表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/161

着地

 薄茶髪の巨人と、黒の怪物。

 シリウスを襲う嵐は、静けさを保ったまま。

 

「――戦闘方法不明。というか、データ皆無です。外部枠なんで。固定武器が出現しなかった所を見ると、ボディか、もしくは特殊スペシャルでしょうが。あの闘技場は、そちらに対応していませんし」

 熱気沸き立つ観客席の三段目に並んで座る、男女三名。

 衣服こそ凡庸なものであるが、その三人は周囲の観客とは違う雰囲気を持っている。種別は、戦士。

「フィル……さて、お手並みを見せてもらおうか。……あの怪物と、同じ名前を持つ者よ」

「……アスカールの北東、かつての強国・スタルト。それを支えていた、傭兵集団・天上の【黒滅鬼】の事、ですね?……味方が十なら既に死、百なら諦め、千なら――信じ、逃げよ。大袈裟な話ですが」

「我々を意識してるよなぁ。その集団の名前」

「でしょう。気になりますね。……まさか、なんて」

 女性は、冗談めいた口調で言う。気持ちは、男二人も同じだろう。


「はは、とにかく試合に期待しようじゃないか!」


「ロインの奴いないじゃないっ!腹でも壊したのかしら?どう思う」

「ううん。ロインはちょっと抜けてるけど、大事な試合の時に体調崩すような失敗は……ないんじゃないかなぁ」

 闘技場南の観客席。一段目。

 帽子を目深に被り、顔を隠すようにしている二人の人物が座っている。

「……その通りね!馬鹿は馬鹿でも、やる馬鹿だもんっ!きっと、凄い試合を見せてくれるわ!」

 見るのは、そこまで好きじゃないけれど。と、付け足す美女。右手に売り子から買ったお菓子の袋を持ち、地味な色合いの服を着た、【殿堂入り】選手、メリッサ。

「……そうなると、良いね。うん。期待しないとね。大事な友達だもの」

 どこか遣り切れない声で、短いスカート姿の女性・メイは言った。彼女もまた、トップクラスの選手であり、今回は参加を自重した。

「なんか、元気ないわねー。あんたがそんなんじゃ、あいつも頑張れないじゃないっ。ファイトよっ」

「……うん。ごめんメリッサ」

 共に人気選手である。見つかったら、ちょっとした騒ぎになりかねない。


「そう言われると確かに、ロインはそういった人種だったな。……目に余る態度もあるが、駄目な部分だけでは無い男だ」


 声は彼の律儀さを表すように、隣のメリッサ達に向けられた。

「少しはあんたの真面目さを分けたいもんだけど、アッシュ」

「……ふむ、真面目なロインというのも違和感だ。むずむずする」

「あははっ、同意!」

 メリッサが仲よく語り合う、緑の短髪男の名はアッシュ。彼も闘技場に設置された石碑に名を刻まれた、殿堂入りの男。

 良いがたいに、紺や黒などで構成された制服がきっちりマッチ。左腕で輝く腕章は、彼の立場を表す。

「風紀委員長様としては、そっちの方が良いんでしょうに」

「規則は大事だが、がちがち過ぎるのも問題だ。少しは、ああいうのがいた方が良いかもな」

「ほんと、あんたって普通に真面目ね。普通に。こんな時でも制服なのは、あれだけど」

 行きすぎた真面目でもなく、ただの真面目男だと評されるアッシュ。

「それでも絵になるのは、イケメン得よねー」

「けなしているのか?……制服については、おれのポリシーのようなものだ」

 若干、不機嫌そうに顔をしかめる。そのアッシュの横顔を見て、彼の美形っぷりをメリッサは再確認。異性なら、思わず惹かれてしまう程度の魅力はあると、彼女は思った。

「まっ!あたしの好みじゃないんだけどっ」

「?好みとは、何の話だ」

「なんでもないですよ。委員長ッ」

 わざとらしい笑みを形作るメリッサを横目で見て、アッシュは怪訝そうに首を傾げた。

「……そうか。とにかく今は、試合に集中だな。あの女性とは、知り合いなのだろう?」

「強さは、よく知らない。けど、ただものじゃないわね」

 出会いの時を、彼女は思い出す。

「まあ、見れば分かるか」

「そうよ!あんたが、わざわざ観戦しやすい環境を作ってくれたんだから」

「おれの、友人のお陰だ」

 周りに座る観客に感謝するように、アッシュは言う。

 返答として、「気にすんなっ」「ついでだ。ついで」「後で、おごれよ!」「と、当然です!」といったものが、返ってきた。


「ありがとな。一緒に楽しもう。――未知の戦いを」


「謎だ何者だ彼女は一体……しかも可愛いこれは好奇心くすぐられ……」

「うおーい。そのマシンガントークは、他の観戦者の迷惑になるだろうが。いいのかい?一流の観戦者さんよ」

「いかん。自重します」

 西側、五列目。

 テンションが上がって、暴走気味のジョン。と、ブレーキ役のマイクが座る。

 注目しているのは、ジョンだけではない。彼の周り、会場全体が、謎の選手に思い巡らす。


「外部からだもの。大したことないんじゃない。天上学院生は、才力に関して突出してるのよ?」

「いーや、俺には分かる。ああいうのが、強かったりするんだよ」 

「見ろよ、あの体格差。二メートルはあんぞ、男。勝負になんのかよ」

「それだけじゃ、決まらないだろうよ。……つっても、勝つのは……」

「綺麗な人だよな。頑張って欲しい!」

「こりゃ、勝負は決まったな」


 果たして、その実力の程や如何にと。

「相手の方は、知ってるんだろ。ジョン」

「もちろんだ。奴の出場回数は二回。固定武器は共に鎚。巨体に似合わぬ、スピードを持っている」

 己の頭に収納した情報を、すらすらと言っていく。

ミストハンマーの、ブレード。集めた情報により、武強ブレードまでにかかる時間は、約二秒と思われる。ミストの波動は、不必要に大きくなく小さく展開された。出力速度は、速い」

「小さいのか、予兆を見極めるのは難しそうだな」

「うん。目が痛くなった。何回か見て、ようやく掴んだぜ」

「その執念を、勉強にもよー」

 ジョンが分析を語る間に、状況は動き出した。


「!どうやら、仕掛けるようだぜっ。目を離すなよ、マイク」


「――おーっと!シリウス選手っ!大きな肉体を機敏に動かしての、連続攻撃っ!フィル選手は防戦一方だーっ!!」

 実況者の言葉通り、試合は一方的な展開を見せていた。

「うまく躱すなっ!!伊達ではないかっ」

 リング上で疾走する、強力な肉体。ストロングによって、シリウスの大きな体は常識外れの動きを発揮する。

「速い……!」

 フィルの顔は、若干だが驚きを表していた。

 シリウスの強さが、想像以上だったのだ。

(想定外ね。これは)

 バックステップを踏みながら、迫り来る鉄塊をかわし続ける。実況は間違いなく正確で、フィルは反撃できない。

 こうなった理由は、当然ある。

(――重い。この【海】では)

 彼女は枷をはめられた状態で、それでも何とか敵の動きに付いていけている。

 しかし、この戦況は脆く崩れるものであった。


「……そろそろ、やるか」


 シリウスが呟くと同時、彼が纏う力が上昇する。

 ストロング・ブレード。共に、全力ではなく。未だ、彼は底を見せていなかった。


「――悪く思うなよ」


「!?」

 一気に、距離が縮む。其処、攻撃範囲内。フィルは、回避行動が取れず。

 シリウスの両腕が、しなやかに動き。

(この男、まさか!)

 彼女の横腹に向けて、赤光の一撃が放たれた。


 ――轟く轟音、吹き飛ぶ体、決着が。


 ――呆れた。ただ、そう思うしかない。


(シリなんとかは【速い】玩具。【想定外】。ブレード発動速度・二秒と少し。時間安定。ミスト・ソル、使用可)

 彼女の心境は、萎えていた。

 この男は、こちらを気遣って手加減している。か弱そうな女性だから?美人だから?どちらもだろう。

 ああ、鬱陶しい。善人気取り。

(ここまで阿呆とは【想定外ね】)

 考えている内に、接近を許す。

(あ、ちょっと、速くなった。あれ、この男まさか)

 この期に及んで、顔への攻撃を躊躇うとは。

 呆れ果て、少し怒ったので。


 右手で、攻撃を払った。

 鎚が、砕け壊れた。

 敵の表情も、砕けた。


(ストロング、精度低下。呆けた顔。面白い。――遠慮しないけど)


 顔面に向けて放たれる、回し蹴り。

 巻き起こる、破砕の竜巻。轟音響かせ。

 シリウスの肉体は、上空に向かって打ち上げられ。


「は?」

「え?」

 仲間達の困惑の視線を受けながら、そのまま敗北の地へ急速落下し―――叩き・着けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=142239441&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ