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いつかの

 振るった剣は確かな手応えを持ち、敵の牙へと命中する。

 一撃毎に、己の力が炸裂する感覚がした。


「はああッ!!」  

 充分な勢いをつけ、右下からの斬撃一閃。斜めの赤い線を描き奴に迫る。

「――ハッは!」

 視認・方向転換・後退回避で対処され、かすりもしない。

 動きではやっぱり敵わず、あまりに鋭い速度の質が忌々しい。

(だが、当たりさえすればッ!)

 こちらに分がある。ブレードなら僕の方が優勢だ。

(奴は元々、武強ブレードが苦手。二つの属性を有してはいるが、ストロングに比べれば脅威じゃねぇ!)

 波動砲バーストは僕も使用できない、ならば接近戦に持ち込める。

 奴の動きにも少し慣れてきた、もう少しで捉えられる筈!


「とか、思ってやがるかッ!?」


「ッ!?」

 それは甘い考えだった。ゴンザレスの動作は、僕の予想の上を行く。

「そこォッ!!」

 僕の一撃が躱され、攻撃によって生まれた隙間に叩き込まれる粉砕の反撃は。

(左ッ横腹ッ!後ろにッ!!)

 必死で飛び退きながら、左腕でガードの姿勢を作る。

「グっッ!?」

 少し掠った、だけで腕にメキメキと嫌な圧力が襲い掛かった。

 冷や汗が出るが、【盾】のお陰で使い物にはなるっ。

(野郎ッ!なんて動きをッ)

 流れる汗は強い日射しの所為か、焦りと動揺の所為か。

「オイッ!!落ちこぼれェッ!!」

 奴はどこか楽し気に斧を振るい、憎たらし気に言葉を投げかけてくる。

「届くと思ったかッ!?その程度の力でェッ!!このオレに敵うとでもっ!本気でッ!?」

 先ほどの攻防で刷り込まれた脅威が、僕の攻撃を制限する。


【下手に動けば敗北だ】


「おらおらッ!!守ってばっかじゃ勝てねぇぞッ!!腰抜けがァッ!!」

 煽るようなクソ野郎の言葉に、歯を噛み締め耐える。

(機会を待て。軽率に動くな。――奴の動きを観察し、勝機をこの手に)

 敵の性質を見極めて、打開の道を進む。

 あの地獄で背中を死に晒しながら、死にものぐるいでやってきた行為だ。

「やって、やらァッ……!!」

 連続して向かってくる斧の嵐は、力任せに振るわれていく。一瞬でも気を抜けばどうなるかは、未だ感覚が鈍い左腕が教えてくれる。

「ぐッ!?ッ!」

 左から来た斧を、なんとか剣で受け流す。が、反動で体勢が崩れた。

 続けて即座に放たれた頭狙いの一閃を、後方に身を傾け回避する。

「……おっ!?おめぇ……!」

 何を驚いてやがる?ゴンザレス。お前の攻撃を避けるのが、そんなに不思議かよ。

(不思議でもなんでもねェ……!僕はっ)

 てめぇの戦闘を何度もこの目で見てきたんだ。自分なりに分析したり対策を立てたりして、勝利の道を模索してきた。

(イメージトレーニングを行い、ノートに情報をまとめ……【強敵】のお前を倒すためにッ!)

 お前にとって僕はゴミ屑のようなもんかもしれないが、僕はゴンザレスという戦士を強者だと信じて、警戒していたんだぞ。

(だから不思議じゃなくっ!当然の結果ッ!)

 そして結果の先に、光明が見えた。

 リングを破壊し、僕の身を徐々に削っていく、霧の暴風の中に。

(大振りの一撃っ!こちらの攻撃をねじ込める一撃がッ!来るッ!)

 それは直感に近いものだった。積んできた経験と、研ぎ澄まされた感覚が可能にした、逆転の一閃。

「しつけぇェッ!!」

 右斜め上から来る霧の大斬撃――それをやり過ごし。


「――ここだァッ!!」


 決定的な隙に目掛けて、斬撃を返す!

(この速度、敵の体勢、なら――がら空きの左に、強撃が入る――ッ)


「はっ」


 小さな嘲笑が引き金になった様に、斧が急速転換を行う。

 向かう先は、己を狙う強撃。

(こいつ――わざと――誘われたッ!?) 

 あらかじめ定められていた、素早い対処。

 引き寄せられるように、灼熱の剣と霧の斧が交差する。

「ぬアァッ!?」

 衝突した赤と青の煌めきが、激しく押し合う。僕の固定武器が悲鳴を上げている。

(おかしい、だろっ!?これはっ、この出力はッ。僕と同等ッ!?)


 否、僕以上――認めてしまった瞬間、破壊の霧が僕を飲み込む。


「――ごッは!?」

 強撃を、更なる強撃で踏みつぶされる。凄まじい衝撃が襲い掛かった。

 後方に引っ張られる僕の体を、なんとか押し止めようと剣をリングに突き立てる。

「ふんがァッ!!」

 負けるか。負けてたまるかッ!

(雨の日もッ!風の日もッ!嵐の日だってッ!僕は、頑張ってきたんだッ!!)

 お前はどうだ!?ゴンザレス!?僕に匹敵する程の努力を、てめぇはやってきたのかッ!?少なくとも、そんな姿も話も僕は知らないッ。

「アァッ!!」

 どうにか後退を押し止め、勝ち誇った顔でゴンザレスを見た。

「――?」

 十メートル程離れた、奴の動きがおかしい。

 何を、やっていやがる。

(固定武器、斧の頭の尖った部分を、こちらに向けて――)

 そんな位置から何のつもりだ。


「ゴンザレス選手ッ!!謎の構えを見せるーっ!!一体っ!?」


 なんだ、その勝ちを確信した顔は? 

(これはっ)

 背筋が冷えると共に、自然に僕は剣を正面に構えていた。

武強ブレード・全開、防御ッ)


「――飲まれて・染まれ。霧之弾道ミリアルタッ!!」


 【スペルチャージ】。そういう法則ルールが存在する。

 ある特定の言葉を口にすることで、才力を上げたりするものだ。

 それは分かっているが、なんで奴が。

(斧の先端から放たれる霧の弾丸――波動砲バースト

 回転しながら、敗北の一撃は視界を埋める。

 大砲のような弾は赤き盾に突き刺さり、その光を奪い去ろうとする。

 剣を通して伝わる力の質は、僕に絶望を与えた。

「――くッそおォッ!!」

 こんなちんけな攻撃が何だッ!奴に弾き返してやるッ!

(僕は知らねェんだよッ!だったら、負けるわけにはいかないッ)

 剣の腹に撃ち込まれた弾丸を、忌々しく睨みながら。

 器の最大動力で、僕の盾を【最強】にまで引き上げるッ!

(燃えろッ!燃えろッ!霧すら焼き尽くす程にッ!燃えやがれッ!!)

 メキメキと、剣から嫌な音が聞こえる。

 弾丸は、未だその脅威を見せていた。回転は衰えてない。

(折られるっ!?ここで折れたらっ!!――ふざ、けんなァッ!!)

 負けるか、負けるかっ、負けてたまるかッ!

 もっと踏ん張れ!まだまだ行けるっ!僕の力は、こんなもんじゃないっ!!


【いつだって支えは頼もしく、僕の心を強くしてくれた】


 靴が擦れる音がする、じりじりと体が押されていく。

 剣がひび割れる音がする、びきびきと心が崩壊していく。


【僕は、どんな時でも――】


「……だからっ、どうしたあああアァッ!!!」

 気合の一声轟き。僕は限界の壁を越える。

 剣から流れる朧な炎が弾け、今までで最大の成果を果たす。

「――吹き飛べェッ!!」

 その一振りは豪快に振るわれて、霧の弾丸をかき消した――。


「――これが限界だ。吹き飛びな」


「ッッ!?」

 絶望に次ぐ弾丸。不可避の突撃。

 巨大な青を纏った斧が唸りを上げ、周りの空間を歪ませ、僕の体に放たれる。

(ま、だ) 

 僕は、それを防ごうとして。


 鼓膜を叩く轟音によって、僕の視界が急変化を起こす。


(どこ、だよ。ここ)

 見える青空、輝く太陽。

 気分は鳥になった気分。何度も味わった屈辱の空だ。

(ああ、なん、で)

 こんな事になるんだ。僕は、あの地獄を踏破したのに。それなのに。

(剣が、ひび、入って) 

 視界に映った、僕の武器。感じてしまう、敗北の確信。


 敗北の地に背中が着き、口の中を赤が満たした。

(懐か、しい。な) 

 いつかの始まりの日に味わったような。そんな体験。

 本当に、人生って奴はくそったれだ。あの日から、それだけは変わらない。

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