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強き意思・その苦痛

 山道を、ひたすらに走っていた。

 点々と続く、蛍の光に沿いながら。

 目指す敵は、金色の瞳の怪物。


「おおおおッ!!」

「ああああああッ!!」 


 飛来する物体を、最低限の才力発動で斬り捨てていく。木々の間に広がる闇の中で、青い光が散っていった。

 目指すは高山エリア、山の中腹にある最終目的地。要するに、最後の壁との戦い。

 なので、無駄な消耗はアウトだ。

(動く方向、予測、瞬時発動・解除……くそっ!パンクするっ!!)

 規則性がある動きで、巨大な蝶のような練兵獣は多数襲ってくる。精神負荷を受けながらの攻防戦は、恐ろしい難易度だ。なんせ少しでも心の揺らぎに動きを鈍らせれば、咬み千切られてお陀仏なのだから。

「フンッ!!ハッ!!ホッ!!」

 研ぎ澄まされた、徒手空拳による戦闘。敏捷性と正確性を併せ持った、恐るべき魔の拳。

 頭を、次々と飛ばし・潰し。接近した練兵獣を、即座に刈り取っていく。


「――憤ッ!!」

 

 吹き飛び、消し飛ぶ、多数の骸。塞ぐそれらを排除して、道が明確になっていく。

 鬼気迫るその迫力に、味方のこちらが恐怖を抱いてしまった。この野郎、おかしな力が更におかしくなってやがる。

(頼もしいぜ!!ジン太ッ!!)

 練兵獣を縦に斬り裂き、僕は不安の中に希望を感じる。

 力を合わせ、苦難を乗り越え、その先の光に辿り着く。次々浮かぶ嫌なイメージを断ち切って、そんな光景が浮かんでくるんだ。

(想像だけじゃ終わらせねぇ。現実にしてやるっ)

 その為に、僕は戻ってきた。置き去りにしたままでは、とても終われないから。

 自分が始めてしまった事に、きちんとケジメをつけるんだ。

「だからッ!!どきやがれッ!!虫野郎ッ!!」

 決意の炎灯し、気合いの一閃。重ねて、一閃。羽を斬り裂き、地に落とし。中心斬り裂き、青に変える。


「――開いたッ!!」


 斬り開かれた、希望へと続く道。

 或いは、絶望に繋がってるかもしれないそれに。

「行くぞォッ!!」

「おおッ!!」

 僕達は躊躇なく、足を踏み出していく。

 踏み出す足が、同じ方向を向いているなら。恐れを踏み砕き、進んでいける。


(お前となら)


 金色の門が見えた。門の前には、粉々の白い物体が転がっている。歩みは、遅めない。

「……!」

 門の先に広がる山のトンネル、両側にはいくつもの灯り。奥まで続くそれを辿り、走り抜けていく僕とジン太。

 一人じゃない。ないぞ、ロイン。


(越えられる――!!)


「扉!これかっ!」

 一本道の先には、錆びた銅色の扉。取っ手はなく、ドアの中心に鍵穴一つ。

 これしかないだろっ!!

 鍵穴に鍵を差し込み右に回すと、がちゃりと音が聞こえて変化が起きる。

 鍵穴から罅が広がり、扉と鍵を破壊していく。

「いよいよだ」

 震えが出てきた。

 それでも事態は進行する。現実は待ってくれない。止まらず先に進むしか、それを掴む道はなし。

「――!」

 砕け散った扉の先に、足を踏み入れる。

 そこには、酷く懐かしくも思える物体があった。

「修の灯。久しぶり……って、訳じゃないか」

 それなりに広い空間、その中央にて燃える青い炎。光は、岩肌の傷や朽ち果て転がる武器を照らし出す。

 あの時が、もう遠い昔のことのようだ。

(あれは)

 完全に、舐めていたとしか言えない。スカイフィールドの恐ろしさを、理解していなかった。

 あの自信はボロボロになり、世界は何だかぶれて見える。


【考え直せッ。ロインッ】


 だが、僕は立っている。ちゃんと、ここまで来れた。

 僕一人の力じゃ、無理だった。

「終わらせようぜ、ジン太。この、くそったれな修行を」

「……おお。最後まで、油断するなよ」

 言葉を交わし、炎の中へと飛び込む僕達。

 ジン太がズボンのポケットを探って、訝し気な顔をしているのが少し気になった。

(熱くない)

 熱さも冷たさも感じない炎に、溶けていく。

 視界を青に染めながら、僕は思う。


 終わらせた後に、言うことにしよう――。




「……到着か」

 周囲に広がる青い炎は、徐々に収まっていく。右手を見ると、炎と一体化したようになっている。隣のジン太も、そんな感じだ。

「最後の、修練。場所」

 円状の、大きな部屋。天井は暗闇で覆われていて見えず、床は青色に薄く光っていた。壁は、それとは対照的に赤く光っている。……所々、違う赤が混ざっているようだ。

 

「てめぇが、やったんだな?――のっぽ野郎」


 前方。少し距離がある地点に、そいつは立っていた。

 青い炎を纏った、怪物。僕達と同じように、この場に現れたのだろう。

(十メートルを超える人型の巨体が、ブロードソード風の大きな剣を持っている。全身に鎖を巻き、両目だけが見える風貌)

 間違いなく、こいつが最後の練兵獣【廃者】。

 幾多もの挑戦者を苦しめ、廃人に変えてきた野郎。

(動かない。情報通りだ)

 部屋に誰かが入ってきて数分後、廃者は動き出すらしい。何もしなければ、の話だが。いきなりじゃないのは、良いのか悪いのか。

(剣構え……今の内に、なにか見落としがないか確認!剣良し、器の調子良し、相棒良し!大丈夫だッ!やれるぞッ!やれるッ!)

 何度も何度も、自分の中での確認作業を繰り返す。そうやってないと、どうにかなりそうな気分。 

(……??)

 おかしい。なにか大事な事を、見落としている気がする。……見落としている、というのも違う。

 

 ――見えていて、目を逸らしてる。


「……あ」

 気付いてしまった。違和感の正体、現実との差異に。

 ジン太と、声が重なった。つまり、お前も気付いたか。

「赤い……」

 奴の瞳は、血のように赤かった。金色の、筈なんだが。なんで?

「……」

 冷や汗が止まらない。どうしようもない、奈落に落ちてしまったような。

 見覚えがあってしまうんだ。あの色に。

「おいおい」 

 血が冷えているような、心細い感覚。隣の相棒も、険しい表情。

(生まれたばかり・新しく誕生した・才力を持って――練兵獣の才獣)

 どうにか、その可能性を否定しようと考え。


「ギャハ――ギャハははははははははハッははあっっっははっっっはあっはははっっはっははははッッ――!!!」


「ロインッッ――!!」

 切迫した声が。意識を切り替え。

「ッ!!」

「ギャハッハッッ!!」

 近いッ!速いッ!!そんなッ!?


(器―急速―稼働―ッ!!)


 炎纏いし剣ッ!!迫り来る剣ッ!!

 全力防御ッ!!

「ギャハ」

 

 ――@;;::。:;:;」」lpきksをjぢdhspsxhっxsぱあhぴぱあぱspさっさphxpspふぐcぐうさういぅおすさおううッッッ!!?


 一撃ふせい・だ。からだの穴・目鼻・口・みみ・から虫がはいってきて、気持ちわるいッ!?止めてッ!!やめてッ!?きもちわるいッッ!!

「ハハッッ!!」

 またがッ!?こんどは、両耳にでかいネジが突っ込まれて。ぐりぐりぎゅりぎゅり・ねじ込まれて鼓膜がけずられつぶされ脳までッッ!?あああああああッ!!なんだ、やめろッ!!頼むッ!!ゆるしてくれッッ!!

 ああアあッ!!?もうッ!!きえろッッ!!

 

【スカイラウンド優勝っかあじゃっはあが】


 あれもこれもッ!


【待っててくだっだだだががが】


 ぼくを縛るものなんてッ!

 苦しめるもんなんてッ!


【当然だろうがんああああはあっロイン・はあはあおおあはあッ!!】


 きえてくれッ!!

 もうむりだッ!!


 ――――――実に、無様。


「――あ、ぐ」

 らくに、なった。むだに苦しい、おもりなんてこわれた。そうじゃないと、駄目なんだよ。

 ふわりと、うかんでいる。剣の重みはなく。ただ、後ろにながされていった。


【おめぇよぉ】


 なんだよ、くそ野郎。いま、すごい安心してるんだよ。


【まさかと、思うが】

 

 だから、なんだよ。はっきり言いやがれ。


【自分のこと、格好良いとでも思ってんのか?――だせぇよ、マジで】


「――だな」

 あたまに走った衝撃によって、僕の意識はしずんでいった。

 なんか大事なことあったけど、どうでもいいや。

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