太陽と虹
■ロインがやられた■
■その時、ジン太は■
「――ウォオッ!!」
■足を止めずに、立ち向かう■
(まだだッ!! あいつはこの程度でやられる奴じゃないッ!!)
そう出来たのは友を信頼しているからだ。
今まで、辛くても立ち上がり、努力を尽くしてきた姿を見て来た。
なので根拠がないわけではない。
だから信じて戦える。
「うオオオッ!!」
咆哮しながらの突撃。
右拳に渦巻く力を研ぎ澄ませ・目前のモンスターへと突き出した。
「ぎゃHA!!」
大きな鎖が敵の腕から伸び、拳とぶつかった。
打ち合う両者の攻撃。
しかし、ジン太に響くのは大きな衝撃のみではない。
「ぐうゥッ!?」
今までとは比較にならない精神負荷。
全身を刃物で串刺しにされるかのような苦痛が走り、とても立ってはいられない。
常人ならそれだけで精神崩壊を起こす。
「――まだまだッ!!」
■それでもジン太は踏み止まり■
■目の前の鎖を蹴り飛ばした■
「ぎゃはッ!?」
弾き飛ばされた鎖に引っ張られ、体勢を崩す怪物の巨体。
その隙を逃さず、懐に入り込み、両拳のラッシュをお見舞いする。
「オオオッ!!」
次々に打ち込まれる重々しい拳。
巻かれた鎖に罅が入っていき、わずかに後退する怪物の巨体。
ジン太が押しているように見えるが。
「ぐ、ごァッ!?」
連続して襲い来る精神負荷に意識が飛びそうになり、動きが止まる。
「ぐあッ!!」
その隙に飛んできた鎖に吹きとばされ、彼は床を転がった。
顔面に受けた衝撃は大きく。
「!?」
鼻血を垂らしながら見た視界には、自分に襲い掛かる多数の鎖。
どす黒い色に変色した鎖は、殺傷力を極限まで増していた。
(まずいッ――)
■死を覚悟するに十分な攻撃■
■その時、無意識にズボンのポケットを探った■
(なにをやってるんだ、俺)
自分でも不可解な行動。
だが、ポケットの中にあった物を迷わず取り出す。
■取り出されたのは、謎の四角い箱■
■喜劇の店で購入した商品だ■
(なんでこんなものを――)
■迅速にそれを開けた——■
「ぎゃは?」
■開けた瞬間に、【盾】は出現していた■
■いや、正確に言うと■
「はり、せん?」
ジン太の右手に握られているのは、半透明のハリセン。
彼はそれを振るい、すごい勢いの鎖を全て打ち砕いたのだ。
砕かれた鎖は床に散らばり、跡形もなく消え去った。
「ぎゃはっは!!」
怪物は構わず突進してくる。
まだ呆然としているジン太だが、さらなる異常が目の前に出現した。
天井から吊りさがっている、一本の白い紐だ。
「これは……!」
■疑問に思いながらも■
■それを思い切り引いた■
「ぎゃはああ!?」
■怪物の頭に振り下ろされる、大きな【槌】■
■いやいや■
「タラ、イ」
なにもない空中から出現した、三メートル以上はあるタライが、怪物の頭に直撃したのだ。
かなりの轟音が炸裂したあと、怪物はふらふらと酔ったような動きになる。
タライは消えた。紐も消えた。
「……」
次々に起きる異常事態に、混乱しまくりのジン太。
しかし、ある予想が頭を過った。
「これが、【喜劇道具】の力なのか……?」
■異常事態は終わり■
■再び、まともな戦いへと戻った■
●■▲
「おらっしゃあアアあッッ!!」
腹の底から力を出し、床を力の限り蹴った。
全快のストロングによる、超速跳躍。
狙いは銀色に覆われた、大きな背中。一見、バレバレの奇襲に思えるが。
(廃者に、音で相手を捉える能力は皆無!ジン太が注意を引いてる、今ならイケるっ!)
才獣になったと思われる、不安はある。
悩んでる時間はない。早く、ジン太の援護にッ!
「こっちだッ!!デカ鎖ッ!!」
再び灯る、決意の炎。
脳天から振り下ろす、炎刃一閃ッ!
「ギャッ!?」
「……ッ!!」
鳴り響く金属音、鼓膜揺らし。
【内臓 かき回す ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ】
「ぐひゅ」
飛びそうな意識の中で着地し、結果を注視する。
鎖に打ちつけた剣は弾かれた。欠けた鎖が飛び散り、床に散乱する。こちらの全力攻撃は奴の肌にすら届かない。
固ッすぎるッ……!!
(奴の鎖を少し砕き、のけぞらせただけ。それだけ)
「――疾ッ勢ッ!!」
それだけで充分なんだよっ!僕の相棒にはなァッ!!
「ギャはッはッァ!?」
崩した体勢を更に崩す、左足への横殴り。奴は完全にバランスを崩し、次撃の隙が生まれる!
「もうっ!一撃ッ!だッ!!」
追撃は即座にっ!間断なく、攻め続けるッ!狙いは、続けて左足ッ!!
(――脳が、ざくざくに される)
それすなわち、心壊す破砕の鎚を受け続けることであって。がんがんがんがん、打たれ、変形していく、僕のこころがぁああああァッ!?
「ああ……アァッ!!」
まだ、まだァッ!!
かまわず、振り抜くッ!!
「ぎゃはっっ!!」
狙い通りにヒット!奴の膝を、打ち砕くッ!
「ッ!?なんだァッ」
つもりで、やった筈の攻撃は効果無し。奴が纏う、紫に変色した鎖の壁に阻まれた。
これは、廃者が使う技の一つかッ!?
(【敗者の鎖】、ここまでの強度はないはず、強化されてる?もう一つの技も?―イてぇ―才獣になったことで?―あたま、われる―勘弁してくれっ、精神負荷の所為で、攻撃するだけで―あぎゃッ)
意識が、みだ れて、なにがなにやらッ!?やばいっ、この状況でこんな隙だらけなッ!?
戻れッ!早くッ!現実をしっかりと見ろッ!?
「おおァォッ!」
こんな事で、死ぬわけにはいかない!
(――戻ったッ!)
苦痛の嵐を振り切って、意識が戻る。
――眼前に、鉄の塊が迫っていた。
「ア」
――防御不可―死。
「――ロインッ!!」
届いた声は、何回目の助けか。ずっと、お前に支えられてきたよな。
「ア―んちくしょうがァァッッ!!」
踏ん張れッ!ポンコツ野郎ッ!!
こんな所まで来て、滑稽な僕を見捨てないでくれる、大切な親友が隣に立っているんだからッ!!
「アアアァッッ!!」
「ウオオオオォッ!!」
莫大な炎を纏いし剣と鉄塊の両腕による盾と、巨人の剣が激突する。空気が震え、轟音が鼓膜を叩いて、小さな体が弾き飛ばされそうになる。
「あぎゅッ!!」
せまりくる、精神負荷・負荷・ふかッ!?何度も体験した 遠く・とおくの・目的地を目指す苦行ッ!?
脳がッ にぎりつぶされてッ なにがなんだか@@:。:¥:。;」。」」」:」」」:。
【しぬ。だれがしぬ?――ジン太が死ぬ!!】
::,;・::っpk;」:::。:」:。」っっl」:。::。:。:「「@@l」p・¥¥,。!!ッ――――まだッ!!まだアアアアァッ!!!
「ふんぬううううウァッ!!」
両足・両腕にもっと力をッ!もっと、器の動力をッ!もっともっと更に更にッ!!弾き返せえぇッッ!!
「おおおおおおおッッ!!」「オオオオオオッッ!!」
「「オオオオオオオオオオおおおおおおおッッッ!!!」」
「ギャハははがァッ!!?」
重なった力は巨人の体躯をものともせず、大きく敵を吹き飛ばした。そのまま壁に衝突し、奴は叫び声を上げる。
こうなった 理由―は、直ぐに分かった。
「なん、だ、それっ?」
ぶれぶれの視界に映る のは、ジン太の 変化した姿。
右肩から、虹色の光が飛び散っ ている。左目 両腕の色々な箇所からも、同じように光が……ッ!?
「――あいつの相手を頼むッ!!」
ジン太は 言った。僕は・その・意味を理解する。
「まかッ、せろッ!!」
迷わず、走れッ!廃者は ぶつかって 壁が崩れる程の攻撃を受けたッ!今なら、動きが鈍っているはずだッ!
このチャンスを;::』:@@P『『@@っp@ああああアぁ兎アッじゃっjじゃらゥゥウウゥッ!!?
「ごのオォッ!!」
――激痛が走り、意識が再生する。
痛みは、左手から。人差し指を、剣の柄で思い切り砕いた。
「ッッゥ!!」
走れッ!止まる余裕はないッ!とにかく走れッ!
耐えて耐えて食い縛り、歯が砕けてもッ!
例え、何回折れそうになってもッ!
進み続けるシか方法はないから。恐怖しなガら、現実を直視しながラ、両腕を力の限り振っテッ!
「走るんダよオォォッ!!」
「ギャハハッ!ハッ!!」
ふらついてる廃者が、近づく僕に大きな刃を落とす。
「ぎゃ!?」
明らかに遅いその斬撃を、右斜め前方に回避した。
其処は、僕の斬撃の範囲内。
「まずはッ!!一撃ッ!!」
炎が、燃え。
がら空きの左足に向けて、勢いよく横切りをぶつケた。
鎧を砕く感触が、より確カに伝わってくる。
「ぎゃぎゃぐっ!!」
「……ッ!!よっしッ」
攻撃は命中、やつは、 声を・あげる。やはり、鎖越しでもダメージは通るっ!
ならッ!!連―続だッ!!
「もう、一丁ッ!!」
炎が、勢いよく燃え。床を削りながら、標的へと向かう。
勢いづいた下からの■斬撃、を、奴は上からの斬撃で迎撃 する。
ぶつかり合う斬撃ハ、僕の精神に切り傷を付ける。
「ぎゃっはッ!!」
僕と奴が行う綱渡りの攻防。消耗した状態ノ奴になら、なんとか食い下がれる事実。ここまでやって■ようやくカよッ!?
(心を苛ム、苦痛は変わらず。――なら、僕はこうする)
壊れていく心を―体を壊ス痛みで―保タせる。
普通でイテは、とうてい届カないッ。
何も捨てズにいてはッ、このクソみたいナ現実ハ砕けないッ!
「オグァッ!?」
巨人の、強力な一撃がッ!?痺れガ、右手にッ。
後ろに、とバされたッ!奴との距離が開いてしまウッ!
左手ハ、既にガラクタだ。早く、攻めナいとッ!
「ッ!?」
廃者の動きが、変化シた。
鎖の色モ、黒く変ワり。
(奴が持つ、モう一つの技ッ!他の【練兵獣】の技を、使用可になる――【勝者の鎖】ッ!!)
まさかッ、コのタイミングでッ!?
「――ギゃははははははっはッッ!!」
ばか笑いと共に、技ハ放たれた。
屈み、拳を床に打ち付ける――その技ハッ!
襲イ掛かるッ!悪夢の一撃ッ!!
「――だからっ、対処できんダよオォッ!!」
衝撃が届かナい場所に、大きく飛んだ。
(【勝者の鎖】は、技の弱点まデ再現してしまう)
一度、失敗シた。努力が、無駄ニなった。
(あらゆる行動ガ、数秒間出来なクなる。敗者の鎖モ、使えない!)
だが、今回は成功した。報わレた。
(こうイう時も、ある。なら、こノチャンスに全力を)
器の動力が、異常な上昇ヲ行う。右腕に力を込め、縦に真っ直ぐ振り下ろした。
燃え上ガる炎は、巨人の額に吸イ寄せられ。
「コれでッ!!トドメだアッッ!!」
炸裂する、太陽の如き斬撃。
「ギャガハァッ!?」
器を限界ま■使用した、僕■全力全快ノ一撃は、顔の鎖を完全ニ破壊した。
ダケド、ソレが限界。
反動デ、僕の器が体が心が全てが堕ちていく。
「あと、一歩……ッ」
奴から遠ノいていく、僕の体。
届カなかった悔しさに、歯ぎしりシテ。
「頼ンだぜ。相棒」
「――――任せろッッ!!!」
空中デ交わされる言葉、通り過ぎル虹色の軌跡。
人型砲弾は凄まジい勢いで突き進み、廃者の剥き出シになった額へト撃ち込まれた。
「ギャ――ハ――」
音が、聞こえて。
――轟くそれは、修練苦痛の終わりを告げる。