表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/161

――の日

「ロイン選手ッ……れないか!……どうなる……ッ!?……ゴンザレス……は……!このまま……!」 

 

 実況者の大きな声や、観客の歓声が随分とぼんやりと聞こえる。酷い耳鳴りがして、気分は最高に悪い。

 だんだんとおちていく、心の流れ。

 肉体は痛みを訴えていて、喧しい。

 おい、またここか。また、戻ってきてしまうのか。

 あんだけ必死こいて頑張って、つまずいてしまうんかい。

(限界、か)

 奴の言葉はその通りなんだろう。僕の実力・落ちこぼれの力なんて所詮こんなもんだ。駄目な奴は、駄目。どうしようもない。

(なら、もう、やめだ)

 ここで終わってしまう、それでも良いじゃねぇか。これ以上先には、到底行けないんだから。

 ここまでが、僕の走れる距離なら。

 足を止めて、ゆっくり休もう。


 ――――あほか。さっさと立ち上がれ。今さらウダウダ言ってんじゃねェよ。


「……ぐッアあッッ!」

 悲鳴を無視して体を起こし、身化ストロングを再度発動。

 肉が骨が全てが、動かすなと抗議の声を上げる。


 ――うるせぇ、少し黙ってろや。


 もう無理だ。どうしようもないんだよ。やめておけば。最善。

 口から流れる赤が、右手にある損傷した剣が……前方に広がる強大な霧が、その事実を確かなものにしていく。


 ――だから、どうしたってんだ。


 限界なのは分かってる。僕の力じゃ行き止まりだ。

(僕の力、だけなら)

 落ちこぼれのロインは、既に敗北してる。立ち上がれず、みじめにさようならだ。

(……こんなもんで、あって良い筈がない)

 だけどよ、まだそれが残ってるんだ。

 雨の日も、メイやジョージは修行に付き合ってくれた。風の日も、メリッサやアッシュは練習の相手をしてくれた。

(積み重ねて。十年以上)

 どんな嵐の日だって、メイがメリッサがジョージがケビンがアッシュが先生が熱血野郎がみんなが、こんな僕を支えてきてくれたんだ。

 

 そうやって得た力は――――こんなもんじゃねェッ!!!


「オァッアアアッ!!」

 力の限り足を踏み出した。リングを砕く感触が伝わる。

 全ての力を絞り出す勢いで、敵に向かっていく。

「な、にッ!?」

 驚愕の声が耳に入る。倒せたとでも、思ったのかよ。

 わりィがくそ野郎、この程度の逆境なら何度でもこえてきたぜッ!

(再・燃焼。次も全力、その次も全力、――天の頂にとどくまで、もやし続けるッ!)

 よわった両手で、柄をしっかり握りしめ。倒すべき男を見据えて。

 目前の敵に、逆襲の一閃を走らせた。


「おッッ!?ぐ、はッ!?」 


 盾に転じた斧をはじき飛ばす、僕の炎刃は。

(弱くはなっている、のにな)

 どうしたよ?ゴンザレス。そんなに弱々しいブレードで、僕に勝てるとでも思ったか。


「立ったロイン選手っ!!ゴンザレス選手に反撃の一撃だーッ!纏う炎は、まだまだ力強くッ!!」


(さっきの波動砲バーストの反動か?動きもなにもかも劣っている。まだ、強いがッ)

 あの驚異的な動きが、するどい動作が、見る影もなくなっていた。

 奴をよく見れば息を乱し、顔には苦痛の汗が流れて。

「ハァ……ッ!クソがっ!?おめぇッ!!しぶとすぎるぜ……ッ!?」

「……僕は、一人じゃねぇんだ」

 お前とは違う。戦う理由、頑張る理由があってくれる。

「?……意味の分からねェことをよォ……言ってるんじゃねェッ!!」

 怒りを乗せるように、荒々しく斧が振るわれる。

(わからないだって?)

 前より遅いが、僕もおそい。体も器も、終わりがちかいんだ。

(すくなくとも、あの日のお前にもあったもんだぞ)

 それをなくして、お前はやけになった。

 それのおかげで、僕はここまでこれた。

(振るわれる一撃は、そのぶん重いッ)

 奴の隙をみつけて、思いきり振りつづける。

 それに迅速に的確に対応する斧の動きは、やはり凄い。斬撃が届いちゃくれない。


(――なら、もっと速くッ!強くッ!)

 

 単純だが、それが一番だと思った。

 燃えやがれよ不滅の炎。鍛えてきたその力を、解放する時だッ!!

「ぬあアアアァッッ!!」

 刃に宿るは、決意の灯。

 燃やせ燃やせ、薪をくべろ。


【スカイ・ラウンド優勝!】


 夢を過去を絆を信頼を、飲み込み高みへ燃え上がれッ!

 いつかの涙も、汗も、苦痛も、この時のためだろうがッ!!


【また、無茶して!なんでそんなに!】 

 

 夢と過去を乗せた剣を、がむしゃらに振っていくッ!手を止めるなッ!攻め続けろッ!!


【メリッサよッ!助けてくれてありがとう!ロイン!】

【ロインっていうのか!俺はジョージっ。スカイ・ラウンドで優勝って本気かよ!ジョークだろっ】


 絆と信頼を乗せた閃光を、全身全霊で放っていくッ!奴の力を削れッ!焦がれた勝利はッ!すぐそこだッ!


【お前がそうか……。問題を起こすのは程々にな。おれも風紀を守る立場として、見過ごすわけにはいかないんだ】

【ケビンっていうんだけど。スカイ・ラウンド優勝を目指してるんだって?……馬鹿か?】


「――ぐぁッ!?こ、の落ちこぼれがァッ!!」 

 わかってらァッ!!そんなの承知でッ、困難なのは理解してッ、剣を振ってきたッ!!挑んでッ!絶望してきたッ!!


 深い場所におちていって――それでも進んできたのは、そこから這い上がるためだッ!!


「まけ、るかよオォッ!!」


 ●■▲


「ロインッ!!そこだーッ!!やれーッ!!」

「押されてるんじゃねェ!そんなもんじゃねぇだろ!ゴンザレスっ!!」

「ゴンザレス君っ!負けないでーっ!!」

「やれやれーっ。おれは、お前に賭けるぜロイン選手っ!」

 敗北したと確信するダウンからの、ロインの奮戦。それによって、会場の熱気も上がっていった。

 リングを燃やす荒々しい大炎が、燃え移ったかのようにも。

「打ち合う両者の斬撃ッ!!どちらも疲労の色が見えるが、凄まじい執念を感じますッ!!これは一体ーッ!?」

 実況者の言葉通り、二人の戦いは既に衰えていた。両者の放つ波動の大きさは半分以下、動きは更に更にと遅くなっていく。


「おオォォ!!」

「がアァァ!!」


「さっきの勢いはどうしたーッ!!へばっちまったのかーッ!!」

「こりゃあダメだな。見応えがないぜ」

 激しさをなくしていく戦闘に、不満の声が漏れた。

「最後までファイトだッ!!応援するぞーっ!」

「よくやるよなぁ……あの二人」

 気迫を増していくロインとゴンザレスに、称賛の声を届ける者もいる。

「ここまで来たら優勝しちまえっ!!子供の頃から頑張ってきただろっ!!」

「ゴンザレスに負けるなっ!想いなら勝ってるっ!」

 チームメイト達は、ぎりぎりまでリングに近づき応援を行う。

 彼等はロインの頑張りを認め、応援しようと決めた者達。ロインを信じて、ここまで付いてきた友だ。

(――なぜだ。あんな無様な姿を肯定するとは……オレには理解できん)

 一方では、探究者が不愉快そうに舌打ちをする。

「ほー、やるじゃねぇか。あの小僧達。なぁ」

「ええ」

「ああ、一人の戦士として好感を抱くよ」

 だが、彼等の奮戦を好ましく思う者は多く。

「これはこれで、観戦者として滾るッ!!」

「少し落ち着け。また戻るぞ」

 様々な反応が、観客席に渦巻いている。

「……!!」

 無言で食い入る様に、親友の活躍を見る者。

「――ロイン君」

 愛する生徒の行く末を、見守る者。

「なんだかんだ良いものだな……こういうのは」

「ゴンザレスがあんな必死に……!とにかくあたしは、ロインを応援っ!負けるんじゃないわよーっ!!」

 抱く想いも、発する言葉も、人それぞれで。

「クソォッ……!?なん、なんだッ。おめぇ……!?」

 ふらふらになりながら戦う、二人の戦士。

 服は傷だらけで、流れる赤色が付着し。構える武器は、所々が欠けていった。

 格好良いとは言えない、絶対に。ゴンザレスは心底そう思う。

(それなのによォ。なんで気力が……!)

 しかし立ち向かってくる敵は、気力が湧き止まらず。

(……まるで、よ)

 重なる面影。

 それを鍵に、過去の記憶を引き出した。


【――すまない。こんな姿で……】

 彼は気恥ずかしそうに言う。

 その人は凄い格好良かった。強くて、自分を助けてくれて。

 だが、ぼろぼろになっているのはダサいと思った。

【締まらない格好だよな。まったく】

 苦笑いを浮かべて言った彼。

 ゴンザレスも同じ意見。怪物に立ち向かって、何度も吹き飛び転がり、辛くも勝利した。

 気力を尽くし、困難を打破する姿は。


 心底ダサいとしか思えないが、目指していたのは。


「!ロイン選手っ!また立ったっ!不死身なのかーっ!?」

 リング上を転がり、それでもロインは立ち上がった。

 顔は俯いて、背筋は曲がっている。今にも無炎の剣を手放しそうな程、弱弱しい。

「……ロインっ」

 メイは、その姿を見て心が強く痛む。

【見ててくれよっ。メイっ】

 彼がそこまで頑張る理由、ここまで努力した事実。それらを考えて。

「?メイッ!?」

 心は定まり、彼女は走り出す。観客席脇の階段を駆け下り、最前列の鉄柵から身を乗り出し。

 いつだって真っ直ぐな好意を向けてくれた彼に、大声で告げた。


「……ロインッ!!勝ってッ!!優勝してッ!!」

 

 ――救いの声がきこえた。

 悲しみのなかで、いつか――。

(め、イッ!)

 心が、力強さを取り戻す。器は、ぎこちなくも動き出し。

 届きそうで届かない、遠くぼやける地平線を見据えた。


(いま再び、太陽よ昇れ)

 

 剣が輝き、視界に揺らめく薄い炎。

 それを頼りに、両足を動かす。

 両手で、剣を決して手放さないように。


【見てみたいわね】


 何のために勝利するのか。

 落ちこぼれの意地、彼女と結ばれる為、それもあるけどよ。


【――努力の真価を見せてくれ】


 支えてくれた、大切な皆。

 その全ての想いを背負って、僕はここに。

 単純に、大切な誰かの為に、戦う。それを考えるだけで嬉しくなる。

 自分は、ただそれを欲して頑張るのだ。


【あの場所に立って、あんな風に戦って――】


 右からは灼熱の剣、左からは死霧の斧。

 それぞれの想いを爆発させるように、二刃は激しく衝突した。


【そしたら、大切な人は喜んでくれるだろうか?】


 二つの砕けた音が響き。

 巨大な壁は、ゆっくりと後ろに倒れていく。

「……だせぇ、な」

 

 呟き、壁は崩壊した。


「――」

 なにもかもが、遠くにかんじる。

 状況が、よくわからないので。

 僕は上を向き、空を見上げた。

(太陽が)

 近づいてくる。なのに、不思議と心地いい。

 そのまま僕は光につつまれ。

(ああ)

 ようやく、わかった。

(今日は)

 

 求めつづけた――勝利の日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ