこか楽しげにも感じる。と、振り返る顔を見たフェイル。

「あれは、青春というのかな?ジン太の言葉を借りるなら」

「ジン太、ですか」

「そう、あの男。何とも燃え滾った雰囲気を放つ者よ……どうした、フェイル」

 フェイルの表情が訝しげになったのを、王は見逃さない。

「いえっ、ただちょっと」

「……少し肩入れしていないか?と、疑問に思ったか」

「……はい」

 王の指摘に素直に頷くフェイル。

 クリュウは、一瞬だけ夕陽方向にある岩場に目を向けてから。

「かもしれん、な。そんなつもりはなかったが……。どうにもジン太を見ていると、懐かしくなってな」

「……」

 口調は悲しげで、もう戻らない日々を語っていた。そのせいで、フェイルは躊躇い踏み込めない。

「おれは……あの時」

 静寂の中で呟きはよく聞こえ。

 普段とは違う彼の姿を表す。

「――王よ。何か大きな悩みが」

「はは、深刻なものじゃないんだ。さっきも言っただろうフェイル」

「?」

 クリュウは苦笑し、少しだけ素の自分を出した。


「おれは大したもんじゃない。……今日の夕飯を何にしようとか、ちょっと気分が優れないとか、小さなことに翻弄される人間だよ」


■難攻不落にして、未知の領域■

■アスカルドの王城に座する王は、静かに笑った■

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ